第二十七劇『部屋』
天満「それにしてもアイズ達、よく『蟲』達を退けられたよな?」
アイズ「…いや、認めたくはないが、イオキスが教えてくれた『戦闘錬値』とやらが正しいなら、僕やサイガには荷が重かっただろうな。」
天満「え?戦ったんじゃないのか?」
アイズ「『蟲』達は僕達と戦おうとはしなかったんだ。」
天満「じゃあ…。」
アイズ「…イオキス、あのマグナオウとやらは別格として、他の『蟲』の『戦闘錬値』はいくつだったんだ?」
イオキス「1800だ…。」
アイズ「…やはりな。言葉すら話せない雑魚の『蟲』すら、その強さだ。それにあの数、本気で襲われれば、僕やサイガやシャウトは殺られていた。」
サイガ「…。」
シャウト「つまり『蟲』達は、我々を殺すよう命令されていた訳ではないということだ。」
アイズ「ああ、恐らくは偵察だろうな。」
ゼロ「そのようですね。この事から察するに、アイオーンは自らの手で、『地球』を滅ぼしたいみたいですね。手下ではなく、自らの『力』を持って。」
天満「じゃあアイズ達は『蟲』達を…。」
アイズ「ああ、全部倒せたと思う。相手は無抵抗だし、倒すには難しくはなかった。」
ゼロ「…本当に全部倒せたんですか?」
シャウト「少なくとも、ここら辺にいた『蟲』達はな。」
ゼロ「もし一匹でも倒せ損なったとしたら…。」
天満「うん…危険だ。」
ゼロ「唯一の救いは、ここが『月』だということですね。恐らく『蟲』達は、『光』を感知して来たはずです。」
天満「そうか、アイオーンは『地球』を探している。だけど今は…。」
シャウト「今『地球』はただの星だ。『光』も何もない。」
アイズ「アイオーンが『月』に興味を持たない限り、たとえ僕達の存在が知れても、すぐには来ない…か。」
サイガ「せやな、アイオーンが興味を持たへんよう、祈るしかあらへんな。」
天満「幸いアイオーンが知っているユインシスが、『蟲』達に見られていなかったしな。」
ゼロ「そうですね。ただし、アイオーンの目的は『完全なる無』です。いずれここにも必ず来ます。その前に僕達がするべきことは一つです。」
サイガ「するべきこと?」
ゼロ「強くなるんです。」
天満「そうだ…そうだよ!アイオーンの『戦闘錬値』は83000以上…今のままじゃ、アイオーンに汚れすらつけることは出来ない!」
アイズ「ああ、一方的に殺られるなんてごめんだ。」
シャウト「だが時間も限られている。どうする?」
ゼロ「ユエさんなら、何か方法を知っているはずですよ。」
天満「そうかもしれないな。よし、ユエの所に行こう!」
皆「ああ!」
天満「…ところでイオキス達は?」
ゼロ「恐らく先にユエさんの所へ行ったのでしょうね。」
天満「俺達も行こう!」
(剣斗達は)
剣斗「この『光』が?」
クロノ「そう、『フォンスの光』です。」
ミラァ「じゃあこれで、アタシ達にも『エリア』が?」
クロノ「まだです。」
ミラァ「何でぇ!」
クロノ「その『光』をコントロール出来て、初めて『エリア』を使えるんです。」
琴花「ど、どうすりゃいいの?」
クロノ「どんな『エリア』になるかは、あなた達の想い次第です。いいですか、あなた達に合った、あなた達自身を見つめなさい。」
(天満は)
天満「ユエ、じゃあ方法があるんだな?強くなる方法が!」
ユエ「ああ、上手くいけば爆発的に『力』が増す…だろうな。」
アイズ「何か気になる言い方だな。」
シャウト「やはり…リスクがあるのか?」
ユエ「失敗すれば、『フォンス』そのものを失う。」
天満「失うって…この手の『フォンス』をかい?」
ユエ「あ、言い方が不適説だったな。そうではなく……そういえば『フォンス』の意味を知っているか?」
