第二十九劇『属性』
ゼロ「はい皆さん、食糧調達してきましたよ…といっても、食べられるわけないですよね。」
天満「ぐ…くく…。」
ゼロ「あまり無理に動かない方がいいですよ?」
天満「だ…だけど…。」
ゼロ「じっとしているだけでも、今もしっかり『精神』に負荷がかかり、鍛えられています。マジ馬鹿さんも、三日間をそうして過ごしたんですよ。」
フェイ「マジそうだけどよ…てめえに言われんのはマジムカツク!」
イオキス「安心するんだ…確実に…『戦闘錬値』は…上がっている…。」
リアリィ「でもでもぉ、はっきし言ってぇ、こんな状態で六ヶ月なんて無理じゃないのかなぁ。」
ゼロ「…ユエさんは何か根拠があって、我々に六ヶ月を生きろと言ったはずです。しかし…。」
シャウト「そうだな…。」
ゼロ「ん?シャウトさんは体、大丈夫なんですか?」
シャウト「ん?ああ、今のところはな。」
ゼロの心「おかしいですね…。いくら霊神とはいえ、もうすでに『許容量』を越えてもいいはずですが…。」
イオキス「どうか…したか…ゼロ…。」
ゼロ「イオキスさん、シャウトさんの『戦闘錬値』は今どうなっていますか?」
イオキス「なんだ…いきなり…。」
ゼロ「教えて下さい。」
イオキス「………順調に…上がり…続けているぞ…。」
ゼロ「それなのに……そうか!シャウトさんは元々『錬物質』だけで出来ています!人と違って『錬』を受け入れる時に邪魔をする『物質』がない!」
フェイ「マジどういうことだ?」
ゼロ「例えば、シャウトさんと天満くんが、戦いで傷を負い、『錬』を大量に消費したとしましょう。」
フェイ「あ、ああ。」
ゼロ「天満くんが完全に回復するためには、薬を使って傷を治し、体を休めて『錬』を回復させるしかありません。」
フェイ「んなことマジ当然だろ!」
ゼロ「ではシャウトさんの場合もそうでしょうか?」
フェイ「え…?」
リアリィ「そっか…霊神のシャウトは、大気に漂ってる『錬』を取り込めば…。」
フェイ「あ!」
ゼロ「そうです。そうやって気脈の流れに意識を集中するだけで、素直に、そして素早く『錬』を吸収し、自然に、それも僅かな時間で完全回復出来るんです。そうですよね、シャウトさん?」
シャウト「ああ、そのとおりだ。実際にネオスとの戦いでも、『超霊化』しても、霊神達はすぐに回復した。」
ゼロ「やはり…。」
フェイ「だがよ、マジそれがどうしたってんだよ。俺達は人だし、マジ関係ねぇだろ?」
ゼロの心「いや…ユエさんのことです。何かあるはずなんです。この状況を越える何かが!」
天満の心「…そうか……霊神に…なれば…この痛みは……だけど…だけど……。」
サリーオ「そろそろかね。」
天満「サリーオ…さん?」
サリーオ「さてと、ゼロ。」
ゼロ「ん?どうしました、サリーオさん?」
サリーオ「皆一列になってくれるかい?」
ゼロ「え?」
リアリィ「サリちゃん、どういうこと?」
サリーオ「ユエが何で戦闘向きじゃない、『スタンスエリア』のアタシをここに送ったと思う?」
ゼロ「…。」
リアリィ「ああ!そういやサリちゃんの『エリア』は!」
サリーオ「さあ、やるから一列になりな。」
ゼロの心「『スタンスエリア』は『ネイチャーエリア』とは違い、『レベル2』までしかない。だがその代わり、効力を広範囲に持続させ続けることが出来ます。ユエさんの根拠は、サリーオさんの『エリア』だったというわけですか…。」
サリーオ「私の『エリア』で、アンタ達の『属性』を統一する!」
ゼロ「統一?どういうことですか?」
サリーオ「なあに簡単さ。アンタ達はそれぞれ『錬属性』というものがあるだろ?『潜在特性』と言ってもいい。」
