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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼氏に浮気されたのでタイムリープして浮気されないように過去を変えてきます

作者: ずんだ

誕生日なので投稿しました。

木下きのした 杏子あんず。24歳女性。今から1ヶ月前の 2月24日土曜日、同棲していた彼氏に浮気されたことが発覚した。


その日は午後までの予定だった仕事が午前中に終わったので、早く帰って驚かせようと思ったのだ。

ゆっくり家に忍び込み、休日だから寝てるかゲームしているであろう彼氏の部屋へ近付く。

そして勢いよくバッ!っとドアを開けると


そこでは見知らぬ男女が裸でまぐわっていた。

いや、見知らぬ男女ではない。

見知らぬのは女だけで、男は見知った彼氏だった。


理解が追いつかなかった。目の前にある現実が認識出来なかった。

まさか自分の家で浮気されるとも思ってなかったし、そもそも浮気されるということも考えたこともなかった。

ここは元々私の家なのだぞ。私が小さい頃から住んでいて、亡くなった両親から受け継いだ数少ない遺産なのだぞ。

そこに彼氏というだけで無償で住まわせてあげてるというのに!むかむか。(とはいえ食費水道代光熱費その他はさすがに貰っているのだけれども)


その後の記憶はないが、気が付いたら公園のベンチで座っていた私の元に彼氏が現れたようだ。そして謝り倒され、泣きつかれたことをおぼろげに記憶している。

私が何を言ったかは記憶にないが、あれから1ヶ月経った今、私が家に一人きりになったことからおそらく別れを申し出たのだろうと推測。

そして無心で生活し、働き、1ヶ月経過してやっと現実が見れたのだな。

…よく1ヶ月間も生きてこられたなぁと自分で自分に驚愕する。接客業なのに特にミスした記憶もなければ怒られた記憶もない。むしろいつもより褒められたぐらいだ。

はてさて、しかし我に返ってしまったものはしょうがない。

おれは、しょうきにもどった。

とは少し違うか。

しかし、これからどうしようと気付く。浮気現場を目撃してしまったことのショックがあるものの、自分を未だに客観視出来てることに驚く。冷めている、訳ではなく。直視出来ていないだけなのだろうか。(ちなみに彼の使っていた部屋はあれから一度も立ち入っていないことは覚えている)


「なんだかなぁ」


ふと、口からこぼれ落ちる言葉。

なぜ浮気したんだろう。なぜ浮気されたんだろう。付き合って6年、それだけあれば飽きもするものだろうか。私は浮気しようとか考える余裕すらなかったからな、わはは。


「…はぁ」


今度はただの溜息。少し感傷的になってしまっている。いやそれも当然か。世間的に言えば大変ショックな部類に入るだろうとしみじみ。

両親が事故で亡くなり3年。彼のおかげでなんとか立ち直り、就職もすることが出来て。

その後も支えあいながら、付き合ってきたつもり、だった。

しかし浮気されたということは違うのだろう。いや、違ったのだ。

私は彼の負担になっていたのか、それとも単純に飽きられていたのか。水飲みすぎてジュースが飲みたくなるとかいうやつなのだろうか。

私が悪いのか?私は許すべきだったのか?どうしたらよかったんだ?どうしたら。どうしたら。

そんな自問自答を繰り返す。


思考錯誤の末(試行ではない)、どうしたら良かったのか、ということを考えてみた。

どうしたら私はこんなに傷つくことがなかったのか、こんな結末にならなかったのか。そんな妄想だ。


その1、浮気現場を過去の自分に見せないようにする。

過去の私に絶対早く帰って驚かせようとか考えないように言う。そうすれば最低限現実を見ずに傷つくことはない。彼ともきっと付き合ったまんまでいられただろう。しかしこれは彼が浮気をしていると言う事実は変えられないのでなんとも言えない。


その2、彼が浮気することを阻止する。

その日は土曜日で、本来私のシフトではないところを変えられた為、それを拒否させるのだ。そうすれば彼の浮気を阻止することができる。


その3、彼と付き合うことを阻止する。

最初から彼と付き合わなければこんな苦しみは知らなくて済む。その時点で変えてしまえば全て解決。しかし彼のことを好きな気持ちも本物で、彼との思い出もあってこその今の私であり、なにより彼が居なければ私は就職どころか家から出ることも出来なかっただろう。


なんて考えてみたけど現実的にどうこうできる話じゃないのもわかる。どうしようもないものだ。泣いて喚いて、今は辛くても時間が解決してくれるのを待つべきかもしれない。

絶対的な信頼を置いて居たものの、いつかは時間が。


時間なんてものに頼って自分から行動しないのも嫌だなぁとうじうじ。そもそも私は今助かりたいわけであって未来助かればいいと言うわけではないのだ。ついでに泣いて喚ける性格でもないのが更に悪い気もする。


