第三章 第十二節 ~ その頃、ミラは…… ~
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一方、その頃――
「ううぅー……っ! もうっ! リオナさんってば! 一体何処まで行ってしまわれたのですか! こんなに探しても見つからないなんて……」
ミラがリオナの書き置きを見つけてから、もうじき三時間が経過しようとしていた。
彼女が思いつく限り、もう街の殆どは探し尽くしたはずだ。
ここまで探して見つからないとなると、リオナはもう何処か別の場所に移動したか、最悪街を出て行っているかもしれない。
(うーん……この辺の地理には詳しくないはずですから、そう遠くへは行ってないと思うんですけど……。こうなったら、ギルドに捜索願を出すことも考えるべきでしょうか?)
正直、こんな悪戯に付き合ってギルドを頼るのは情けなくて仕方ないのだが、万が一何か厄介事に巻き込まれて、手遅れになってしまっては取り返しがつかない。
折角召喚した異世界人を失わない為にも、プライドなどを優先させている場合ではなかった。
(……しかし、大分街の外れまで来てしまいましたね……。ここからだと、私の足でもギルドまで何分かかることやら……)
溜息を吐き、ギルドに向かって駆け出そうと、両足にバネを溜めた――
その時だった。
ふと、道端で噂話をしていた二人の男性の会話が、ウサ耳に入って来た。
「なあ、聞いたか? 何でも、闘技場でえらい強い新人の獅子人族が、破竹の勢いで勝ち進んでるらしいぜ? あのバキュアすら敗れたとか!」
「へえ、そりゃあよっぽどレベルの高い冒険者なんだろうなあ……」
「ところがどっこい! 何とその新人、レベルは初期レベらしいんだよ! し・か・も! 噂によると、闘技場にしては珍しい女の参加者で、金髪金眼の絵に描いたような超絶美人らしい!」
「マジか⁉ 美人? 美人なのかッ⁉」
「な、気になるだろ⁉ 百聞は一見に如かずだ! 見に行ってみようぜ!」
そう言った二人の男達は、互いに頷いて闘技場の方へと駆け出した。
男達の会話を聞いていたミラは、内心でその〝えらい強いらしい新人〟について考えていた。
(今の話……どう考えてもリオナさんですよね? まさか、闘技場にまで足を運んでいたとは……)
風より速く走れるミラでも、流石に風の噂より速くは走れないようだ。
結果として、こんな街外れまで来てしまったが、情報が得られただけでも吉としなければ。
幸いにして、今ミラがいる場所から闘技場までは、さほど離れてはいなかった。
普通に歩いて三十分程。
彼女の足なら、十分とかからず辿り着ける。
(フフフフフ……待っていてくださいね、リオナさん? すぐに連れ戻して……みっちりお説教タイムといくのですよッ‼‼)
闘技場へと駆けて行った男達の会話の続きが聞こえてくる。
その内容に、ミラはウサ耳を疑った。
「――しかし、そんな美人なら、あの〝幻影〟が黙ってないだろうな」
「ああ、そのことなんだが、聞いて驚くなよ? 何と、既に〝幻影〟がその新人に結婚を申し込んだって話だ。本人と直接決闘して、〝幻影〟が勝ったら嫁に迎え入れるんだと。全く、羨ましい話だよなー」
「「……え?」」
男とミラの絶句が重なった。
こんなデカい街で人探しする方が無謀ですわ




