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 朝。日が差す窓からは今日も海が見える。朝日は今日も海をきらめかせて今日も穏やかな日になる事を暗示しているようだった。

「お嬢、頼むから服を着てくれ」

 部屋に入ってきたヴォルフは朝食と書類を両手に抱えていて、よく落とさないなと思えるバランスで扉を開けていた。書類はパニエルに頼んでいた物と今日の新聞だろう。

「相変わらず素敵な仕事振りね」

 朝食を片手に分厚い資料をパラッと目を通すとグロスターだけでなく他の地域の分も多少混じっていた。

「一晩でよくここまで揃えられるわね。パニエルはいつ寝ているのかしら」

「朝も昼も夜もどこかでよく見掛けるな。署内で悪い噂もないらしい、むしろ良く評価されているらしいぞ」

「アンタの情報網も大概ね」

 資料の束を選別しているとヴォルフが尋ねる。

「ずいぶんと手際よく分けてるがどういう基準なんだ」

「年配者と半年以上経っている物は省く。単純に事件性が薄いということもあるが、人間一人が半年も生活が出来ているのならそれは自身の意思の可能性が高い」

「そんなもんかね」

 ヴォルフは選別済みの書類から無差別に抜き取りながらさほど注意深くもなく眺めていた。私にはサンドイッチを噛みしめている事の方がよほど真剣にみえた。

 片手間の朝食が終わる頃に書類の選別も済ませ五人の人物に調査を絞った。学生が二人、男女で失踪時期が重なるだけでその背後関係は全く異なり、悪い友人がいたという事もなかった。また一人はごく普通の女性で既婚者だった。子供がおり夫や親類関係に問題も無かったそうだ。そして、残りの二人と私は面識があった。

 カザノス家の次男、ルイス・カザノフ。いつかのパーティーで話をしたことがある。良家には珍しい見識ある紳士の印象があり大学を出た後は家業とは関係ない服飾事業で若くして成功した人だった。誘拐の線も薄くまたカザノフ家も公にしておらず秘密裏に警察に届けていたようである。

 そして、ペイルの名前があった。ペイル・フィッシャー、インスマス出身で肉親は母親のみ。ただ、届けはインスマスの飲食店経営者からのものだった。今から四か月ほど前からほぼ毎日来ていた店に来なくなり、心配になった彼が母親に問い詰めるとまったく話にならず届けたそうだ。他の資料には写真が添えられていたがペイルの物はなかった。そのたった一枚の写真の有無と文章だけでペイルの背景がみえる様だった。

「もう少ししたらロックポートへ行くわよ、準備しておきなさい」

「カザノフ家か、俺あそこの奥さん苦手なんだよ」

「執事が言っていい台詞じゃないわよ、いつも通りにしていればいいのよ。ちょっと遠いけれど一番話してくれそうだからね」

 カザノス家はお爺様時代から親交がある家であり、最近では密な交流こそないが邪険に扱われる事はないだろう。

 昼を過ぎた頃に車をまわしていたヴォルフが表で待っている。久しぶりに上流階級らしくキッチリとした格好でいるが、本当に違和感しかない。

「久しぶりねその恰好。その、似合ってるわよ」

「そんな笑いを堪えながら言われても嬉しくないな。ほら、早く乗れ」

 ロックポートまでは車で一時間ほど。私は後ろの席で読み残していた小説の世界にどっぷりと浸るのだった。

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