四・五話 モノローグ
その日。
秋穂の家を訪れて彼に秘密があることを知った、その日。
僕は秋穂を連れ回した。
普段なら買わないような小物を買って、普段の倍は料理を注文して、普段は一度で諦めるクレーンゲームに景品を取れるまで張り付き、普段から心に抱いていた愚痴をぶちまけた。
秋穂は笑いながら、呆れながら、最後には疲れ切った表情になりながら、暗くなるまで付き合ってくれていたように思う。途中から、記憶は曖昧になっていた。
ようやく我に返ったのは、一人で入ったお風呂の、湯船の中。頬に筋を作って流れた水滴が髪の毛から垂れてきたお湯ではないと気付いた時だった。
止まらなかった。
それでも、声だけは出さないように唇を噛み締めていた。
嫌だ。
何が嫌なのかすら、もう分からなかった。
秋穂と愛耶なら上手くやっていけるだろう。二人とは仲が良いし、今までと同じような日常が続いてくれるのかもしれない。
違う。
笑われるのが嫌だった。白い目で見られるのが嫌だった。僕だけじゃなくて秋穂まで悪く思われるのは嫌だ。
違う。
秋穂と愛耶が想い合うことが嫌なんじゃない。
他人からだろうと家族からだろうと、男が男を好きになるのは変だと後ろ指を指されることが嫌なんじゃない。
ましてや、秋穂が僕の気持ちを知ったら嫌われるかもしれない、なんて怖がっているわけじゃない。
ただ、ただ……。
湯船に浸かって、声も殺して泣いている自分が、嫌だった。
理由なんて思い付かない。
髪も身体も洗ったかどうか覚えていないまま、僕は脱衣所に出て、身体を拭いて、服を着る。
リビングにあった家族の姿はいつもと何も変わらず、けれど時計の針だけが、いつもより一時間も進んでいた。