さらば神戸
その夜、照井芽衣は自宅にいた。前の年の四月から大学生となり、神戸のアパートで一人暮らしを始めていた。珍しくないことだが、港から船の汽笛が聞こえた。芽衣はカフェモカを飲みながら、汽笛に耳を傾けた。
冬という季節は、どことなく淋しさが際立つものだ。芽衣は汽笛を鳴らした船が、港を離れる情景を思い描いた。
人生は船旅のようなものだ。人は誰もが、心の中で船を浮かべている。それぞれの幸福に巡り合うまで、旅を続けるだろう。
もう一度汽笛が聞こえた。万感の想いを込めた汽笛が鳴った。船が神戸港から旅立つシーンが、脳裏に浮かんだ。さらば人々。さらば百万ドルの夜景。さらば、神戸。
芽衣のこのくだらない空想のタイトルは、翌朝に最悪の形で現実となった。