さて、そろそろ寝るか。明日も仕事があるしな。

なんて思ったのに外を見てみると明るい。あれ?慌てて時計を見てみると就業時間の30分前だった。


◆◇◆◇◆


あれから数日。なんだか夜が異様に長くて(というか短くて?)気が付いたら朝になったり、家に帰ってきたと思ったらそのまま気を失って朝になって居たり。何かするまでもなく朝になって仕事して帰ったら朝になって、みたいなそんな日々。

なんだか朝に愛されてるのかもしれないなんてわけのわからないことを宣ってしまう。

しかし困ったことに明日は休日。仕事がないのだ。普段なら喜んで居たのにこうなってしまうと仕事してないとうじうじ考えてしまってしょうがない。

無理にでも働こうとしたら『最近詰めすぎだよ。少しは休まないと。何か辛いことでもあった?』なんて先輩から心配される始末。わはは、何もないです、彼氏の浮気現場をモロに見てしまっただけで、がはは。なんて言えるわけもないし、どう相談していいかわからないので結局抱え込んでしまった…うぅ…胃が痛い。


「あぁ、本当に」


本当に過去に戻って、彼が浮気しない未来を、私は求めたい。



◆◇◆◇◆


気が付いたら目の前が真っ白になっていた。あれ?わたしはモンスターバトルに負けてたのか?いやいやそんなことはない。なんの話なんだ。


「知らない天井だ」


言ってみたかったセリフではあるけれど。知らない天井というか知らない空間だな。


「えっとー、もしもーし、誰かー」


返事がない。あるわけもないとは思っているけど。夢かこれ。気が付いたら寝てたのかな。明晰夢、みたいな。


「夢ならいいぜー遊ぶぜー。へいへいほー、みんな元気かーい」


誰もいないなら、というか夢なのなら適当に振舞っていてもいいだろう。なんかもう疲れたし楽しくやっていこうぜー。


「はろーはろー。こちら謎の空間におりますー。私は6年付き合っていた彼氏に浮気された女ですーどうぞー」


『は、はろはろー。こちら神様みたいな悪魔みたいな存在ですどうぞー』


お、返事が来たぞ?

返事…?


「お、お返事ありがとうございます。神様?仏様?うさぎ様?悪魔様?」


『う、うん。まさかいきなり奇行を見せつけられるとは思わなかったけど。一応、人間で言うところの神様とか悪魔みたいな呼ばれ方してる存在、の1人かな』


お、おうおうおう。おう?

超展開すぎて私ついていけないぞ。神様?悪魔?何事?やはり夢?


『あ、ごめんね。僕心読めるんだけど、夢じゃないんだこれ』


わぁお!夢じゃないらしいし心読めるらしい!?なんだそれすげーな。ていうか心読める…!


「プライバシーの侵害だ!!」


『仮にも神様に向かって最初にいう発言じゃないよ…君はなかなか面白い思考してるんだね』


それはよく言われるなぁ。なかなかぶっ飛んだ思考をしてると近所でも評判でさぁ。


『そ、そうなんだ…それはさておきえっと、本題入っていいかな?』


本題?


『そうそう、ここに君を呼んだ理由。ここにというのは僕と話すためだから正確にいうと僕が君と何の話をする為に呼んだのかって理由、かな』


回りくどい言い方ありがとう神様。そういえば神様様の姿は見えないけどどちらにいらっしゃるの?


『様に様付けはいらないんじゃないかな?僕はこの空間で、この空間が僕なんだ。というより君はなかなか本題に入らせてくれないね』


あ、はい。すみませんでした。どうぞどうぞ本題にお入りください。


『なんだかなぁ…うん。いいや。それでは本題に入ります』


はいきた。待ってましたとも。


『…よし。僕は突っ込まない。僕は突っ込まない』


謎の呪文ですなぁ。


『僕が君を呼んだ理由はね、君の願いを叶えてあげようかと思ったんだ』


私の、願い…?


『そう、君の。過去に戻って、彼氏が浮気しない未来が欲しいと言った、君の願いを』


叶うの…?私の願いが?現実的じゃない願いが?


『そう、叶えさせてあげる。僕が、君の願いを叶える、チャンスをあげる』


それは、何というか、どういうことだ…?