天満「そういや…。」
アイズ「聞いてないな。」
ユエ「そうか。『フォンス』の意味は『心』。」
天満「『心』…。」
ユエ「つまり『フォンス』を失うとは、『心』を失うということだ。」
天満「じ、じゃあ!」
ユエ「ああ、強くなるか……『精神崩壊』するかだ。」
シャウト「何てことだ…。」
アイズ「そんな危険なのか?」
ユエ「この方法は、直接『精神』を鍛えることが出来る。」
サイガ「『精神』を?」
ユエ「いいか、普通『精神』を鍛えるには、『肉体』を通して、少しずつしか鍛えることが出来ない。だがこの方法を取れば、直接『精神』のみを鍛えることができ、『心』…すなわち『フォンス』を強くすることが出来るのだよ。」
シャウト「成程。『エリア』の強さは『心』の強さ、『心』を鍛えることが出来れば、『エリア』を爆発的に向上させることが出来るというわけか。」
ユエ「そのとおりだ。」
シャウト「それで、その方法とは?」
ユエ「ある部屋へ入ってもらう。」
天満「部屋?」
ユエ「ああ、『暁の部屋』にな。」
天満「『暁の部屋』?」
リアリィ「リアリィちゃんも入ったんだよ!」
アイズ「どんな部屋なんだ?」
リアリィ「えっとね、中は『錬』が大量にあってね、それが自然と勝手に自分の中に入り込んでくるの!」
アイズ「勝手に!そ、そんな部屋に長時間いたら!」
リアリィ「うん、制御出来なくなって、『肉体』も『精神』も崩壊していくんだよ。」
フェイ「マジ俺らも入ったけどよ…マジきつかったぜ。たった三日でマジ限界だったしな。」
天満「ユエ、本当に大丈夫なのか?」
ユエ「分からん。」
サイガ「分からんってな!ちょっと待ちぃな!」
リアリィ「でも『力』はつくよ!」
サイガ「え?」
フェイ「確かにマジキツイが、たった三日で俺らは『レベル3』にマジ辿り着けた。そこの嫌味野郎もマジ入ったんだぜ。」
ゼロ「…。」
天満「本当か?」
ゼロ「ええ、まあ。」
リアリィ「でもゼロは五日もいたけどね。」
天満「そんなとこで五日も!」
ゼロ「いやぁ、マグレですよマグレ!」
フェイ「ちっ、ホントにマジ嫌味な野郎だなてめえは!マグレであんなとこにマジ居れるかっての!」
シャウト「しかし、ゼロのように『力』がつくのなら。」
天満「ああ!ユエ、頼む!」
ユエ「アイオーンが来るまで時間は残り少ない。命を懸けるしかないぞ?」
アイズ「望むところだ。」
サイガ「死ぬつもりなんてあらへんしな。」
真雪「…。」
サリーオ「どうした真雪?」
真雪「…私も入れるのでしょうか?」
サリーオ「……天満と離れたくないんだな。」
真雪「…はい。」
サリーオ「行ってきな。」
真雪「いいんですか?」
サリーオ「真雪に合った、真雪自身の『力』を探して来な。」
真雪「はい!」
ジウ「ふ……熱い奴らだな。」
ユエ「では早速入ってもらう。」
天満「そういやユエ、俺達はどれだけの時間入ってればいいんだ?自由に外に出てもいいのか?」
ユエ「いや、当分出入口は消す。向こうからは、こちらへ出て来れない。」
天満「な、何でそんなこと!下手すれば死ぬかもしれないんだぞ!」
ユエ「何度も開くことが出来ないからだ。」
天満「一体どういう…。」
ユエ「一度開けば、中にある大量の『錬』が外に逃げる。再び同じ状態に戻すのに、かなりの時間がかかる。」
天満「じ、じゃあ入る時も逃げるんじゃ…。」
ユエ「いや、君達を送り込む時は、扉は開かなくても済むんだ。」
天満「?」
ユエ「ゼロだよ。」
天満「……あ!『氷紋』か!」
ユエ「そうだ。」
天満「ち、ちょっと待って!じゃあさ、帰る時もゼロに頼めば…。」
