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初期レベ廃人ゲーマーと獣人少女の異世界終焉遊戯<ワールズエンド・ゲーム>  作者: 安野蘊
第二巻 第五章 「その異世界人、反攻につき」
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第五章 第一節 ~ 獅子奮迅 ~


     ☯


「ミラ、手筈(てはず)通りにいくぞッ‼‼」


「了解です、リオナさんっ!」


 戦闘が始まると同時、リオナは前に、ミラは後ろに跳躍していた。

 迫るドモスとウォーリアに、リオナが単身立ち向かって行く。

 ミラは攻撃の届かない後方に逃れ、魔力を練り上げ始めた。


(チャンスは一度きり……こちらの狙いを悟られないよう、慎重に……!)


 一方、ドモス達と衝突したリオナは、ドモスの二刀の斬撃とウォーリアの二手の手拳が飛び交う嵐の中に、躊躇(ちゅうちょ)なく飛び込んで行った。

 あらゆる方向から襲い来る怒涛(どとう)の連撃に対し、彼女はまるで踊っているかのような華麗な動きで、全ての攻撃を避け続ける。

 だが、ドモス達のコンビネーションもなかなかのもので、攻撃を()らいはせずとも、反撃の隙が見つからなかった。


 一方的に攻められていながら一向に退こうとしないリオナに対し、ドモスが薄く笑った。


「どうした? 貴様にしては随分手ぬるいではないか。後ろの娘と共に戦いはしないのか?」


「ハッ、バカ言え! アイツは唯の大人しい草食動物だぜ? オレ達の戦いに手出しされても、足手まといにしかならねえよ!」


「ほう?」


 一旦ドモス達と間合いを切る。

 ワザと額を拭い、疲れたような様子を見せるが、ドモスもウォーリアも下手に追って来る素振りは見せなかった。


(……釣られねえ、か)


 『ミラが足手まとい』というのはリオナのブラフである。

 彼らの意識をミラから()らし、彼女が魔法の準備に集中できるよう意図したのだが、彼らの反応を見るに、どうやら効果は薄いようだ。

 リオナが下がっても追って来なかったのは、警戒している証左だろう。


(……流石(さすが)にこんなあからさまな(わな)じゃあ無理だな。もっと別の方法を考えねえと)


 激しい戦いに身を投じながらも、冷静な頭で思考する。

 どれだけ心と身体がヒートアップしようと、蜘蛛(くも)のように狡猾(こうかつ)で明敏で周到な策を張り巡らせ、勝利への一手を打つ。

 それが〝獣王〟の流儀――!