『はいはい、順を追って説明するね。君にこれから過去に戻れる能力を与えます。これはタイムスリップではなくタイムリープ型。猫型ロボットのものではなく、時を翔けるといえばわかるかな?』


おぉ!なんともわかりやすい説明をありがとうございます!つまり過去の自分と入れ替わる系というか意識が過去に戻る系ですな!?


『そういうこと。その能力を使って好きな未来を作るといいよ』


ほうほう。じゃあ、『坊や お父さんを 大切にしてあげるんだよ』とかはできないわけか。現実的かどうかはともかく、1つ質問いいっすか?


『半信半疑状態なのはわかるけど、どんな質問かな?』


タイムリープしたとして、過去に戻ったとしてさ、上手くいかなかったらどうするの?一回きり?


『あれ?君もしかして頭の回転早い?ちょうど今説明しようと思ってたんだけど』


なんだかよくわからないけど褒められたぞ。そいでそいで、説明をどうぞ。


『あ、うん。それで、上手くいかなかったらの話だったよね。上手くいかなかったら上手くいくまでやってもらいます。できないならできるまでやればいいじゃない』


 何それ無制限ってこと!?すごいじゃん...。何回でもやり直せるなら何でもできるんじゃない?そんなことはないか。でも何で持ってレベルで出来るよね?ん?でもさ、こんな都合のいい話ある?神様様はどんなメリットがあるっていうのかしら。


『いちいち目の付け所がいいね、君。僕にもメリットがあるというか。それも含めての話なんだけどさ。当然タダとは言わないし、君にも支払ってもらうものがある』


 支払い?なんと…この神様様は金が目当てと申すか…。金なんてーーーまぁそこそこ貯めてるけど。


『お金じゃないよ。そんなものは必要ない。僕が欲しいのは君の魂だ』


 ほうほう、魂か。なら安心だな…。魂ねぇ…。


「って魂!?」


『ありがちな反応をありがとう。やっと人間らしい反応を見れた気がするよ。』


「いやいや、私はそもそも人間ですって!というか魂って何事!?殺すの?死ぬの?願いが叶ったら死ぬみたいな?それだと願いをかなえてもしょうがなくない?」


『あぁー、うん。そうだよね。それも今説明するから落ち着いてね。よしよし、どうどう』


 がるるる。じゃなくて、どういうことだってばよ。俺は火影になるってばよ。


『ちょくちょく君はネタを突っ込んでくるね。もしかして結構余裕ある?』


 一周まわってなんかそうしてた方が楽しい感じある。疲れ切ってるときってその方が楽しいじゃん?


『あ、はい。じゃあ本題に戻るね。端的に言えば君は死ぬけど君は死なないよ』


 死ぬけど死なない。何だか哲学的な話っすか?かっこいいっすね。


『あながち間違ってないから困るんだけど、しっかり説明させてもらうね。君は過去に戻ります。タイムリープします。しかし過去に戻った後、君はまたここに戻ってきます。そこで君の行いによって過去と現在がどのように変化したかを確認してもらいます。その結果に満足すればそこで終わり、満足しなければ再度過去に戻ります。結果に満足した場合、もしくは諦めた場合、あなたの魂を頂きます。しかし、過去のあなたは死にません』


 むむむ、どゆことー?


『難しいことなんだけど、過去に戻り、過去を変えた時点で今の君は過去の君と別の存在になるんだ。今の君がもつ記憶を持つものはいなくなる。過去の君は別の世界で生きていくんだ。今の君が過去に行った時点で死んだも同義なんだよ。今の君は死ぬ代わりに過去の君が幸せになってくれる、かもしれない、みたいな話』


 なる、ほど?つまり浮気された記憶のある私が消えて、浮気されていない私が残るってこと?で、それが神様様的には別の魂になって、浮気された今の私の魂を回収できれば浮気されてない私は生き残る、みたいな?


『そうそう、そんな感じ。やっぱり飲み込み早いんだね。最初にあんな奇行に走っていた人とは思えないよ』


 そ、その件は忘れてください神様様…。


『はいはい、それで、どうする?過去に戻る?戻らない?』


 んー、質問。


『どうぞ』


 消える私ははどうなるの?魂を回収されて、どうなるの?


『どうもならないよ。君は意識も何もなくなる。死んだものと変わらないし、溶けるようなものだ』


 そっか。それなら、うん。


『決めたかい?』


 私は、過去に戻るよ。彼が浮気をした日に戻してくれる?