ゼロ「はい、天満くんが『月』、アイズくんが『糸』、サイガさんが『刃』と言ったように、皆さんそれぞれ違う『錬属性』を持っています。」
サリーオ「それを統一するんだよ。」
ゼロ「そんなことが可能なんですか?『属性』は天性のものです。生まれつき備わっている『力』を変えることなんて出来るとは思いませんが…。」
サリーオ「…ゼロ、どうしてココはいるだけで負荷がかかり、苦痛を味わうんだった?」
ゼロ「今更何ですか?」
サリーオ「いいから答えな。」
ゼロ「…分かりました。何故負荷がかかるのかというと、大気を漂ってる大量の『錬』が強制的に体に流れ込まれてくるからです。その時に、自らの『錬の許容量』が無理矢理広げられ苦痛を伴うわけです。」
サリーオ「じゃあシャウトが無事なのは?」
ゼロ「ですからそれは、シャウトさんは霊神で、元々『錬』で構成されてますから、いくら流れ込んでも……あれ?おかしいですね…どんな霊神も『属性』があります。」
フェイ「マジそれが何かおかしいのか?」
ゼロ「シャウトさんは『鏡属性』。痛みを伴うのは『属性』の違う『錬』を受け入れる時に、『許容量』に変化が起こり、無理矢理広げられてしまうからであって、それは霊神でも同じはず…何故?」
サリーオ「それは霊神は『純属性』だからだ。」
ゼロ「『純属性』?」
リアリィ「確かユエに聞いたことあるよ。霊神だけがそうなんだよね?」
サリーオ「ああ、確かに人も霊神もそれぞれ『錬属性』を持っている。だけどね、人と霊神が違うところ、それは、人の持つ『錬属性』は一つじゃないってことなのさ。」
フェイ「マジさっぱりだぜ。」
サリーオ「霊神は一つの『属性』が合わさり生まれてくる。何一つ不純物無くな。例えば大気に漂う『火の錬』、それだけが集まり『火の霊神』が生まれる。」
ゼロ「そう…ですね。」
サリーオ「大気には様々な『属性』の『錬』が漂ってる。霊神はその『錬』を取り込む時、瞬時に自らの『属性』へと変化させられる。だからシャウトは、大気に漂ってる『火の錬』を取り込み、体内で自らの『鏡の錬』にスムーズに変換させることが出来るんだ。」
ゼロ「で、では人は…。」
サリーオ「人っていうのは、様々な『錬物質』で構成されているんだよ。」
フェイ「マジどゆことだ?」
ゼロ「そうか…だから『許容量』に変化が起こり、そのせいで混乱を起こし、苦痛を伴うんですね!」
サリーオ「分かったか?」
フェイ「マジ説明しろよ!難し過ぎてマジさっぱりだぜ!」
ゼロ「つまり人は一つの『属性』だけじゃないんです。体内に何種類もの『属性』が存在しているんですよ!」
フェイ「はあ?お前さっきと言ってることマジ違うじゃねえか!天満は『月』でアイズってやつが『糸』で、マジそれぞれ違う『錬属性』を持ってるってマジ言ってたじゃねえかよ!」
ゼロ「ええ、間違いありません。」
フェイ「だったら!」
ゼロ「確かに人は『属性』を持っています。ですがそれは体内にある最も多い、生まれつき増えやすい『属性』のことだったんですよ。」
サリーオ「ご名答。」
フェイ「え?え…はあ?」
ゼロ「つまり、人の体内には大気のように、様々な『属性』の『錬』があり、その中で最もその人に合った強い『潜在特性』が、その人の『錬属性』なんです。」
フェイ「じ、じゃあよ…マジ俺ん中には他の『属性』があるってのか?」
ゼロ「あなただけでなく、僕の中にも『氷』以外に、サイガさんの『刃の錬』や、あなたの『水の錬』があるんですよ。」
フェイ「マジかよ…。」
サリーオ「まあ、だから人は環境に対して、適応能力が極めて高いんだがな。」
ゼロ「人には体内に様々な『錬』があるせいで、大気の『錬』を取り込んだ時、それが自らの『錬属性』でない場合、変換出来ず、余分な『錬』が体内に入り、無理矢理『許容量』をこじあけられ、苦痛が生じるんですね。」
