出会い
暖かい目でご覧ください。
レストランのウェイトレスに案内されて耕作は席についた。席に向かう途中、周りの客を見渡してみると、それなりの身なりをした人間が多いことが視界に入った。ワインレッドのドレスを着た女やピシッとスーツを着た男等店内には客がたくさんいた。ブラウンで統一された店内は、きらびやかなロビーとは違い、落ち着いた雰囲気を醸し出している。木目調の椅子やテーブル、周りのテーブルとは樹木や衝立で区切られている。店内を流れるBGMは揺ったりとしたテンポのクラッシックで、先程まで、この掴み所がない父親にイラついていた心を癒していた。ふと、耕作は自分の目の前に座る彌生をみた。小さな顔に目、口、鼻がパズルのピースをはめるかのように美しく配置されている。艶やかな黒髪は着物にあわせて結い上げており、一層彼女の可憐さを引き立てている。まるで百合の花のような女性だなと耕作は思った。
「改めて紹介する。彌生お嬢ちゃん、私の息子の京本耕作、私は京本雄作だ。一応は、警察官で、そこそこエリートの部類にはいると思う。耕作、こちらが東城彌生さん、義理の父となる東城睦月さんだ。睦月さんは私の大学の同級生で東城神社の神主をなされている。」
「彌生です。今は二十歳で、大学では美術史等を学んでいます。」
鈴のなるような声で彼女はいった。
「耕作です。現在、二十四歳で、警察官です。」
「……」
「……」
二人の間に沈黙が落ちる。残念ながら、父親二人はこちらに気を止めることなく、話に花を咲かせている。
「っきょ、京本さんは普段どのようなことを為されているのですか?私に教えられる、守秘義務に反しない限りでいいのですが、教えていただけませんか?」
少し上ずった声で彼女は耕作に訊ねた。肩書きとか顔とか上っ面だけをみている女と違って、自分自身をみていると感じた耕作は彼女の緊張を解そうと思って、砕けた口調で答えた。
「耕作でいいよ。そうだね、警察官といっても僕は現場に出る訳じゃなくて書類仕事とかだから、刑事ドラマみたいに現場に出ている訳じゃない。あんまりおもしろくないでしょ?東城さんはどんなことを勉強しているの?」
「彌生でいいです。私は絵画とか着物とかそういうものの歴史とか、そうですね、そういうものから当時の時代背景とかを知ることができるのですけれど、そういうものを」
彌生は先程より少し落ち着いた様子で答えた。
「例えば、どんなの?」
彌生はう~んと悩んでから答えた。
「そうですね、耕作さんは今、スーツを着ていらっしゃいますけど、スーツにも流行がありますよね。最近はグレーとか黒とかそういったものが多いんですけど、黒とかグレーが流行るときって景気が停滞していたり、下がっているときなんです。そういうのを調べたりしてます。」
そのあとも趣味や好きなアーティストの話などをして、とりあえず会話が途切れることなく、ディナーを食べ終えることができた。
耕作たちはありがとうございましたといって会計をして、お店を立ち去ろうとレジの前にいた。会計を終え、連絡先を交換し、帰路につくところであった。
すると後ろから、食器が割れる音が聞こえた。音の鳴った方を注視すると、ワインレッドのドレスを着た茶色のかみを下ろした女が倒れていた。
ありがとうございました!