 軽くステップを踏み、調子を整えたリオナは、再びドモス達に突貫して行った。

 これを迎え撃つ為、ドモスは右から、ウォーリアは左から、それぞれ大剣と手刀を振り下ろす。


 迫る挟撃に対し、リオナは、


「≪パーシャルゴースト≫!」


 瞬間、青く半透明なリオナの分身が彼女の両隣に現れる。

 現れた分身には実体が在り、本体の動きにシンクロして、ドモスとウォーリアの攻撃を同時に(さば)いた。

 攻撃後の隙を突き、彼らに鋭いパンチを喰らわせる。


 ≪パーシャルゴースト≫はゲーム内に登場するスキルだが、レベルが上がったことで、リオナにも使えるようになった。

 戦い方の幅が大きく広がったことに内心で喜色の笑みを浮かべつつ、よろめいたドモスとウォーリアに更に渾身(こんしん)のハイキックを打ち込む。


「ぐうッ!」


 ドモスが追撃を嫌って距離を取ったところで、リオナの分身は消えてしまった。

 ≪パーシャルゴースト≫で作られる分身は、せいぜい二、三行動分と効果が短いのである。


 一方、距離を取らずにその場に踏みとどまったウォーリアは、分身が消えたと見るや否や、リオナに果敢に攻め込んできた。

 長い爪の生えた手刀を一息に三度も振るい、逃げることを許さない。

 金眼が回る程の素早い連撃に、リオナは獰猛(どうもう)に口角を()り上げた。


「ハハッ、いいぜいいぜ! それでこそ〝魔王〟の異名を冠するに相応(ふさわ)しいッ!」


「グオオオオォォォォオオオオオオオ――――ッ‼‼」


 彼女の言葉に応えるように、ウォーリアの攻撃が速度を増していく。

 しかし、リオナは手首を使った最小限の動きでこれを捌き、ウォーリアとの敏捷性(びんしょうせい)の差を覆した。

 多少レベルを上げたところで、ボスとプレイヤー間の圧倒的ステータス差を埋めることなどできないが、それをカバーするリオナの技術は、流石の一言に尽きる。


 能力値では勝っているはずなのに、一向に攻撃の当たる気配がしない。

 それに焦ったウォーリアが力尽くで(たた)き潰そうと、威力重視のテレフォンパンチを繰り出してきた。

 人の上半身程はありそうな巨大な拳が、戦車砲の如き速度と勢いで迫る。


「≪カウンターシールド≫!」


「グギャッ⁉」


 リオナの眼前に、薄いガラスのような壁が現れる。

 その壁にウォーリアの拳がぶつかった瞬間、ウォーリアは突っ込んで来た時以上の速度で派手に吹き飛ばされ、向こうの壁に身体を埋もれさせた。


 ≪カウンターシールド≫――レベル40以上で戦士クラスが覚えられるカウンタースキルである。

 相手の攻撃をその二倍の威力を(もっ)て跳ね返す。

 壁が現れるのは一瞬で、発動のタイミングがシビアである為、上級プレイヤーでもまともに使いこなすのは難しい。


 行動不能に陥ったウォーリアと入れ替わるように、今度はドモスが二振りの大剣を手に襲いかかってきた。

 こちらは速度重視のウォーリアとは一転して、一撃一撃の威力に重きを置いている。

 硬い頭蓋も強い意思も(たぐい)(まれ)なる技術も、全てを断ち斬る強者の一刀。


「ふんッ‼‼」


 右手に握られた大剣がリオナ目掛けて振り下ろされる。

 左手の大剣は、リオナが一撃目を避けるか退けるかした隙に繰り出すつもりなのだろう。

 リオナのこれまでの行動を観察した冷静な攻撃だ。


 受け流すのも、≪(から)(ころも)≫で避けるのも、≪玉鋼≫で弾き返すのも、彼には一度見せてしまっている。

 同じ手が二度も通用する保証はない。

 ならば、別の一手が必要である。


「――それじゃ、こんなのはどうだ? ≪白式(バイしき)(とう)(しん)(きゃく)≫ッ!」


 リオナがその場の地面を強く踏み鳴らすと、片足に集約されたエネルギーが着地と同時に地面に放出され、岩盤が砕けて、彼女の半径2、3mの地面を大きく陥没させた。


「むうッ⁉」


 突如として砕けた地面に足を取られたドモスはバランスを崩し、リオナを狙った剣は彼女の金髪を数本(かす)めながら、明後日の方向へ逸れて行った。

 身体の重いドモスは、崩れた体勢を瞬時に立て直すことができず、左手の剣を振るうこともできない。

 そこへ、身軽なリオナは跳び上がりながらの強烈な回し蹴りを叩き込んだ。


「とりゃッ!」


「ぐあッ!」


 顔面に蹴りを受けたドモスは何とかその場に踏みとどまろうとするも、不安定な足場では踏ん張ることもできず、大きくよろめいた。

 その隙をリオナが間髪入れずに畳みかける。


「≪砕撃(さいげき)≫ッ!」


 全身全霊を込めた正拳突きを真っ向から放つ。

 これに対し、ドモスは二振りの大剣をクロスさせてリオナの拳を受け止め、直撃を避けた。が、


「ぬうぅ……ッ!」


 攻撃の勢いを止め切ることはできず、両足で地面を削りながら、フィールド端まで後退を余儀なくされた。

 ともすれば地面から引っこ抜かれそうになる衝撃に、ドモスは思わず膝を突いてしまう。


 この前とは明らかに威力の違う拳を受けて、ドモスはダメージよりも先に驚愕(きょうがく)を感じていた。

 前回の戦いからまだ三日。たったそれだけの期間で、彼女の攻撃力は飛躍的に上昇している。


 だが、それもそのはずである。

 彼は知らなかったが、リオナはゲームでの知識を()かしてゴールデンエッグを倒しまくり、たった一晩でレベル1からレベル50の身体へと鍛え上げたのだ。

 最早、三日前の彼女の低ステータスなど見る影もない。


(……今のヤツの力……。よもや、この俺と互角か……⁉)


 ドモスが額に脂汗を浮かべる。

 その目の前で、さっきのダメージから復帰したウォーリアが再びリオナに挑みかかって行ったが、()(すべ)なくあっさりと攻撃を返され、吹き飛ばされた先で瓦礫(がれき)の山に突っ込んだ。

 派手な轟音(ごうおん)