サリーオ「少し違うな。」
ゼロ「え?違う?」
サリーオ「変換は出来るんだよ、人でもな。」
ゼロ「そうなんですか?」
サリーオ「じゃなかったら、『錬属性』が変わってしまわないか?」
フェイ「マジそうだぜ!俺が取り込む『錬』がマジ『火』ばっかだったら、体内の『錬』の量が逆転して『水属性』からマジ『火属性』になっちまうからな!」
ゼロ「では何故苦痛が生じるんですか?」
サリーオ「確かに変換は出来る。だがね、霊神と違って『純属性』じゃない。だから取り込む『錬』全てを変換出来るわけじゃないんだよ。」
ゼロ「全部じゃない…ですか?」
サリーオ「ああ。例えばゼロ、今アンタに大量の『錬』が流れ込んでいるだろう?」
ゼロ「はい。」
サリーオ「その『錬』は『火の錬』だとしよう。すると、アンタの体内では何が起こっているか…。」
フェイ「何が…。」
サリーオ「ゼロ、アンタの中にはもちろん『火の錬』もある。取り込んだ『火の錬』は当然、体内の『火の錬』の場所に送られていく。」
ゼロ「はい。」
サリーオ「だがここであることが起きる。」
リアリィ「あること?」
サリーオ「体内には『錬バランス』というものがあるんだよ。」
リアリィ「それで?」
サリーオ「その『錬バランス』を保つように、振り分けられるんだよ。」
ゼロ「なるほど。その『バランス』の中心である僕の『氷の錬』と『火の錬』が2:1だとしたら、たとえ取り込んだ『錬』が『火』だとしても、『バランス』を保つように振り分けられるというわけですね。」
サリーオ「ああ、だがここでは体内の『錬バランス』に急激に変化が生じるため、苦痛という代償がついてくるんだ。」
ゼロ「全く知らなかったですよ。」
リアリィ「それでサリちゃんの『エリア』を使うんだね!」
サリーオ「そうだ。アタシの『薬のエリア』で、『錬バランス』を統一させるんだよ。ま、一時的ではあるが、体がこの空間に慣れるまではもつだろうね。」
ゼロ「もしかしてそれがサリーオさんの『レベル2』ですか?」
サリーオ「そうだ。体内の『錬』を一つに統一する。つまりは霊神と同じ状態になるってわけだね。そうすれば、素直に『錬』を取り込むことが出来る。」
ゼロ「凄いですね…。」
サリーオ「もちろん条件もある。皆にこれを服用してもらわなければならない。」
ゼロ「これは…『フォンス』のようですが?」
サリーオ「アタシが作った『薬』だよ。」
リアリィ「うわぁ…何か苦そう…やだな…。」
サリーオ「つべこべ言うな!それはアタシが作った『法薬』で、アタシの『力』に感応してくれるものだ。」
ゼロ「そうか、普通他人の『錬』は、自らの『錬』と反発してしまいます。それでこの『法薬』を服用し、サリーオさんの『錬』を長く持続させる効果をもたらすんですね?」
サリーオ「よし、じゃあやるよ!」
ゼロ「お願いします。では皆さんに『法薬』を!」
フェイ「仕方ねえな。」
リアリィ「まっかせてぃ!」
イオキス「了解した…。」
天満「ん…ゼロ?」
ゼロ「強くなりましょう、天満くん。」
天満「…ああ。」
サリーオ「じゃあ行くよ!『薬のエリア』…『レベル2』!…『薬写』!」
天満「…ん……あ。」
真雪「ん…。」
天満「大丈夫か、真雪?」
真雪「体の痛みが…消えた?」
アイズ「これは…。」
サイガ「さっきまでの痛みがウソみたいやで。」
にゅう「良かったにゅ〜!みんな元気になったにゅ〜!」
ゼロ「そういやいましたっけね、にゅうさん…。」
シャウト「にゅうも霊神みたいなものだからな。」
サリーオ「ふぅ…。」
ゼロ「ご苦労様です。」
サリーオ「ああ…これからだな。」
ゼロ「そうですね…これからです。」
次回に続く