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程よく車を走らせ、リマキナに到着した。昼も過ぎたからか客もほとんどおらず女性客が二組ほど楽しく談笑している。なじみのマリアが店の奥、いつもの席に促してくれた。
「ハイハーイ、今日は何が食べたいの」
パタパタと靴を鳴らして注文を取る。
「今日は魚が食べたい」
ヴォルフは「同じのといつもの」と簡素に伝えた。店内に声が響いている。窓際のご婦人方は最近物価が上がってるとか、それでも旦那の給料は上がらないとか、主に実生活の話題を。カウンター付近に座っている若い二人組の女性は今日はどの店で飲みに行こうかや、流行りの映画スターの様な男はどこにいるのかなど。ヴォルフは新聞を広げてしげしげと眺めている。
「なあ、最近面白いニュースはないのかい」
「そうだな、株価は相変わらず値上がりしているし奥様方の話もうなずけるな。俺ら市民に恩恵がくるのはもう少し先になるだろう。いい酒場ってならまたイタリア系の酒場がちらほら増えた、痛い目見たはずだがまた勢力が戻ってきてる。いい男に出会いたいならいい女になれば向こうからくる。あとはコレだな」
指差した新聞には若者の失踪事故が相次ぐという小さな記事があった。
起点は三か月前、とある名家の子女が失踪した。ある程度の知名度と、その両親が広告で捜索願と報奨金を出した事で話題になったものだ。一週間、二週間経つうちに段々とその話題も聞かなくなり、他の話題に埋もれたのだった。その後も何人かの失踪事件が小さな記事になっていたが、初めの印象が強かった事とそのどれもが多感な少年少女だった為、家出などで片付けられていた。
「これまで何人いなくなった」
「数えているだけで32人。もちろん報道されてなかったりするからもっと多いかもしれないし、ほんとに家出の可能性もある」
「、、あの報奨金っていくらだっけ」
「確か2000ドル。今も生きてるのかは不明だが」
パタパタとマリアの靴の音が聞こえる。
「ハーイ、悪い話は終わりにしてゆっくり食べてね」
テーブルいっぱいに料理が並び、どれもこれもが手の込んだ料理だった。
真っ白なホワイトソースにパセリの緑が映えるカリッカリのムニエルに、コロコロ丸いフライにはケチャップがでろりと掛かって、薄切りのバケットは程よく焼き温められてた。すばしっこくナイフとフォークを動かし私たちは貪る。ヴォルフが狙ったフライをかすめ取り、芋と塩味のきいた魚をケチャップたっぷりで食べる。
「、で。家出少年たちをどうやって探す」
二枚目のムニエルにナイフを入れるヴォルフが尋ねるが、私の口はそれどころではない。ヴォルフが早く食べてしまえと言っている目をしている。
「子供がゆっくり眠れる場所、ご飯が食べられる所、人目につかずそしてちょっとの自立心を得られる場所」
「さっぱりわからん」
「そうでしょう、そうでしょう」
ムニエルの最後の一切れは、、皿のソースをたっぷりと絡めて食べるのがたまらなく美味しい。作法だなんだと気にするのは無粋な事だ。
「分からなくても最後には理解するから大丈夫よ。さっさと食べてポルカの所に行くわよ」
ひょいひょいとフライを口に運び瞬時に飲み込むヴォルフは、食べていない様な雰囲気で私の倍は食べるから不思議だった。
「警察に入る情報なら街中に広まってそうな気がするがな」
「情報収集じゃなくて囲い込みに行くのよ」
にまにまと笑う私はマリアに挨拶だけは忘れず、まだ食べたりなさそうなヴォルフのお尻を引っぱたいて車に詰め込んだ。