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 ⑩

 少し陽差しが和らいだころ、悠二はいつもの定食屋で腹ごしらえをした。

 元々規則正しい食生活とは無縁だったが、せめて野菜を意識して摂るようにしようか、くらいの考えはある。

 その後、どちらのホールに行くかと一瞬迷って、昨日儲けさせてもらったオメガ店へ向かった。

 悠二は通路をねり歩きながら、遊技台のデータを集めていった。いつもとは少し違って、打っている客にも視線を走らせている。雪子の姿を探していた。先ほど娘と一緒だったので、まさか来ていないだろうと思いつつも、女性客には確かめるように近づいた。


「まいど。今日はどんな具合っすか?」

 島の一番端の遊技台で、特徴のある薄らハゲを見つけて声をかけた。

「…………。えらいサッパリしとるがな! 一瞬、誰かと思ぅたで。またバッサリいったもんやなぁ。へぇ……へぇ……。――あぁそうそう、昨日はご馳走さんやったなぁ。今日はちょっと調子がええねん。コーヒーぐらいは奢らせてもらうわ」

 金田は煙草をもみ消すと、意気揚々とドリンクコーナーを指差した。

「お、そうなんすか」

 悠二は金田の台を覗きこんで、およそ十分後になるかと予想した。その間に他のコースを巡ってしまおう、と急いだ。

 ドリンクコーナーの椅子に座ってテレビを見ていると、金田が首を傾げ、右肩を回しながらやってきた。その顔が(ええ仕事したわぁ)と語っている。


「カンちゃんら、あれから何時頃まで飲んどったん?」

 金田は悠二の好みも訊かないで、同じ缶コーヒーを二つ買った。

「あれから、一時間くらいっすかねぇ」ペコッと頭を下げる。

 缶コーヒーを受け取りながら、顔を背けて失笑を隠す。奥さんから呼び出され、慌てふためく昨夜の金田を思い出してしまった。

「昨晩、一緒やったユキちゃんなぁ。ウチのコンビニでよう買い物してくれはるんやけど、あんなにじっくり喋ったんは初めてやったわ。あ、れ、は、ええ女やでぇ」

 金田は一口飲んでから下衆な笑いを浮かべた。

 話している間も、金田の視線はチラチラと、悠二の頭を捉えている。よほど他人の髪型が気になるようだ。

 悠二も調子を合わせていやらしい笑みで返したが、内心には昨夜その雪子を抱いた、という優越感があった。

「俺は初めて会ぅたんすけど、あの人、アルファかオメガの常連さんやないっすよね」

 パチンコ談議にあれだけ長い時間を費やして「普段はどこで打ってるんっすか」と、一回も訊かなかった。

 パチンコホールには、それぞれに特色があるので、経験談を語る場合、どこどこの店で……というくだりは、必ずついてくるものだが。今考えると、それが不思議でならない。

「そうやなぁ。ワシも、こことアルファしか行かへんし、知らんなぁ」金田はニヤリとした。

 悠二はコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。金田の妙に勘ぐるような視線が鼻についた。当たっているだけに、逃げたくなった。

「今日は打つつもりがないいんで、明日のためにアルファの様子も見てきますわ。コーヒーご馳走さんでした」そのまま金田に手を振った。

「向こうにユキちゃんがおったら、また飲みにいこうって言うといてや!」

 悠二は愛想笑いをして、もう一度片手をあげた。



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