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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第一巻 第三章 「その異世界人、好戦につき」
28/112

第三章 第十節 ~ ハイドルクセン VS イース ~


     ☯


「皆様、大変長らくお待たせしました! これより、第六十三回チャンピオンズカップBブロックの試合を開始します。Bブロック最初の試合は……いよいよ、あの方の登場です!

 東側コーナー――史上初のチャンピオンズカップ七連覇達成! 二年前の初参加以来、今(なお)この大会で無敗を誇る闘技場の絶対王者! 〝幻影〟ハイドルクセン選手ッ‼‼」


 リオナがバキュアに勝利した時よりも、更に盛大な歓声が巻き起こった。

 控室の中にいても尚鼓膜を破らんばかりに聞こえるその声に、リオナは思わずネコ耳を塞ぐ。

 ここまで来ると、一種の爆撃みたいなものだ。


 数多(あまた)の観衆の視線を一身に受けながらも、ハイドルクセンは笑顔でリング上に(たたず)んでいた。

 彼が幾度となくこの闘技場のリングに立ち、勝利を収めてきたことが(うかが)える。

 前回王者の肩書は偽りではなさそうだ。


(ま、問題はヤツがどれくらいの実力者かってことだな。どうもこの辺りの冒険者のレベルは低いみたいだし、相対的に強いだけの相手じゃないといいんだが)


 獲物を見定めるような視線で、リング上のハイドルクセンを見()る。

 その向こうから、彼の対戦相手らしき少女が歩いて来た。


(……ん? 何だよ、女は珍しいって聞いてたのに、普通にいるじゃねえか。しかも……ありゃまだ子供だぞ?)


 少女は大きな魔法使いの帽子を深く被り、身の丈よりも大きな(つえ)を両手で握り締めていた。

 肩に力が入り、足がプルプル震えている。

 見るからに緊張していた。


 だが、それらの情報よりも(はる)かにリオナの目を引く特徴が少女の腰の辺りに揺れていた。


(……(うろこ)の生えた尻尾――〝竜人族(ドラグーン)〟か。設定では、八種族の中でも絶対数が極めて少ない希少種だ。普段はここから東の方角にある高山地帯に住んでいて、街で姿を見かけることすら(まれ)だったはずなんだが……)


 周りの観客達に彼女を気にした様子の者はいない。

 彼女もまた、闘技場の常連ということだろう。


 ハイドルクセンと向き合った少女がビクビクと(おび)えたまま、しかし、気丈にも顔を上げて、ハイドルクセンに向かって言った。


「ハ、ハイドさん! き、今日こそ、あなたに勝たせていただきますです!」


「やあ、イースちゃんじゃないか! フフフ、いくら君が可愛らしい少女と言えど、私はそう簡単にやられはしないぞ!」


「わ、わかっていますです! でも、わたしだって、何度も負けてられないです!」


 そのやり取りを見るに、二人は知り合いのようだった。

 王者と挑戦者といったところか。


 司会のアナウンスが響く。


「続きまして、西側コーナー――〝チビゲル〟倒して500年! のんびりまったりスローライフのはずが、いつの間にか一流の魔術師になってしまった! 〝竜人の魔法少女〟イース選手ッ‼‼」


 ワーワーという拍手と声援が巻き起こる。

 ハイドルクセン程ではないが、彼女もなかなか人気の選手らしい。


 両者の様子を窺ってから、司会が試合開始のコールをした。


「それでは、参りましょう! 第六十三回チャンピオンズカップ第九試合、ハイドルクセン選手VSイース選手! レディィィィィイイイイ――、ファイッ‼‼」


 試合が始まると同時、イースと呼ばれた少女が正面に杖を構えた。

 油断なく相手を見据えているが、迂闊(うかつ)な攻撃はしない。

 相手の実力を知っているが故の慎重さだろう。


 一方、ハイドルクセンの方は未だに腰のサーベルすら抜いていなかった。

 まるでそよ風でも受けているかのようにイースの視線を受け流し、余裕すら感じられる態度で直立している。


 ハイドルクセンが言った。


「レディーファーストだ。お先にどうぞ」


「むう! また、わたしをバカにして……!」


「バカになんてしていないとも! 私は、女性には降参する時にしか手を上げない主義なのさ!」


 ……薄々気が付いていたことだが、コイツ、バカなんじゃないだろうか。 


(本当にこんなのが闘技場の王者なのか……?)