『君ならそう言ってくれると思ったよ。ありがとう、いってらっしゃい』


 いってきまーす。

 今度は目の前が真っ暗になるように意識が消えた。


◆◇◆◇◆


 目が覚めた。ベッドから起き上がりカーテンを開ける。朝日がいつもより眩しい。何だか壮大な夢を見ていた気がする。神様が私を助けてくれるとかなんとか。過去に戻るとかどうとか。浮気される前に戻るとかどうとか。わっはっは。私も焼きが回ったものだな。


 そういう夢を見ることもあるよなーと自分を慰めつつ、階段を下りる。そして居間につくと人影が…

ん?人影?


「おはよう、杏子。今日は少しゆっくりだったね」


 なんとそこには浮気して閉め出したはず(かどうかは記憶が定かではないが)元カレが。

…あるぇ?もしかしてノット夢落ち?


―――――――


 なんとか取り乱さずに状況を整理することに成功する。というか私の性格的に取り乱すことがあまりないだけなのだけれども。

 それはそれとして。なんと私が夢だと思っていた神様様との寸劇(個人的には寸劇です)は夢ではなかったのだ?夢だけど、夢じゃなかった!という言ったものだろうか。

 とりあえず頬をつねっても痛みはあるし、覚める気配ないし、きっと現実なんだろう。いえいえ、もちろん今の現実がホントに現実かどうかなんて証明できないけれども、そんなこと言ったらきりがないぜ嬢ちゃんってことで現実と考えて動くことにする。どうしようもねぇもんはどうしようもねぇ。

 

 しかし、そうなると1つ問題がある。

 とても切実な問題だ。


 私は神様様に『彼が浮気した日に戻る』ようにお願いしたはずだ。

 つまり彼が浮気した2月24日に戻る、そういったつもりだったのだが。


 本日の日付、7月8日。半年以上もの時を戻ってきたらしい。


 どどど、どゆこと!?

 そりゃ外も眩しいよ!冬に近い春から真夏だよ!

 つまりこれはあれか?私は彼に半年間以上も浮気されてたってかそういうことだろ!わかってたよ!

 確かに勝手に彼があの日初めて唯一浮気したとか思ってたけど、もっと昔から浮気されてたのか。そうだったのか(現実を再認識)


 ここまで来ると、ショックどころかあきれてものも言えないものだ。わっはっは。

 とにもかくにも私は過去に戻った以上、今の私は幸せになれなくても過去の私は幸せにしなくてはならないのだ。

 私は浮気されて不幸になったけど、過去の私にはそんな経験をさせずに幸せに過ごしてもらうのだ。

 そして不幸になった私は消えてなくなる。それでみんな幸せだ。なんて。私は消えてしまうわけなのだけれども。


 さてさて、とりあえず今日は仕事に休みの連絡をつけて、私は彼を尾行しようと思う。少し心苦しいけれど、私の幸せのためだ、犠牲になってくれみんな。すまん。

 彼にも仕事を休むと伝え、部屋で普段着ないような服を探しつつ、髪型を変えて眼鏡をかけて軽く変装する。ばれるかな?彼が仕事(という口実の浮気)に出かけると同時に彼の歩いていく方向を確認。すぐに着替えて外へ向かう。走らない程度に早歩きをして彼を探す。うーん、適当にやっちゃったけど既にどこ行ったか分からないんだよなぁ。でもこっち側にあるもので女性と行くところなんてショッピングモールくらいかな、多分。なんか自分語り多くてごめんねって誰にでもないけど謝っておくよ。

 お、しっかりスマホはマナーモードにしているから安心してくれ。電話かかってきてばれるとかそういうオチはないぞ。


 ショッピングモールについたけどやっぱ見つからないな。うーん。あ、せっかくだし帽子も買ってしまおうかしら。その方がバレないよね。

 適当な店に入って帽子を探す。ベレー帽、はさすがにないよな。適当に店員さんにお勧めしてもらおう。店員さーん頼むぜー。


 はい、おしゃれで服に合った帽子を選んでもらえました。何て名前なのか知らないけど某デジタルなモンスターの話だと初代のピンクの帽子被った子の帽子、かな。色はさすがにピンクじゃないけれども。ベージュってやつ?7000円でございましたぜ。


 颯爽とかぶって外に出てみると、あれ?なんと目の前の喫茶店に某彼氏と見知らぬ女の子が。なんて偶然。これがご都合主義展開かと思いつつさりげなく隠れてみる。気づかれるかな、気づかれないかな。気づかれないとそれはそれで悲しいものだが。あ、こっち見た。やばい。って思ったけど視線を女の子へ。おいおい、6年近く(この頃だと5年半ちょっとか?)も付き合った彼女に対して気付かないとは何事か。私の変装が完璧だからしょうがないと思うけどな。くそ。


