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1-3

 それから三人で細々したことを話し合い、ユウマは己の天幕に戻った。


 ラは、寝台で小さく丸まっていた。喉の下をくすぐってやると、ラは、薄く片目を開けてユウマの姿を認め、また目を閉じた。


「ラ、起きろ。遅くに悪いけど、寝てる暇はなさそうだ」


 ラは、わずらわしげに目を開けた。今度は起き上がり、ぐうっと伸びをした。後ろ足で耳の後ろをかき、その匂いをかいだ。


『小僧の話は、何だったんだ?』

「そのことだ。準備しろ。日が出るころには出発する」

『その時に起こせよ。準備も何もないだろう』

「それがだ。いつもとは違う。地トカゲを狩るんでも、マカラやボロダンの動きを偵察に出るんでもない。クドを出る」


 ラは胡乱な目をして、ユウマを見上げた。


『何を言っている?』

「ミラの宣託だ。俺はクドを出て、西へ行かないといけない」


 にこりともせず話すユウマに、さすがに冗談ではないものを感じたらしい。ラから寝起きの気だるい感じが消えた。


『クドを出る。お前が? そんなことがあるのか? 何のために』

「それは色々あるけど、最終的な目的は、はるか西に住むカルナという女に、ミラの子を生ませることらしい」

『何? それはつまり、お前が?』

「長い旅になる。たぶん、二度とクドの地には帰らない」


 さすがに、ラは唖然としたようだった。


『そんな馬鹿な。私は反対だぞ!』

「もう決まったことなんだ」

『ふざけるな。それに、そう、そうだ。お前がいなくなれば、トランはどうなる。戦いはどうするんだ?』

「どうにもならない。トランは近く、滅ぶだろう」

『お、おい、いいのか』

「よくはない。よくはないけど仕方ない。ミラの言に逆らって俺がここに残ったとしても、トランは誰も喜ばないだろう」

『ユウマ、お前はどうなんだ。それでいいのか。平気なのか?』

「平気なわけがない」


 ユウマの返答は、ことさらに無感情だった。


「三百祭(約五千年)以上、俺はここで戦い続けてきたんだ。それを、途中で放棄しなくちゃいけないのは残念だ。皆を置いて行かなくちゃいけないのも、そうだ。だけどそれは、俺が行かない理由にはならないよ」


 ラは、自分の主の無表情をまじまじと見つめた。


 しばらく見つめ合った後、ラは黙って寝台から飛び下りた。手のひらサイズだったラは、床に足をつけた時には、ユウマの胸ほどまでの四足獣に変貌している。


『出発は明朝か。私は何をすればいい?』

「ハクに言って、ボッコルの樹肉を用意させろ。あとは、岩塩と干した肉のかたまりを。俺とお前が、五日ほど生きられる分でいい。ああ、いや……」


 ユウマは何やら言いよどんだ。それは、彼にはとてもめずらしいことだった。


『何だ。水と食料だけか』

「いや。お前のことだ。お前はどうする。俺たちは、生まれる前からずっと一緒にいたけど、それはこれからもそうだということを意味しない。どうする。ついて来てくれるか? それが嫌なら、ここで牙を返してやってもいい」


 ユウマは、首にかけていた白い牙のペンダントをラに差し出した。

 返答は、低いうなり声だった。


『戯言はそれでおしまいか? なら次は、口ではなく手を動かすんだな。互いに、生涯一度の旅立ちだ。持つものも持たずでは、格好がつかんだろう』


 冷たい声で言い捨て、ラは天幕を出ていった。

 ユウマはほっと息をついた。ペンダントを首にかけ直して大切にしまい、さしあたり必要と思われる武器のたぐいを物色し始めた。


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