第三章 第二節 ~ リオナの悪戯 ~
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「ん、ん~~~……」
ミラが目を覚ましたのは、リオナが宿を出てから約一時間後のことだった。
普段は早寝早起きの彼女も、異世界人を喚ぶという重責から解放された所為か、いつもより大分寝過ぎてしまった。
日光の差し込む部屋を見て、
「ハッ⁉ イケないイケないのですイケないのですよ! つい寝過ぎてしまいました! 大仕事が終わったからと言ってうっかり気を抜いてしまい……。あ、リオナさんはもうお目覚めに……」
そう言って、隣のベッドを見遣るミラだったが、
「……あや?」
ベッドは既にもぬけの殻となっており、剥がれたブランケットが無造作に置かれているだけだった。
部屋中見渡しても、彼女の姿は無い。
先に食堂で朝食でも取っているのだろうか。
(リオナさん……? 何も言わずに何処へ行ってしまわれたのでしょう?)
彼女の行方を気にしつつ、のそのそと着替えを済ませる。
そのうち戻って来るだろうと思っていたのだが、身支度が済み、暫く待ってみても、一向に彼女が帰って来る気配がなかった。
(ま、まさか……何かトラブルに巻き込まれていたり……?)
特にリオナはあの性格だ。
何か面倒事に巻き込まれていたり、自分から首を突っ込んで行ったりしている可能性は高い。
(ど、どどど、どうしましょう⁉ あのリオナさんですから無事だとは思いますが、でも万が一致命傷を負って動けずにいたりしたら……仮にそうだとして、私なんかが助けに行けるかどうか……)
頭を抱えるミラ。
どうにも落ち着かない様子で、不意に立ち上がったり座ったり、また立ち上がって部屋の中をぐるぐる歩き回ったりしている。と、
(……ん? 何でしょう、これ?)
テーブルの上に一枚の書置きが置いてあるのを見つけた。
それを手に取って、書いてある内容を読んでみると、
「『――テメェがいつまで経っても起きなくて暇なので、ちょっくら旅に出ます。死ぬ気で探してください』……何です、この文章? 探して欲しいのか欲しくないのか、どっちなんですか?」
名前は書いてなかったが、これが誰の手によるものなのかは考えるまでもない。
「まったく……またリオナさんの悪ふざけでしょうか? 『死ぬ気で探してください』とか書いてありますが、まあ適当に探していれば見つかるでしょう」
溜息を吐いて、渋々彼女を探しに行こうと足を向ける。
だが、彼女の行き先に全く以て見当が付かず、踏み出した足はそこで止まってしまった。
「リオナさん……出かけるならせめて行き先も書いておいてくださればよかったのに……」
何処かにヒントでも書いてないかと、試しにメモの裏を見てみる。
すると、
「……あや? ちゃんと他にも書いてあるじゃないですか。何々……」
そこでミラはフリーズした。
さながらウイルスに感染したウィン○ウズのように、完全に思考能力を停止させた。
書いてある文字が頭に入って来ない。
いや、入っては来るが、その意味が理解できない。
えーと、これはつまり……
「……な……何言っちゃってくれてるんですかあの異世界人様はーーーーっ⁉」
ようやくフリーズが解けたミラは、ウサ耳を戦慄かせ、赤い瞳にギラギラと闘志を燃やして文面を睨みつけた。
「こ、こうしてはいられません‼ すぐに後を追わないとっ‼‼」
ミラは陸上選手顔負けの正に芸術品とも言うべき完璧なクラウチングスタートの姿勢を取ると、
「フ……フフフフフフ……リオナさん、この私を本気で怒らせたこと、後悔するといいのです! 帰って来たら……たっぷりみっちり爪先からネコ耳の先まで私のお説教を聞かせてやるのですよっ‼‼」
「うーーりゃああぁぁぁぁああああーーーー‼‼」などという兎にあるまじき雄叫びを宿に残して、疾風の如き速度で街に駆け出した。
彼女の巻き上げたつむじ風で宙を舞った書置きには、実に達筆な字で、こう書き記されていた。
『――因みに、正午までにオレを捕まえられなかった場合、オレが世界を滅ぼします。ま、せいぜい頑張ってくれよ?』
早速、異世界滅亡の危機に見舞われたようです(救世主によって)