 気づかないことをいいことに同じ喫茶店に入ってみる。席は3つくらい離れたところで頑張って話を聞こうか。適当にコーヒー注文して話を聞く。どんな話してんだこの野郎。不思議出来事ワクワクドキドキ。

 

「それで、雄二さんは最近の調子はいかがなんですか?」


 浮気女が口を開く。雄二さんこと沢城さわしろ 雄二ゆうじ。つまり私の彼氏だ。人の彼氏をファーストネームで呼ぶなんてむきー!とかそんなことは言わないけれど。今更そんなことで嫉妬する年ごろじゃないぜ。


「いえ、また今回も、仕事がうまくいかなくって。昨日も先輩に怒られてしまって」


 ほう。それは、初耳だな。彼は、雄二は、確かに少し要領悪いところはあったがまさかそんなことで悩んでいたとは。なんで私に相談してくれないんだ…?というかこの女と雄二の関係はなんなのか…。互いに敬語使ってるぞ。


「そうですか。大変でしたね。なかなかうまくいかないもので」

「そう、ですね。高崎さんの、言う通りにしたら少しだけよくなったんですけど」


 高崎、それが彼女の名前か。当然ながら聞き覚えのない名前だな。どちらさまかしら。


「それはそれは。少しでもお役に立てたならよかったです」

「高崎さんは、すごいですね。俺と大して変わらない歳なのに」


 なるほど。高崎さんはほとんど年が変わらないのか。そういう割には何だか大人っぽいというか達観しているというか。しかしなんだか私と雰囲気とかしゃべり方にてるな。お?一応言っておくけど普段は私だってああいうしゃべり方出来るんだからな?変人の自覚あるから隠すことだって多少はできるんだぞ。ちなみに私と彼は同い年だ。


「いえいえ、私なんかまだまだですよ。昔から失敗してばっかりで」

「それでも、ですよ。見方も、考え方も、知的で落ち着いているといいますか」

「それは褒めすぎですよ?私はただたくさん失敗した経験があるから、その分色々なものの見方を覚えただけです」


 ほぇー。なんか、格好のいいことを申すなこやつ。適当に生きてきた私にはよくわからねーや。というか生きるだけで精一杯だったような気もする。そんなんだから彼氏に浮気されたんだな(落ち込み)。

 そのあとは色々世間話をしているのでそこらへんは割愛しよう。仕事で雄二がどんなミスしたとか、高崎さんが過去にどんなミスをしたとかなんとか。雄二はお客さんからなかなか好かれないらしいとかなんとか。ここからどう浮気に持ってくんだろう。人生相談から浮気か。


「さて、それでは今日はこれくらいにしておきましょう。あまり長くいると彼女さんにも申し訳ないですし。雄二さんもそろそろお仕事ですよね?」


 もう別れるのか?あれ?浮気は?浮気ってこれのことか?喫茶店に行くくらいが浮気…?

 ふむ、もしかして気持ちが浮つき始めたって意味で浮気なのか。そういう意味なのか。


「それではまた、何かありましたらご連絡ください。是非とも時間をお開け致しましょう」


 そういって彼女は伝票を持って立ち去った。ということはやっぱり今回の件で気持ちが浮ついただけってことか。神様様もなかなか難しい性格してるのかな。いやでも可能性から潰せるってことはその方がいいのか。ありがとう神様様!!

 

 雄二も帰るみたいだし、もう少ししたら私も帰るかな。


ーーーーー


 あの後せっかくだからちょっとケーキも頂いて、ついでに買い物して、彼の職場に彼がいることを確認してから帰りました。私は携帯ショップの店員で、彼は飲食店で働いてるので割と簡単に覗くことが出来るのだ(互いに)。

 そして変装っていっていいのかわからないけどを解いてお家で寝たふりをする。何しろ仮病していましたからな。

 しかし、仮病で休むって暇だな。スマホでゲームでもしてるか。

 そんなことをしていると彼が帰ってきた。気が付いたらもう夜10時じゃないか。私、どれだけ夢中になってスマホいじってたんだろう。ありがとうバサラ様。あなたは私の癒しです。


