序
山を越えると魔法使いの住処に辿り着く。
昔から言い伝えられている、御伽噺のような話。
今までに山を越えようとした人間は数知れず。
だが、辿り着けたのは極少数だけと言われている。
断言できないのは、辿り着いたとされる者たちが皆、頑なに口を閉ざすからだ。
登頂が難しいほど高い山ではない。
その上、今まで挑んできた者たちが通った跡が道として残り、登りやすくなっている。
頂上に辿り着くには体力があれば良い。
だが、登る事ができても越える事が困難なのだという。
山頂から見下ろせば、雲のように広がる一面の濃霧が全てを遮断している。
時間も方向感覚も狂う濃霧の中、迷い、諦める者がほとんどだ。
そんな中を突き進む恐れ知らずも居るのだが、結局は諦めるか、消息不明になるかの二つに一つ。
一説によると、悪意を持った者は濃霧に阻まれるという。
どんな天候でも昼夜を問わず発生し続ける霧は、魔法使いが作り出した壁なのだと。
そんな魔法使いの住処。
山を越え、濃霧を抜けた先には何があるのか。
そして本当に魔法使いが住んでいるのか、誰も知らない。
謎は謎のまま。
それでも、人は山を登る。
魔法使いに願いを叶えてもらう為に。