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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第一巻 第三章 「その異世界人、好戦につき」
26/112

第三章 第八節 ~ リオナ VS バキュア② ~


     ☯


 リオナの雰囲気が変わる。

 いや、雰囲気だけではない。

 構えやステップの踏み方、呼吸法まで変わっていた。

 それらの変化は、遠目から見ている観客達にはわからなかったが、数々の実戦を乗り越えて来たバキュアは、瞳に警戒の色を宿した。


(……何か別の手が来る!)


 ひっそりと緊張を高め、迎撃の構えを取るバキュアに対し、リオナは、


「そんじゃ……いくぜッ⁉」


 彼女の身体から、ブワッ!と風にも似た闘気が吹き上がるのと同時、リオナはバキュアの懐に潜り込んでいた。


「ッ⁉」


 そこから繰り出される強烈なアッパーを、バキュアは背中を反らしてどうにか(かわ)した。

 反撃とばかりに、上から拳を打ち下ろそうとする。が、


「まだまだッ!」


 リオナの攻撃は続き、バキュアは受けに回らざるを得なくなった。

 ジャブ、ジャブ、ジャブ、右フック、左フック――に見せかけて左ボディが飛んで来る。

 既視感のある攻撃に、バキュアが奥歯を()んだ。


(ま、まさか……!)


 次に繰り出される攻撃は予想がついている。

 バキュアは大きく身をのけ反らせ……


「残念、そうはいかないんだな!」


「なんッ⁉」


 バキュアの予想では、次は渾身(こんしん)の右キックのはずだった。

 しかし、リオナが繰り出してきたのは、左肩によるタックルだった。


 いくら小柄で女性で初期レベルとは言え、リオナは獅子人族(ライオネル)だ。

 頑強な肉体から発揮される怪力は、体勢の崩れた猫人族(ケット・シー)如きに受け止められるものではない。

 バキュアは2、3m程ノックバックした。


 追撃を恐れたバキュアは、そのまま後ろに跳んで大きく距離を開ける。

 ダメージは大したことないが、それよりも内心の動揺が激しかった。


 仕切り直し後からのリオナの動き――あれは間違いなく……


「……まさか、貴様も〝ガロ流拳術〟の使い手だったとは」


「あん? オレはそんな格闘術知らねえぜ? 今日初めて見た」


「何だとッ⁉ 先程の連続攻撃、あれはまさしく我が流派直伝≪崩城(ほうじょう)≫ではないかッ⁉」


「ほう、そんな大層な名前付いてたのか、あの技」


 リオナはケラケラと笑いつつ、


「安心しろ。アレはテメェの技を見て自分なりに改良しただけで、テメェの技そのものじゃねえ。敵の技を盗んでそっくりそのまま使うなんて、芸が無いにも程があるからな」


「改良……だと?」


 バキュアが首を振る。


「有り得ん……ガロ流拳術は、歴代の師範達が数百年の年月を重ね、改良に改良を重ねてきた由緒正しき古武術だ。それが、ガロ流の〝ガ〟の字も知らぬ若造に、たった数度の立ち合いで洗練されるなど……」


「だから、自分なりにって言ったろ? オレが使えばまあまあ強えが、他のヤツには使い辛い。そういうハンパな改造しか、オレにはできねえよ」


 肩を(すく)めて言うリオナに対して、バキュアはまだ信じられないとでも言いたげだ。

 自分が何年、何十年と人生を賭けて修練してきた武術が、こうもあっさり使いこなされるなんて……


(……ま、今回は既に似た格闘技を体得していた、ってのも理由の一つなんだがな)


 ガロ流拳術は、現実世界で言うボクシングに近い動きだった。

 ボクシングその物とは若干違っていたが、身体の使い方はそう大きく変わらない。

 基本となる土台があれば、見様見真似(まね)でもどうにかなるものだ。


 再びリオナが攻め込む。

 既にバキュアの動きを見切っているリオナは、彼がどういうガードをするのか、どういうカウンターを狙ってくるのか、手に取るようにわかる。

 彼と同じ呼吸、彼と同じ歩法、彼と同じ(たい)(さば)きで、着実に体勢を崩しにかかる。


 目に見えて形勢が逆転し始めた。

 レベル1のルーキーが、一道場の達人を圧倒するという有り得ない展開に、観客は我が目を疑った。

 呼吸すらも止めて、彼らは二人の戦いに見入っていた。


「な、なあ……あの子、バキュアを押してないか⁉」


「いいぞー‼‼ もっと攻めろーーっ‼‼」


「……くっ! あまり、調子に乗るなよ‼」


 バキュアが崩れた体勢から、右によるブローを繰り出す。

 型には無い、彼独自の反撃技だったが、それすらもあっさりリオナに読み切られた。


「そいつは悪手だな。その体勢からじゃ、もう回避もできねえだろ?」


 リオナの右ストレートがバキュアの鳩尾(みぞおち)に吸い込まれる。

 彼女の言った通り、バキュアはもう回避も防御もできる体勢にない。

 この一撃は()らうしかなかった。


(だが、所詮はレベル1の攻撃だ! そんな致命傷には……)


