これから
メイジ。
やっぱり少し変わった響きがする。
「名前、つけてくれてありがとう」
「うん。どういたしまして」
俺が礼を言うと、ハルカはにっこりと笑って頭を撫でてくれた。
手の動きに合わせて、俺の頭は揺れる。
ハルカは俺に、居場所と名前をくれた。
俺はハルカに何を返せるのか、此処でどう過ごせばいいのか、考えないといけない。
「そういえば、メイジっていくつ? 私の所では、二十歳で成人なんだけどさ」
「確か、十二歳」
「……もう一回」
「だから、十二歳」
ハルカはじっと俺を見た後、脇に手を入れてひょいと俺を持ち上げた。
驚く暇もなく立たされて、俺の前で屈んだハルカに体をぺたぺた触られる。
「十二歳……十歳未満かと思った……」
ハルカは俺の肩に手を置いて、小さく呟いた。
俺は身長も低いし、ひょろひょろしているから、年相応に見られる事は少ない。
「メイジの村の子供、年が近いのはいた?」
「いた」
「じゃあ、その子たちもメイジと同じ体格?」
「いや、背の高さはそれぞれ……。皆、総じて痩せてたけど」
俺の返事を聞いて、ハルカは何を思ったか、俺の服の裾を摘むとぺらりと捲った。
突然の出来事に固まると、今度は掌と足元を見ている。
何がしたいんだろう……。
「うーん、やっぱり栄養足りてないせいかなぁ。メイジ、手足は大きいから、きっと背は伸びると思うんだよね」
「手足が大きいのと背丈、どんな関係が?」
「あれ? この辺りでは言わないのかな。手足が大きい子は背が伸びるって。メイジの場合、食生活を改善したら、それだけでニョキニョキ伸びそうな感じ」
ハルカの言葉に、思わず手と足を見てみる。
自分では大きいのか小さいのか、あまり分からない。
村の子供たちと手なんて合わせた事がないから、比べようもない。
それでも、背が伸びると言われれば嬉しい。
小さなままでは、力仕事も大変だろうから。
「まずは子供らしい、ぷにっと柔らかそうな体にしないとね。それから……メイジ、字の読み書きはできる?」
「数字は辛うじて分かる。文字の方は、あんまり……」
「そっか。やっぱり識字率って低いのかな、この世界」
「シキジリツ?」
「あー、字を読み書きできる人の割合、だったかな。周りの人は字の読み書きできた?」
「いや……年寄りと商売してる人間くらいだと思う」
村で仕事と言えば、農業が中心だ。
いくつかの単語が読めればそれで良かった。
後は力仕事ばかりだから。
あの村には小さいながらも宿屋があったから、そこの主人とか村長なんかは割りと読み書きできた……と思う。
「じゃあ、まずは字の読み書きから始めようか。色々学ぶにしても、それが基本だからね」
「……頑張ります」
「心配しなくても、難しい事じゃないよ。時間はたっぷりあるから、ゆっくり覚えていけばいいの。それに、文字は一度しっかり覚えたら早々忘れるものじゃないから」
俺の不安が伝わったのか、ハルカが俺の頭を撫でながら言う。
……ハルカは頭を撫でるのが好きなんだろうか。
嫌ではないけど、なんだかくすぐったい。
「一度に沢山の事なんてできないものだから、心も体も少しずつ成長していけばいいの」
「はい」
「その方が、私が退屈しないで済むからね」
ニッと口の端を上げて笑ったハルカは、俺の手を握ってきた。
柔らかくて、あたたかい手。
母の荒れてほっそりした手とは違うのに、なんだか懐かしさを感じる感触だ。
「おいで。まずは家の中を案内してあげる。それから、外にも出てみようか」
手を引くハルカに連れられて、俺は今までいた部屋から出た。
魔法使いの住処は、一体どんな所なんだろう。