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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第一巻 第四章 「その闘技場、激闘につき」
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第四章 第八節 ~ 融合魔法 ~


     ☯


「≪ライトニング・パージ≫ッ‼‼」


 デーモンを中心に無数の球体が現れる。

 高速回転を始めたそれらの球体は、やがて稲妻を帯び、デーモンに一定のスリップダメージを与え始めた。


「ギ、ガ、ガ……⁉」


「きゃ!」


 スタン状態になったデーモンは、ダメージを受けた拍子にミラから手を離した。

 空中に投げ出された彼女を、タイミング良く駆けつけたリオナが抱き留めた。


「よっ、と!」


「わわっ!」


 そのままデーモンの元を離れ、十分な距離を取る。

 安全な位置まで後退してから、リオナはミラを地面に下ろした。


「あ、ありがとうございます……」


「……ったく……。テメェは魔術師だろ? 自分から戦士系の間合いに突っ込んでってどうすんだよ」


「あう……そ、その……ごめんなさい」


「……フンッ!」


 しょぼくれるミラから目を()らし、リオナはスタンしたデーモンを注意深く見()った。


 謎の球体から放たれた電撃がデーモンを襲い、バチバチという派手な音を立てて弾けている。

 そこから放たれる閃光(せんこう)は徐々に強くなっていき、限界に達したところで大爆発を起こした。

 思わず目を覆ってしまう程の真っ白な光がリングを包み、(まばゆ)い光の柱が天を()く。


 やがて、巨大な光の柱は収束し、後には表皮を焦げつかせたデーモンが(たたず)んでいた。

 頭の角の一本が欠け、ぜえぜえと肩で息をしている。

 治癒能力は働いているようだが、ダメージが大きいのか、傷の治りが著しく遅かった。


 無敵と思われたデーモンにこれだけの手傷を負わせた魔法に、リオナは息を()んだ。


(……≪ライトニング・パージ≫――レベル60以上、魔法攻撃力Aランク以上で覚える光と風属性の魔法……。レベル60以上の上級スキルが見られただけでも驚きだが、まさか〝融合魔法〟を使えるヤツがいるとは……)


 融合魔法は、その名の通り、二つ以上の異なる属性魔法を組み合わせて放つ魔法である。

 それぞれの属性魔法の術式が破綻しないよう合成しなければならない為、通常の倍以上の集中力と術式への深い造詣が必要となる。

 それ故、世界でもその使い手はごく少数に限られている……というのは、例によってゲームの設定の話なのだが、


(ここはゲームの中じゃない現実の世界。融合魔法なんて代物、一体何処(どこ)のどいつが……)


 そう思って、辺りを見渡す。


 闘技場の柱の一本、その天辺に、一人の獣人の姿があった。


「ハーハッハッハッ! 美しい女性を泣かせるような浅ましい行為は断じて許さんッ‼ もしも、そんな行為に及ぶ下劣な輩がいるのだとしたら――」


 「とうッ‼‼」などという今時時代遅れな掛け声と共に、その人影は華麗にリングの上へと降り立ち、


「――そんな輩は、地上から一匹残らず駆逐するッ‼‼ この私――〝ヴォルフスベルク家第十四代当主〟ハイドルクセン・フォン・ヴォルフスベルクがなッ‼‼」


「コイツかよ」


 一人で高笑いするハイドルクセンに冷めた視線を送る。

 だが、当の本人は全く気に留めた様子がなかった。


 コホン、と一つ(せき)払いを挟んだハイドルクセンは、リオナ達に向き合って言った。


怪我(けが)は無かったかい、二人共?」


「ええ、何とか無事で済みました」


「うむ! ならば行幸ッ!」


 大仰に(うなず)くハイドルクセン。

 彼に向かって、リオナは尋ねた。


「誘導は終わったのかよ?」


「無論、抜かりはないとも。ここにいた観客達は無事闘技場から脱出させたよ。……まあ、全員というわけにはいかなかったが……」


 ハイドルクセンの視線の先には、デーモンに食い千切られて誰の物かもわからなくなった死体が数体転がっていた。

 面識があったわけではないのだろうが、闘技場の王者として、見ず知らずの彼らを大切に思っていたらしい。

 彼は少しの間黙祷(もくとう)(ささ)げると、次の瞬間には、強い決意を瞳に宿していた。


「さて! 彼らの弔いをゆっくりと済ませてやりたいところだが、まずはあの怪物を沈黙させることから始めようではないか‼‼」


「おうよッ‼‼」


「これ以上、あの方達の好きにはさせませんっ‼‼」


 リオナ達が再び攻撃の構えを取る。

 視界が(ゆが)む程の強い闘気が彼らの身体から立ち昇る。

 その鋭い殺気を感じ取ったか、ダウンしていたデーモンが重たい身体を動かし、抗戦の気を示した。


 どちらかが動けば即座に戦端が開かれるという状況で、リオナが口を開いた。


「ふむ……大分弱ってるみてえだが、まだ倒すには至らねえか」


「むう、戦う相手には必ず名乗りを上げるという私の絶対のポリシーを捻じ曲げてまで、大魔法で(だま)し討ちを仕掛けたのだが……」


「……いえ、名乗りを上げるのは毎回自重して頂けるとありがたいのですが……」


 言葉を交わしながら、デーモンを観察する。

 ハイドルクセンの魔法により、確実に大ダメージは入っているようだが、致命傷には至っていない。

 完全に倒し切るには、あと一歩足りていないのだ。


(……アークデーモンは能力の平均値が高い。効率的にダメージを与えるなら、体内にある〝コア〟を狙う必要があるか……)


 問題は、今のデーモンがリオナの知る姿とは違い、分厚い筋肉の(よろい)(まと)っていることだ。

 拳を撃ち込んだ感触からして、恐らく今のリオナの攻撃力では、デーモンの肉の鎧を突破することはできないだろう。


 ボリボリと金髪の頭を()きつつ、リオンが周囲を見渡す。

 せめて武器があれば……


(……ん?)


 何処かで見たような脳内会議に、リオナは待ったをかけた。

 何処でこの流れを目にしたのか、記憶をさらっていく。


 そう、この流れは、昨日≪サンディ≫の海沿いでガダルス達四人の犬人族(クー・シー)を相手にした時のような……


(……そうか、ミラの〝ムーンダガー〟を使えば!)


 そう考えて、思い直す。


(……いや、〝ムーンダガー〟の刃体じゃあ、デーモンのコアまでは届かない。ハイドのサーベルを借りようにも、アレはヤツが魔法を使うのに手放せないし……)


 脳内の知識を総動員し、スパコン並みの超速度で状況に対する解決策を模索する。

 やがて、リオナは一つの可能性に思い当たった。


「……オイ、ミラ」


「は、はい! 何でしょう?」


「テメェの〝ムーンダガー〟を寄越せ」


「〝ムーンダガー〟ですか? 別に、構いませんけど……」


 受け取った短剣を軽く(たた)いたり、仰いでみたりする。

 詳しいステータスは不明だが、見た感じギリギリ基準をクリアしているといったところか。


「……よし、これならイケそうだな!」


 首を(かし)げるミラ達に、リオナは素早く作戦を伝えた。



カッコいい。カッコいいんだけど……


それ以上に残念なヤツなんですよ

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