「ただいま、杏子」

「おかえり雄二ー」


 よし、まともに返事出来たぞ。流石順応力の高い私。浮気してきた彼にもしっかり対応できるなんて、時間ってすごい。1カ月も我を失っていたとは思えないぜ。

 ふむ、しかし多分、今回できることは何もなかったよな?喫茶店でお話してたくらいだし。それすらも否定するのは器が小さすぎるような。うーむ。

 とりあえず釘を指しておくか。


「雄二ー」

「うん?どうしたの?」

「浮気、しないでね」


 彼の手が止まる。料理をしていた手が。そのあと笑顔で言ってくれる。


「もちろん、杏子が一番だよ」



◆◇◆◇◆


『で、君はその言葉を信じちゃったわけだ』


 はい、その通りでございます。神神様。はい。


『その結果、君の未来は、君の現在はどうなったかな?』


 はい、何も変わっておりませんでした、はい。


『そんな一言言ったくらいで変わると思うなんて、楽観的なんだね』


 返す言葉もございません。


 あの後、ご飯を食べてお風呂に入って寝てみたら、私は再びあの白い空間にいた。

 そして神様様に未来(私にとっては現在だけど)がどう変わったかを見せてもらったのだが。

 私は家に1人きりでいた。つまり、そういうことなんだろう。

 ダメだったかー。そりゃそうかー。あんな一言で変わるわけもないのだな。わはは。


『一人で回想してるところ悪いんだけど、僕には読めてるからね?』


 うぉ、そうだった。相変わらずプライバシーもないっすね。

 一つ疑問なんですけど、もしかしてやり直せるのって起きて寝るまでの間ですか?


『言ってなかったけ?そうだよ。寝て起きたら君は変わった過去を見ながら反省会を開きまーす』


 反省会ですか。反省会。うーん。


『例えば君は今回のリープでどんな情報を得たのかな?』


 そういうことか。えっと、浮気相手の名前が高崎さんで、年が近いけど大人びてるってこと?あとは雄二が仕事のことで悩んでいること!


『そうそう、そういうこと。そうやって情報を集めてどうしたらいいかを考えていこうね』


 なるほど。話を聞いてた感じ、雄二が仕事に悩んでいることを私が聞いてあげればいいのかな?


『そうでもあるんだけど、もう一つ言い忘れてたことが』


 え、何かあったんすか?何すか?やばいこと?


『やばくもないと思うんだけど、実はね。リープしたことは次回に引き継がれない方式なんだ』


 次回に引き継がれない?


『なんといえばいいかな。上手い説明かはわからないけど、君はある1日だけを繰り返して、そこですべての決着をつけなきゃいけないんだ』


 なるほど。1日で。1日かー。

 え!?1日で!?


『リープできる時間は起きてから寝るまでの間。リープで変えた結果はそれっきりでやり直してしまったら消える。元に戻ってしまう。つまり1日ですべてを変えなければ君の未来は変えられない』


 何それ無理ゲー。私今回1日で何かできたかわかってる?情報収集しただけだよ?


『だから、そうやって情報を収集していって、1日で何とか未来を変えるんだよ、これはそういうゲームだ』


 なる、ほど?そうか、そういうことか。難易度はめちゃくちゃなくらい高いけど、そういうものか。


『そうだよ。それで、次はどの時間に戻る?もう一回同じ日を繰り返す?』


 …!そうか!その選択はできるんだもん!そうだね!

 じゃあ、次は、そうだな。私が、彼の浮気を見た日、にしてくれるかな?


『いいけど、なんでまたその日なんだい?』


 私が彼の浮気を知らなかったら、どうなるか見たかったから。


『そうか。わかったよ。いってらっしゃい』


 そしてまた目の前が真っ暗になるのであった。



◆◇◆◇◆


 結論から言って、私の未来は変わらなかった。彼が浮気した日、私が仕事を午前中に終わらせた後も喫茶店に行ったり、友人を誘って夜遅くに変えることで浮気現場を見なかった世界にしたはず、なのだ。

 しかし何がどうして駄目だったんだろう。どうして私は浮気現場を見てなかったのに一人きりで家にいたんだ?


『それは、彼がまた浮気したからだよ。そして君はその現場を見たからだ』


 なんと!神神様はそんなこともわかるんですね!また浮気したのかあいつ、信じられねぇ。というかそんなことわかるなら、私がどうしたら浮気されないかとかわからないんですか?


『うーん、難しいね。僕は君が起こした行動の結果はわかっても、起こすまではわからないんだ』


 頼りにならないっすね。


『そう言われると、何とも言えないけど。僕に出来ることは杏子、木下杏子。君の手助けだけなんだ。だから君が行うことの手助けはできるけど、導くことはできない。そういう存在なんだ、僕は』


 ほえー、難しい存在なんですね。というか神神様は私なんかの魂をもらってどうするの?


『僕みたいな存在って、人からの信仰心とか、人の魂がないと存在を維持できないし、力が減っていくんだ。そんな中でも君の魂は純粋だから、より大きな力を得ることが出来るんだ』


 純粋。そうか。そんな褒め方は初めてだ。


『そういえば、もう1つ、方法があるんだ。タイムリープじゃない過去に戻る方法』


 えー!?何それ聞いてないっすよ!?