 ならないはず――

 バキュアのその希望は、次の瞬間には絶望へと変わっていた。


「ごはあッ⁉」


 重い衝撃と共に胃液が逆流して来そうになるのを必死に(こら)える。

 どうにか間合いを開けて二撃目は避けたものの、受けたダメージが予想以上に大きい。

 呼吸が詰まり、バキュアは思わず膝を突いてしまった。


「ぐぅ、馬鹿な……たかが初期レベルのレベル1に、ここまでの攻撃力があるはずが……」


「ふむ……」


 それは敵を打ち据えたリオナ自身も疑問に思っていた。


 リオナのレベルは冒険開始直後のレベル1。

 あれからレベル50の冒険者を一人倒したりもしたが、流石(さすが)にその程度でレベルが上がったり、ポイントを得たりはしていないだろう。

 加えて言えば、今回はあの犬人族(クー・シー)に使ったような特別な武術も使っていない。

 にも関わらず、拳に返って来た感触は、確かに敵を倒したと感じられるものだった。


 攻撃力が低いのに、敵に大ダメージを与えることができた理由。

 それは――


(……〝クリティカルヒット〟ってヤツかな。本来は確率で発生する運要素だが、どうやらこめかみとか鳩尾とか、人体の急所を狙うことで確実に発生させられるらしい。流石は異世界。ファンタジーでも現実ってか)


 クリティカルヒットになると、相手の防御力強化を無視して大ダメージを与えることができる。

 つまり、レベルの低い今のリオナでも、相手にダメージを与えることができるということだ。


 段々この異世界での戦い方がわかってきたことに満足しつつ、リオナは肩で息をするバキュアに向かって言った。


「ほら、どうした? まだ戦えるだろ? 出し惜しみしてねえで、さっさとテメェの全力を見せてみろよ」


 リオナの挑発的な態度に、バキュアが歯噛みする。

 しかし、高貴な武人だけあって、感情を表に出すようなことはしなかった。

 代わりに、バキュアはダメージを受けた身体を(かば)いながらゆっくりと立ち上がり、鋭い視線でリオナを見()った。


「……そこまで言うなら、見せてやろう。我が流派に伝わる奥義……その真髄をなッ‼‼ 死んでも恨むなよ、娘ッ‼‼」


 バキュアの気配が変わった。

 瞳を閉じて息を長く吐き、心と身体を落ち着かせる。

 元々冷静沈着な戦士だったが、凡そ戦闘中とは思えない程の平静さだ。

 彼が極限まで集中力を高めているのがわかる。


 チャージ中の隙を突くということもできたが、リオナはそんな無粋な真似はしない。

 折角奥義を見せてくれると言ったのだから、最後まで楽しまなくては損だ。


 観客達も、集中力を高めるバキュアの姿を、固唾を飲んで見守った。

 バキュアの全身から陽炎(かげろう)のような闘気がゆらゆらと立ち昇り、燐光(りんこう)を放ち始める。

 やがて、彼の精神は限界まで研ぎ澄まされ、山奥の秘境を思わせるような静寂が訪れた。


 バキュアは右手に全ての力を集中させ、腰を使って思い切り引き絞った。


「――奥義≪徹甲(てっこう)≫ッ‼‼」


 バキュアが一瞬にして距離を詰める。

 〝甲羅を徹す〟――その名の通り貫通の意志を宿した拳が、一切の(よど)みなくリオナに突き出された。

 これだけ力の()められた一撃を喰らえば、リオナのような華奢(きゃしゃ)な肉体など、跡形もなく千切れ飛ぶに違いない。


 当たれば即死。

 そんな一撃必殺の技を前に、リオナは豪快に笑ってみせた。


「ハッ! くだらねえッ‼」


 バキュアの拳がリオナに届く。

 息もできない程の風圧が、リオナの金髪を巻き上げる。

 鈍化した世界で、観客達の息を()む音が聞こえた。




 派手な爆音と凄まじい激震が、闘技場を包み込んだ。




他人の武術を盗むという廃人

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