 不安になるリオナを余所(よそ)に、試合が動き出す。

 先に仕掛けたのは、イースの方だった。


「お、大ケガしても、知りませんですよ!」


 彼女の足元に、赤色の魔法陣が広がる。

 日本語でもアルファベットでもない文字と記号がぎっしり敷き詰められていた。

 イースは瞳を閉じ、集中して呪文を唱え始めた。


「属性・火/生命の羽ばたきよ! 希望となりて、蒼空(そうくう)を舞い踊れ!」


 彼女の詠唱に応じて、魔法陣に光が満ちていく。

 燐光(りんこう)が立ち昇り、辺りを(ほの)かに照らすエフェクトは、幻想的でとても綺麗(きれい)だ。

 ゲームのグラフィックとは到底比べるべくもない。


 同時に、歌うような彼女の声がリングに響く。

 本来なら、魔術師は詠唱省略の効果を持った魔道具を装備しているものだが、彼女は未所持らしい。

 呪文は少しでも間違えると正しく魔法が発動しなくなるから、一から全て自力で詠唱するというのは、かなりの集中力と労力を要する。

 しかし、目の前の少女はそれを苦ともせず、滑らかに呪文を紡いでいた。


 詠唱は既に三節目へと入っていた。

 発動までの時間がやたらと長いから、高威力の術式魔法なのだろう。

 実戦では使い辛いが、今回はハイドルクセンが妙な矜恃(きょうじ)により、攻撃を待ってくれている。

 彼女はこの一撃で勝負を決めるつもりらしかった。


 やがて、彼女の足元の魔法陣が一際明るく輝くと、突如風が巻き起こったようにブワッと何かの気配が吹き出した。

 彼女が杖の先端で狙いを定め、得意の魔法の名を唱える。


「≪ブレイジングバード≫ッ‼‼」


 杖の先端から撃ち出された赤い炎が、巨大な鳥の姿を形作って、ハイドルクセンの方へ真っ直ぐ飛んで行く。

 これに対し、これまで微動だにしなかったハイドルクセンが大きく左へ跳躍した。

 避けたということは、彼にとってもこの魔法が脅威だということだろう。


 ――だが、


「何ッ⁉」


 イースが薄い唇の端を僅かに持ち上げる。

 彼女の放った火の鳥は、跳躍したハイドルクセン目掛けて、その軌道を変えたのだ。

 空中で身動きの取れなかったハイドルクセンは、火の鳥の突進をモロに()らってしまう。

 それだけに留まらず、


「そこですっ!」


 イースが更なる呪文を短く紡ぐ。

 その瞬間、ハイドルクセンを襲った火の鳥が大爆発を起こした。

 どうやら、≪ブレイジングバード≫は二段階詠唱の魔法だったらしい。


 爆炎に飲まれ、ハイドルクセンの姿が見えなくなる。

 イースは鋭い視線で、油断なくその爆炎を見つめていた。

 観客達も固唾を飲んで勝負の行方を見守っている。

 無敗の王者と言えど、あんな魔法を喰らっておいて無傷というわけにはいかないだろう。


 爆発が収まると、そこには真っ黒に焦げたハイドルクセンが佇んでいた。

 (まばゆ)い程の輝きを放っていた(よろい)も、(すす)に覆われてすっかりその輝きを失っている。

 瞳は伏せられ、表情は読み取れない。

 取り()えず生きてはいるようだが、戦闘が続行できるかは不明だった。


 閉じられていたハイドルクセンの瞳がゆっくりと開かれる。

 ライトブルーの(きら)めきを帯びた視線がイースに向けられた。

 そして、


「――あ、熱い! まるで恋の埋火(うずみび)に焦がれてしまったようだッ! 嗚呼(ああ)、私はなんて罪な男なのだろうッ‼」


 芝居掛かった口調で声高に言い放つハイドルクセン。

 間違いなくいつもの彼だった。


 彼が無事だったことに、観客達がホッと胸を()で下ろす。

 しかし、彼に全力の魔法を(たた)き込んだイースは、驚愕(きょうがく)に目を見開いていた。


「う、うそ……この魔法でも倒せないなんて……」


「フフ、残念だったね? まあ、君の熱い気持ちはよく伝わって来たとも。ならば私も、その想いに応えなくてはね」


 そこで、ハイドルクセンはようやく腰のサーベルを引き抜いた。

 剣先をイースに向け、


「無論、手加減はするが……少しだけ痛いのは我慢してくれたまえ!」


 ハイドルクセンが構えたサーベルの先に白い魔法陣が現れ、そこから無数の光弾が射出される。

 光属性の初級魔法≪ホワイトバレット≫だ。

 威力は低いが連発できる為、牽制(けんせい)に使える。


「わ、わわっ!」


 狙われたイースは、(つまづ)きそうになりながらもどうにか迫り来る光弾を(かわ)す。

 敏捷性(びんしょうせい)のパラメーターは低いのだろう。身のこなしから見て、回避は苦手なようだった。


 それでも、ハイドルクセンはこの程度の魔法で彼女を倒せるとは思っていなかった。

 彼女の逃げる方向を事前に予想し、本命の魔法を用意している。


「≪ショックレイ≫!」


「しまっ……!」


 ハイドルクセンの放った無数の光線、その内の一発が命中する。

 ダメージはないが、魔法の効果によりイースが一瞬スタンする。