『初めて言ったからね。その方法っていうのが少し問題があってね。タイムリープではなく過去に戻れるし、1日だけじゃない。ずっといることが出来るんだ。しかし、過去に戻ったら君はまた同じく君じゃなくなる。これは前みたいな哲学的な意味じゃなくて本当に別人になるんだ。木下杏子ではない、別の女性として過去に戻ることになるんだ』


 それは、なんだかなぁ。それはその時の私はどうなるの?


『過去に戻った君とその時代の君は別に存在することになるよ。そういうところは猫型ロボットみたいな感じかな』


 なるほど。そういうことか。しかし、別人として過去に戻ってどうなるの?それだと浮気を止めるも何もなくない?


『そうだね。過去に戻った君はそのままずっと戻れない。別の人生を歩むことになる。そこで彼と付き合おうとするなら君は過去の君から彼を奪うことになる。かといって彼が浮気するのを止めたとしても君は彼とは付き合えずに生きなければならない。だからこの方法は言わなかったんだ 』


 確かに、そうだね、その通りだね。私はそんな方法はとれないな。


『だと思ったよ。それで、次はどうするんだい?どの時間に戻る?』


 次は、そうだなーーー。


―――――


 3ループ目。彼が高崎なる女性と初めて会った日に戻る。彼女は店の客として近づいたらしい。彼が料理を作るのに失敗したらしく、落ち込みながらもホールとして働いているところが出会いのようだ。4月のことだった。

 4ループ目。彼と高崎さんの初めての密会を見る。6月のことだった。

 5ループ目。彼が高崎さんと密会する約束の日を見る。これも6月のことだった。

 10ループ目。彼と高崎さんの最初の性行為を見る。11月のことだった。気が狂いそうで狂おしくて発狂しそうだった。このときから彼は高崎さんをかなえさんと呼ぶようになる。高崎かなえというらしい。

 20ループ目。彼と付き合った日をやり直す。付き合わなかったことにした。結局付き合うことは変わらなかった。

 50ループ目。彼と高崎さんの時間。彼と私の時間。たくさんやり直したけど、未来は変わらない。彼は浮気をするし、私は彼と付き合うし別れない。

 52ループ目。彼が浮気した後に、彼氏が浮気したことは知らない設定で別れようかと画策。別れてはくれなかった。そもそも浮気されてるのだから意味がないことに気付く。もう正常な判断もできないのかもしれない。


 何度繰り返しても、何度やり直そうとも、私の未来は変わらない。変わらないんだな。そうなのか。


『それで、どうするんだい。君は、諦めるのかい?』


 私は。

 私は。

 私は。

 私はどうしよう私は、もう。


『君は、彼に、沢城雄二に対しては様々なアプローチをかけてるのに、彼女、高崎かなえには何もしないんだね』


 そういえば。そうだったかもしれない。高崎さん、高崎かなえさんにはなにもしてなかったかもしれない。


『彼女に対して直接行った方が、早かったんじゃないかな』


 そうかもしれない。その方が賢明だったかもしれない。


『じゃあ次はそうしてみるかい?』


 …。いや、しない。私は、高崎さんに対しては何もしない。


『…そっか。どうしてなのか聞いてもいいかな?』


 高崎さんは、確かに雄二に私という彼女をいることを知っている。その上で雄二と関係を持っている。でも、高崎さんから雄二を誘ったことはないって。少なくとも私が見てきた中ではないんだって。彼女は浮気という関係を持ちたいわけではなく、ただ雄二を支えたいだけなんだなって、思うんだ。

