第三章 第七節 ~ リオナ VS バキュア① ~
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互いの初手は右ストレートによる通常攻撃だった。
攻撃の軸が一点で交じり合い、ギリギリと鬩ぎ合う。
しかし、その拮抗は僅か一瞬しか持たなかった。
弾き飛ばされたのはリオナの方だった。
無理にその場に足を止めることなく、相手の力を利用してバク転し、追撃のアッパーを躱す。
下がるリオナに対して距離を詰めようとするバキュアだったが、リオナの投げた〝土の結晶〟により、足止めを余儀なくされていた。
リオナが使った〝土の結晶〟は、落下地点から数m範囲に砂地獄を作り出すというものだ。
範囲はそこまで広くはなく、ジャンプで飛び越えられる程度のものだったが、相手が跳ぶのに合わせてクリスタルによる攻撃を仕掛けるというリオナの意図を読み切り、バキュアは追っては来なかった。
その辺りの読み合いも実に手慣れている様子だ。
「フン、この程度の罠には引っかからねえか」
「私を甘く見るな!」
バキュアの身体が淡く輝く。
そう思った瞬間、バキュアの姿はリオナの目の前にあった。
「何⁉」
「はあっ!」
バキュアが怒涛の連続攻撃を仕掛ける。
ジャブ、ジャブ、ジャブ、右フック、左フック――に見せかけて左ボディが飛んで来る。
それらをどうにか見切り、リオナは身を捻って躱したり受け流したりする。
ガードをしないのは、この手の格闘家には、ガードの上から殴れるスキルがいくつかあるからだ。
「ふんっ! 上手く避けるではないか! だが、避けるだけでは私を倒せんぞ⁉」
「チッ、そう焦ってくれるなよ!」
防戦一方。
反撃したいところだが、最初に打ち合った感じ、攻撃力は完全に相手の方が上だ。
真っ向から迎え撃つことはできない。
このまま受け続けても、こちらの体力が尽きるのが先だろう。
バキュアとの距離を開けるべく、リオナは瞬時にポケットに手を伸ばし、〝火の結晶〟を足元に投げつけた。
自分も爆風に巻き込まれるが、上手く爆発に乗る体術をリオナは身に付けていた。
爆炎が晴れる。
突然の不意打ちにも関わらず、バキュアは無傷だった。
爆風を上手く凌いだ技術は流石である。
十m程離れた位置から、両者は睨み合った。
リオナは衣服に付いた泥や煤を叩きつつ、バキュアのステータスを考察した。
(……装備しているアイテムに、レベル制限や特殊効果は無い。ヤツの今の状態が素のステータスと見ていいだろう。戦い方から見て、攻撃力よりも敏捷性に重きを置いてるようだから――レベル30強といったところか?)
猫人族は八種族の内、最速を誇る種族である。
レベル30程度と言えど、敏捷性にポイントを振り切れば、かなりの速さになる。
(……しかし、妙だな? ≪サンディ≫で名が売れてるくらいだから、もっと強いモンだと思ってたが……)
無論、プレイヤースキルが高いのは疑いようが無い。
先程バキュアが距離を詰めて来た時に使ったのは、スキル≪シフトグラブ≫。
通常は距離を詰めた後に相手を掴み、その場で0.2~0.3秒程ダウンさせるのだが、シフト後の掴みをキャンセルするという使い方は、初心者にはなかなか真似できない。
駆け引きのレベルも高いし、実戦の経験は豊富なようだが……
「……どうした? 攻撃して来ぬのか?」
「……いや」
思索を打ち切り、目の前の戦いに意識を戻す。
引っかかりはしたが、それは今考えることではない。
自分はレベル1の身だ。
いくら敏捷性重視の猫人族の攻撃とは言え、一撃貰っただけで戦闘不能に陥るだろう。
他の事に現を抜かすなど許されない。
気を引き締め直し、バキュアを見据える。
「そこまで言うなら、今度はこっちから攻めさせてもらおうかッ!」
10mの距離を一息で詰める。
何も考えず、真正面から正拳突きを放ったが、それは当然のように避けられてしまう。
後を追って繰り出した拳も、悉くバキュアを捕らえるには至らない。
流れるような連続攻撃だが、バキュアも達人の腕を持っていた。
躱し、捌き、あろうことか反撃まで織り交ぜてくる。
数々の武芸を修めたリオナも、内心舌を巻いた。
「へえ、やるじゃねえか」
「ふ、貴様こそ……型は申し分無いな。だが……!」
リオナの攻撃を捌いていたバキュアが、突然足を止めた。
リオナの拳がバキュアの横っ面を捉える。
しかし、バキュアは重心を落として、その場に踏み止まった。
「レベルが、足りないッ‼‼」
「ぐッ⁉」
リオナの拳を受けながらも、バキュアは渾身のボディブローをリオナの腹に捻じ込んだ。
鈍い痛みがリオナの頭に届き、意識を刈り取ろうと駆け巡る。
気絶は舌を噛んで堪えたが、踏ん張りが効かず、思いっきり吹き飛ばされてしまった。
地面を派手に転がっていくリオナ。
その勢いは止まらず、観客席下の石壁にぶち当たった所でようやく停止した。
それを見ていた観客達が、悲鳴にも似た声を漏らした。
ダンプカーにでも跳ねられたような速度で吹っ飛んで行ったリオナを見て、皆心臓を鷲掴みにされる思いだった。
死んでしまったのではないか。そんな不安すら頭を過った。
――だから……
次の瞬間、何事もなかったかのように平然と起き上がったリオナを見て、誰もが息を呑んだ。
「んなっ⁉」
驚愕し、言葉を失う観客達を余所に、リオナは確かな足取りで開始位置まで戻ると、ボリボリと金髪の頭を掻きながら言った。
「あー、痛え。ようやくまともなダメージを経験した気がするわ。なるほど、確かにレベル1の防御力じゃあ、おいそれと攻撃を喰らうわけにはいかねえ。不便なモンだなぁ……」
ケラケラと軽く笑って見せるリオナに、戸惑いを隠しきれない観客達。
唯一、攻撃を喰らわせた本人だけが、彼女の無傷の絡繰りに気が付いていた。
「……わざと自分から派手に吹き飛んで、衝撃を和らげたか。大した判断力だ」
「自慢する程のモンじゃねえよ」
リオナが構え直す。
そして、先程までよりも遥かに獰猛で――心底楽しそうな顔をして、言った。
「さ、小手調べは終わりだ。ここからは、まあ――それなりの本気、出させてもらうぜ?」
達人同士の戦いよ