ゼロ「無理なんですよ。」
天満「どうしてだい?」
ゼロ「中にある大量の『錬』が邪魔をして、僕の『力』が反響してしまうんです。中に入る時は、ここで『力』を発動させるだけですから大丈夫なんですがね。」
天満「そっか…。」
サイガ「せやけど、『氷紋』っちゅうのは、ホンマに便利やなぁ。」
アイズ「『氷』でマーキングしたところなら、何処へでも『瞬間移動』が出来る。」
サイガ「反則やな…。」
ゼロ「ふふ、ですが強い『力』には、それ相応のリスクがあるものなんですよ。『氷紋』もまた然りです。」
天満「リスクって?」
ゼロ「これはマジ馬鹿さん達も知っていることですが、『氷紋』は一日に五回、しかも行う度に体力を著しく低下させてしまうんですよ。」
天満「そうだったのか。」
ゼロ「『氷紋』は、一対一には無類の強さを発揮出来るんですが、相手が複数の場合に限っては、とても不都合な技なんです。戦うとしたらですけどね。」
アイズ「だがそれでも、有効範囲の広い技だな。」
シャウト「やはり『エリア』には驚かされるな。」
ゼロ「そういうば、シャウトさんだけが、『レベル2』を覚醒させられたんですよね。」
天満「ホントか!さすがはシャウトだな!」
アイズ「霊神…だからか?」
ユエ「そうだ。霊神は『錬』の集合体。普段から『錬』の扱いに慣れているお陰で、『エリア』の向上も速かったというわけだ。」
天満「霊神は自ら『錬術』を発揮出来るもんなぁ。」
サイガ「羨ましい限りやで。」
天満「そういやユエ。」
ユエ「何だ?」
天満「さっきも聞いたんだけど、俺達はどのくらい『暁の部屋』に入ってるんだ?」
アイズ「ゼロが五日間だったことを考えて……一週間くらい…か?」
ゼロ「それではアイオーンには届かないでしょうね。」
アイズ「じゃあお前はどのくらいだと思うんだ?」
ゼロ「ん……一ヶ月くらいでしょうかね。」
フェイ「マジ馬鹿言えっ!そんなもんマジ死んじまうわいっ!」
ゼロ「そうですか?」
天満「ユエ、一体どのくらいの時間なんだ?」
ユエ「ふふ…。」
皆「…。」
ユエ「六ヶ月だ。」
(銀河の彼方では)
?「よし、ご苦労じゃった。」
蟲「キィー!」
?「マグナオウが殺られたとなると……よもやアタリというわけかのぅ。さて、報告は……せずとも良いか。わざわざ奴の得となるようなことはする必要あるまいて。こちらはこちらで、準備に時間を食うからのぅ。」
蟲「キィー!」
?「奴がワシを?」
(アイオーンの所へ)
アイオーン「三人とも、報告せよ。まずは『ベル』よ。」
ベルクカイザー「我が担当銀河には、生命ある惑星はございませんでした。」
アイオーン「ふむ、『リム』よ。」
リムキュラァ「私が担当した銀河には、生命ある惑星こそございましたが、閣下のお探しのモノはございませんでした。」
アイオーン「……『アポ』よ。」
アポカリュウス「……特に閣下に報告するような情報は無いですじゃ。」
アイオーン「…醜いな。」
アポカリュウス「は?」
アイオーン「ベルもリムも美しい出来映えだ。余の最高傑作。だが何事も失敗作はあるのだな、アポよ。」
アポカリュウス「……。」
アイオーン「主の顔は醜い。完全な失敗作。余の最も嫌いな老いの姿。忌々しい姿だな、アポよ。」
アポカリュウス「く…。」
アイオーン「もうよい、三人とも下がれ。引き続き調査をし、何か良い知らせが有ったら知らせよ。」
ベルクカイザーとリムキュラァ「はっ!」
アポカリュウス「……。」
アイオーン「余はまた少し眠る。起きた時に余を喜ばせよ。楽しみにしておるぞ。」
アポカリュウス「……。」
次回に続く