 沈黙する巨大山羊。


 大剣を支えに立ち上がり、呼吸を整えたドモスは、ウォーリアへの攻撃後で油断しているリオナ目掛けて、遠距離用のスキルを放った。


「≪グレートインパクト≫ッ!」


 拳や重量武器を地面に叩きつけ、その衝撃波を飛ばして相手を攻撃する。

 主に攻撃力を強化したパワーファイターが使用するスキルだ。

 速度はそれ程でもないが、遠距離スキルの中ではかなり高威力の部類に入る。


 地鳴りと共に走る衝撃波に対し、リオナは、


「≪グレートインパクト≫ッ‼‼」


 ()しくも彼女は同じスキルを習得していた。

 ドモスが放った衝撃波とリオナの放った衝撃波がぶつかり、爆発のような振動を生みながら、双方の衝撃波が相殺される。

 その拍子に茶色い土煙が巻き起こり、両者を隔てる煙幕となった。


(来るか……ッ⁉)


 遮られる視界の中で身構えるドモス。

 リオナが何処(どこ)から攻めて来ても迎え撃てるよう、集中力を極限まで研ぎ澄ませた。




 リオナの姿がすぐ眼下にあった。




「! しまっ……!」


 ニヤと笑ったリオナの金眼と目が合う。

 彼女は≪(おぼろ)()き≫でドモスの懐に入り込んでいた。

 集中力を高めたことが(あだ)となり、ドモスは彼女の接近に気付くのが致命的なまでに遅れてしまったのだ。


(まさか、ここまで計算した上で……⁉)


 考える間も与えぬまま、リオナは強烈な掌底打ちをドモスの顎に叩き込んだ。


「ハァッ‼‼」


「ぬぐわぁッ⁉」


 脳を激しく揺らす衝撃に耐えきれず、ドモスは再び膝を突いてしまった。

 攻撃も防御もできない完全に無防備な状態。

 決定的なその隙を、リオナは決して見逃さなかった。


「これで――ッ⁉」


 体力を削り取るべく強力なコンボ技を繰り出そうとしたリオナだったが、そのモーションを中断し、慌てて左後方へと跳躍する。

 その直後、つい先程まで彼女がいた地点に、四時の方向から青白い炎が飛んで来た。


 見れば、瓦礫の山から()い出たウォーリアが、口からブレス攻撃を吐き、リオナを牽制(けんせい)していた。

 おどろおどろしい青い炎が地表を焼き焦がし、不快な熱気をフロア全体に放出する。

 リオナはそれを涼しい顔でやり過ごしつつ、ウォーリアの特殊行動の一つに、何処か懐かしさを覚えていた。


「グオオオオオォォォオォォォオオオオオ――――ッ‼‼」


 感傷に浸るリオナに対し、ウォーリアは咆哮(ほうこう)と共に彼女に肉薄し、無数の打撃を見舞う。

 だが、結果はやはり同じ。

 後退し、回転し、跳躍し、(ある)いは手拳でいなし、正面から迎え撃ち、ウォーリアの攻撃は、何一つリオナの身体に届かない。


 ウォーリアの連撃が途切れた瞬間、リオナの拳がウォーリアの腹を穿(うが)ち、致命的なダメージを与えた。


「グアッ⁉」


 無視できないダメージを受けたウォーリアは、ゼェゼェと息を切らし、ダウン状態に陥った。

 その様子を(はた)から眺めていたドモスは、思わず舌を巻いた。


(強い……!)


 前回はウォーリアを相手に苦戦していたリオナだが、今回はまるで立場が逆。

 これまで数々の冒険者を退け、恐れられてきたウォーリアが、全く相手にならない程圧倒されている。

 彼女のステータスは飛躍的に向上しており、行動の一つ一つが昇華されている。


 しかし、リオナが一方的に押している理由はそれだけではない。

 彼女はドモスとウォーリアのどちらか一方を常にダウン状態に追い詰め、一対一の状況を作れるよう立ち回っているのだ。

 ドモス達はリオナの動きに翻弄され、二対一という数の有利を活かせていない。


(何処かに隙はないのか……⁉)


 ドモスが必死に目を凝らす。

 リオナから徐々に視点を広げて、ボス部屋全体まで隈なく俯瞰(ふかん)し、何か利用できそうなものはないかと、必死に打開策を探し――


(……!)


 あるものが目に入った。


 それと同時、三日前にリオナが窮地に陥った状況を思い出す。

 あの時の彼女の行動を考えれば、彼女の弱点など明らかだった。


(……なるほど。そもそも二対一で戦っているという考えそのものが間違いだった)


 ドモスはゆっくりと大剣を持って歩き出した。



今回で100話目です!! いつも応援ありがとうございます!!


ゆっくりお祝いしたいところですが、よりによって激戦回ですね……

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― 新着の感想 ―
[一言] >今回で100話目です!!  おめでとうございます。  自分じゃ100話なんて続けられませんから、これは素直に尊敬ですわ。
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