 その上で、ハイドルクセンは彼女を確実に仕留められる魔法を重ねて発動させた。


「≪ホーリーバインド≫!」


 スタンしていたイースの手足に、魔法で作られた光の鎖が絡みつく。

 スタンと同じ相手の行動を不能にする状態異常――バインド状態だ。

 あらゆる行動を封じるスタンと違って、バインドは対象の動きを封じる程度だが、スタンよりも持続時間が長い。

 その気になれば、術者が魔法を解除するまでバインドを維持することもできる。


 ≪ショックレイ≫を喰らった時に、イースは杖を落としてしまっていた。

 別に杖が無くとも魔法は使えるが、威力と精度が格段に落ちる。

 運良く当たったとしても、目の前の強敵には通用しないだろう。

 イースには、反撃の手が無かった。


 何もできないイースにハイドルクセンが近付く。

 彼女の顎をくいと持ち上げ、諭すように(ささや)いた。


「私の勝ちだね? 君はバインド状態のまま、得意の魔法を撃つこともできない。大人しく降参したまえ」


「く……イヤです、自分から負けを認めるなんて! そ、そんなに負けを認めさせたいなら、わたしに攻撃したらいいです!」


「冗談だろう? 私に幼気(いたいけ)な少女を殴れ、と? それこそできるわけがないじゃないか! ……しかし、君が降参してくれないと言うならば、仕方ないな……」


 ハイドルクセンはそう言うと、イースの両のほっぺたをつまみ、思い切り引っ張った。


「ふにっ⁉」


「フフフ、こうか? それとも、これがいいのか?」


ひゃ、(や、)ひゃめてくらはい(やめてください)! ほっへが(ほっぺが)のひひゃいまふれふ(伸びちゃいますです)ーーっ‼」


「やめて欲しければ、負けを認めるのだー!」


 みょーんみょーんと伸びる柔らかなほっぺたで、イースは完全にハイドルクセンの玩具(おもちゃ)にされていた。

 その光景を見ていた観客達が、(そろ)って和やかな笑みを浮かべている。

 多分、過去の大会でも同じような展開が繰り広げられたのだろう。


 暫くはハイドルクセンの攻撃(?)に耐えていたイースだが、我慢の限界に達したか、


わ、わかりまひた(わ、わかりました)ーー! わたひのまけれふ(わたしの負けです)ーーっ‼‼」


 イースの降参を聞いたハイドルクセンが、彼女のほっぺたから手を離す。

 弄ばれた頬は赤くなり、彼女の大きな瞳には涙が浮かんでいた。

 ちょっとやり過ぎたかなと思ったハイドルクセンは、優しく彼女の頭を撫でた。


「試合終了――ッ‼‼ リングに立っていたのは――〝幻影〟ハイドルクセン選手だあぁぁぁッ‼‼ 流石(さすが)闘技場の絶対王者ッ! イース選手渾身(こんしん)の魔法を真正面から受け止め、危なげなく二回戦進出ですッ‼‼」


 試合終了のアナウンスが響き、第九試合の勝者が決まる。

 当然のように勝利を収めた前回王者にも、彼と善戦を繰り広げた幼い少女にも、惜しみない拍手喝采が浴びせられた。


「よ! 二人とも見事だったぞー!」


「流石は〝幻影〟だぜ! 次も楽しませてくれよ!」


「イースちゃ~~んっ! 次こそリベンジだよー!」


 注目されることには慣れていないのか、イースは戦いの集中力が途切れた途端、顔を真っ赤にしてそそくさと控室へと去ってしまった。

 一人リングに残されたハイドルクセンは、(きびす)を返して、悠々と試合場を後にした。

 途中、観客へのファンサービスは忘れない。


(……なるほど。これがこの闘技場の強者の実力、か)


 この大会に参加している他の半端な選手とは、頭一つ飛び抜けた強さだ。

 今の試合では実力の全てを出してはいなかったようだから、正確なレベルまではわからない。

 だが、相当な経験を積んでいることだけは疑いようがなかった。

 魔法の威力、耐性、状況に対する判断力……どれをとっても、一流と呼んで差し支えない。


 リオナが見た限り、この周辺で彼を超える実力の持ち主はいないと思われた。

 ゲームで言えば、メインストーリーの終盤で出て来るNPCくらいの実力が彼にはありそうだった。

 間違いなくこの大会一の強敵と言える。しかし、


(……負けるつもりは更々ねえけどな!)


 控室に戻って来たハイドルクセンと短く言葉を交わす。


「……認めてやるよ。テメェは、オレと拳を交えるに相応(ふさわ)しい相手だ」


「それは光栄だ。私としても、君を(もら)い受けるに充分な実力を示せてよかったよ」


「それとこれとは話が別だ。いくらテメェが強かろうと、オレに勝てなきゃ話は(まと)まらねえ。オレを嫁にしたいってんなら、力尽くで認めさせるんだなッ!」


 リオナが控室を出る。

 この異世界に来て何度か実戦を経験しているが、ここまで気分が高揚したのは初めてのことだった。


「……ああ、勿論(もちろん)だとも」


 一人控室に取り残されたハイドルクセンが、小さく(つぶや)いた。



王者の実力

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