 だから私は、あくまでも雄二の浮気するという気持ちを変えた、かった。


『過去形なんだね』


 うん、過去形。もういいや。


『なら、諦めるかい?』


 ううん、もう一回。もう一回だけやりたいことがある。


『いつに戻りたいんだい?』


 2月24日の土曜日。私が彼の浮気を目撃した日へ。


『わかったよ、いってらっしゃい』


 最後のタイムリープへ、いっつしょうたーいむ。


◆◇◆◇◆


 目が覚める。彼を起こす。シャワーを浴びる。ご飯を食べる。仕事に行く。午前中で終わらせる。帰る。

 こうすることで彼の浮気をしている真っ最中に出くわすことが出来る。


 家につく。ゆっくり忍び込む。そしてキッチンへ行って物をとってくる。そして彼の部屋へ。


「あっ、あぁん…あん…ゆうじ…さんっ…」


 そういえば最初に見た時は彼がただ動画を見ているとしか思わなかった。彼女がいない好きにAV見やがってわははって笑ってたのが、まさかこんなことが起きてたなんて。


「ゆうじさん、すきっ、ですっ…」

「俺も好きです、かなえさん」


 彼は、雄二は、彼女のことを、高崎さんを好きだと。そう口にしてしまった。前からだけど。またその言葉を聞いてしまった。あぁ、私は。私は。


 部屋を開ける。驚く二人。聞こえる悲鳴。否定の声。これは違うんだ。言い訳の言葉。

 何も違わない。違うことはない。彼は何度も何度でも彼女を求めた。高崎さんをどうしても何があっても。

 私が仕事の相談を聞こうとしてもはぐらかして。私には何も言わないのに高崎さんにはすべてを出して、全てを捧げ、ものにする。

 だから。だから私は。


「さよなら、雄二。さよなら」


 私はナイフで彼を刺した。何度も刺した。

 そして自分の首も切る。


 私の耳に最後に残ったのは雄二の悲鳴なんかじゃなくて、高崎さんの


「こんなはずじゃなかったのに」


 という呟きだった。


◆◇◆◇◆


 真っ白な空間。そこに1人の少年が現れる。少年は神であり、悪魔であり、この空間そのものだ。

 彼という存在は人々の信仰と人の魂を得ることで保たれ、力をつける。

 彼のような存在は他にもいるが、彼は慈愛の神であり自愛の悪魔。人々の恋路と自己愛を司るものだ。


 彼は真摯な願いを叶えることで信仰を得る。


 彼は不可能を可能とすることで魂を得る。


 そこに愛という感情が関係すること、それが彼に課せられた枷である。

 

 しかし彼はその感情を最大限利用する。利用して面白い結果を求める。


 彼に出来ることは過去を繰り返させること、過去に別人として戻すことだ。

 その2つを最大限に利用して今回は遊んだ。そう、遊んだのだ。


『だってその方が面白いでしょう?』


『今回の彼女は、とても面白かったよ。過去を何度も繰り返して彼との関係をやり直そうとした。彼との関係を崩さないでいようとした』


『しかし彼の浮気相手、高崎かなえも彼女自身だったんだ』


『そう、高崎かなえとは、木下杏子が過去に戻った姿。別人として過去に戻った姿だった、と言えばいいかな』


『沢城雄二は本来の世界では死んでいる。自殺でね。彼は仕事がそれほどまでに負担になっていたようだ』


『しかし、恋人である木下杏子の両親が死んだ時を思い出し、沢城雄二は木下杏子に相談することが出来なかった。そうして心が蝕まれていった結果、彼は自殺を選択してしまった』


『木下杏子は願った。沢城雄二が死なない世界を。僕は教えてあげた。彼が死んだ原因を』


『そうして木下杏子は木下杏子ではない自分なら沢城雄二を救えると考えた。僕に頼んだ。タイムリープではなく、別の私として過去に戻してほしい。木下杏子でないのなら、彼はきっと悩みを打ち解けられる、と』


『そして、木下杏子は高崎かなえになった』


『彼女は沢城雄二を救うために近づいた。そして彼の心を解し、彼の悩みを解決することに成功する』


『しかし、計算外なのはそれからだった。沢城雄二は高崎かなえに依存することになる。それも当然といえば当然か。自分が死のうと思うほどの心の闇を払ってくれた相手なのだから。依存もするだろう。両親を失った木下杏子の心の闇を払った沢城雄二のように』


『高崎かなえは沢城雄二と関係を持つつもりはなかった。彼を救いたいだけだった。しかし、沢城雄二は高崎かなえを求めた。求めてしまった。心だけでなく肉体まで』


『愛する男に求められた高崎かなえは拒むことなどできなかった。もう一度愛を感じたいと思ってしまった。この世界には木下杏子という彼女がいると分かっていても。かつての自分がいると分かっていても』


『その現場を見られてしまったことが木下杏子にとっても高崎かなえにとっても最大の不幸であった。おかげで木下杏子はある意味二度目の時間移動をすることになったのだ。今度はタイムリープとして』


『そしてその結果は見ての通り。木下杏子は壊れてしまい、沢城雄二を殺した。沢城雄二を救うために近づいた高崎かなえのせいで、沢城雄二はまた死ぬことになったのだ』


『それが今回の結末。皮肉にして非常な今回の結末だよ』


『なんて不幸な話なんだろう!あぁ、予想以上に面白い結末だったよ!!』


『次はどうすれば面白くなるのかな?楽しみだ』


 少年の姿は再び空間に溶けていった。

途中で飽きたので雑になってしまいました。

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