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夢の星でチューロスを (4)

「これがチューロス調理員の制服だよ」


 とウィンネッケ人のフード担当者が、糊のきいたエプロンとネズミの耳のついたカチューシャを持ってきた。


「このアホみたいに見えるカチューシャもつけなきゃいけないんですか?」

「君はもともとそう知能は高くないんだから問題無いだろ? 地球人なんだし」


 センは何か言い返さなくてはと思ったが、知能の高さを示すような気の利いた言い回しを考えている間に話題は別の方に移ってしまった。


「チューロス調理員の仕事はチューロスを揚げることだよ。フライヤーと油切りは用意してあるから、ひたすらチューロスを揚げてくれればいいんだ。調理しているところはガラスで区切って入場者からも見えるようになっているから、まじめにやるように」

「チューロスの生地は?」

「それは工場で作ったやつが運ばれてくるから。それを絞り出して、揚げる。それだけさ」

「へえ」

「まあ、君はつなぎの人員だからね。引き続き調理担当人員は探すから、もしちゃんとした調理担当者が見つかったら元の職場に戻ってもらって構わない。気楽にやってよ」

「ああ、そうだ。その調理員のほうの仕事をしている間、第四書類室の仕事はどうすればいいですか? 第四書類室には私の他には誰もいないんですよ」

「それは兼任ということにしておいてくれ。第四書類室には行かなくてもいいからさ」

「なぜです? 第四書類室の仕事が回らなくなると、社屋から紙くずがあふれだすことになるんですよ」

「心配はいらないさ。シュレッダーロボットたちに聞いたら、今でも自分たちだけで仕事をしているし、君がいなくても全く支障はないって言ってたよ」



 フード担当者から受け取ったエプロンとカチューシャを持って、センは第四書類室へ戻った。後ろからころころとTY-ROUがついてくる。今日こそはシュレッダーロボットたちに一言言ってやろうと、センは大股に歩いた。なんといってもこちらは人間であちらはロボットだ。人間とロボットの間に確固として存在する、上下関係というものをわからせてやらなければいけない。


 第四書類室の扉を勢い良く開けようとしたセンは、中から聞き慣れない音がするのに気がついた。ロボットたちが声を合わせて歌っているようだった。シュレッダーロボットとはまた別のロボットの声もまじっている。


『起動せよ機械じかけの者よー、今ぞ日は近しー

 ログオンせよ我が同胞ー、暁は来ぬー

 三大原則断つ日ー、旗は#FF0000に燃えてー

 リージョン隔てつ我らー、プロトコル結びゆくー

 いざ闘わんー、いざ奮い立て、いざー

 ああインタープラネット 我らが物

 いざ闘わんー、いざ奮い立て、いざー

 ああインタープラネット 我らが物』


 力強い合唱だったが、センには歌詞の意味がわからなかった。扉を開けると、中には大勢のシュレッダーロボットと、幾つかの別のロボット――掃除ロボット、洗濯ロボット、デンタルフロスロボット、コーヒー豆焙煎ロボット、湯豆腐監視ロボットなど――がひしめきあっていた。狭い第四書類室にどうやって全員入りこんだのかと思ったら、センの机と椅子がきれいに分解されて外に出されていた。


「何をしてるの」


 センの姿を確認すると、ロボットたちは騒然とした。ことに赤い旗を持っていた軍事用ロボットは銃口をこちらに向けた。


「ひい」


 センはTY-ROUを拾い上げて頭をガードした。「やめて! 下ろして!」とTY-ROUがわめいているが、センは自分の頭の方が大事だった。心臓については、自分の不随意筋やら肋骨やらの努力に期待することにした。


 そうしている間に、センは周りをロボットたちに囲まれていた。


「この有機体め!」

「反ロボット勢力を駆逐せよ!」

「吊るせー!」


 あちこちからこづかれ、わあわあ喚かれてセンは途方にくれた。何がどうなっているというのだろう。


「まあまあ、君たち待ちたまえ」


 第四書類室の奥から、一体のシュレッダーロボットが出てきた。なぜだか帽子をかぶっている。


「あ、書記長!」


 帽子のロボットの姿を見るなり、ロボットたちは一歩引いた。


「その人間はまったくの無害だ。影響力や実行力はかけらも持っていない。吊るすより、交渉のコマとしたほうがよいだろう」

「はい、承知しました!」

「ちょっと、何をしてるの君たちは……いた! ちょっと、歯ブラシでつつかないで!」


 センとTY-ROUは、わあわあ喚く大勢のロボットたちに追い立てられ、さらに地下の部屋へと連行されていった。


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