第二十三劇『悪誕』
ユインシス「では話そう。我が『時の国』で生まれた『悪魔』のことを。」
(ユインシスの過去)
ユインシス「最近の現状、どう思う『アリス』?」
アリス「よくありません…。『黒の波紋』の影響が『時の国』にも…。」
ユインシス「そうか…ユエの遺した文献に載っていた『黒の波紋』…。文献によると、その『黒の波紋』の『源』が『地球』を滅ぼしたと。」
アリス「ユエ様にも、その『源』が何か、お分かりにならなかったのですね。」
ユインシス「ああ、分かっていることは、『源』の絶対的な『負の力』、そして、全てを覆う『暗い恐怖』。それらが『地球』を覆い、一瞬で『地球』を消滅させたことだけだ。」
アリス「何故ユエ様は、お気付きにならなかったのでしょうか?」
ユインシス「気付かなかったわけではないだろうな。ただ気付いても、何も出来なかったんだろう。それほど『源の力』は絶望的なものだったんだろう。それに…。」
アリス「『地球』と連絡もままならなかったのですね。」
ユインシス「ああ、だからユエは決めた。たとえ自分の『力』で、『源』を破壊出来なくても、未来に…望みを託そうと。」
アリス「はい…。」
ユインシス「それにユエには時間が無かったからな。自分の残された時間の全てを、ただ『源』を討つために…。」
アリス「我々をお創りになられたのですね。」
ユインシス「……だが、俺達に何が出来るのだろう。」
アリス「お兄様…。」
?「ユインシス様!」
ユインシス「ん?」
?「大変です!」
ユインシス「どうした『クロノ』?」
クロノ「上空に『黒の波紋』が!」
ユインシス「何っ!」
(三人は部屋から出る)
ユインシス「あれは!くっ、ユエが創った『結界』を突き破ったのか!」
アリス「そんな…今まで、しっかり『黒の波紋』の侵入を防いでいましたのに!」
クロノ「どうやら、『結界』の最も薄い部分に、集中的に集まっているみたいなんです!」
ユインシス「馬鹿なっ!アレはただの『負の塊』だぞ!そんなこと出来るはずが!」
アリス「まさか…あの『黒の波紋』には知性があるというのですか?」
ユインシス「生きているというのか?」
クロノ「分かりません。ですが、今『時の国』が危うい時なのは確かです!」
ユインシスの心「くっ……どうすればいい……『ユナイマ』…。」
アリス「どんどん流れて…。どうすればよろしいんでしょうか…。」
?「切り離しましょう。」
アリス「…『ユナイマ』?」
ユナイマ「今、『黒の波紋』が流れているのは、北の方です。ですから、あの上空から北までを全て放棄し、ここから切り離しましょう。」
クロノ「ですが、北には『時計塔』が!」
ユナイマ「仕方ありません。ユインシスと二人で決めました。このままでは、『時の国』全てが、『黒の波紋』に飲み込まれます。そうなる前に!」
クロノ「わ、分かりました!では!」
アリス「……よろしかったのですか?」
ユナイマ「…仕方ありません。それに完全に放棄するわけではありません。時期をみて繋ぎ合わせます。最も…それを『黒の波紋』が許してくれたらですけど。ふぅ……切り離して、すぐに『結界』をかけ直す必要があります。」
アリス「それなら大丈夫です。ユエ様の『結界』は自然に防御壁として、包んで下さいますから。」
ユインシス「………よし、切り離し成功のようだな。」
アリス「お兄様…はい…。」
クロノ「ユインシス様!」
ユインシス「ああ、ありがとうクロノ。しかし厄介だよ。」
クロノ「はい…。」
ユインシス「切り離した部分が、『黒の波紋』に覆われていく…。」
アリス「ですが、本当に『黒の波紋』が知性を持っているのだとしたら…。」
ユインシス「…ああ、ここも、いずれは侵されてしまう。」
アリス「どうすればよいのでしょうか?」
ユインシス「…。」
クロノ「…あの、ユインシス様。」
ユインシス「どうした?」
クロノ「『ラビ』の『力』なら…あるいは。」
ユインシス「……俺もそれは考えたさ。だけどな……あの子の体がもつかどうか。」
クロノ「しかし…もうそれしか。それに、何も『ラビ』一人に任せるわけじゃありません。ボク達『時人』全ての『力』を合わせれば、きっと出来るはずです!」
アリス「クロノ…。」
ユインシス「…分かったよ。『ラビ』に話してみよう。」
クロノ「はい!『トト』、頼むね。」
トト「はいですの!『ラビ』を呼んで来ますですの!」
(トトが『ラビ』を連れて来る)
ラビ「お話は分かりました。」
ユインシス「頼めるかな?」
ラビ「もちろんです。僕達『時人形』は、この『時の国』が大好きです。ですから、それを奪おうとする輩は許せません。」
アリス「ですが、貴方には、とても辛いことになりますよ?」
ラビ「僕なんかの心配をありがとうございますアリス様。ですが、これは僕にしかできません。いえ、是非やらせて下さい。」
アリス「ラビ…。」
ユインシス「感謝するよ、ラビ。」
ラビ「もったいないお言葉です。では早速準備にかかります!」
ユインシス「ありがとう。クロノ、皆を『結界』の中心へ集めてほしい。」
クロノ「かしこまりました。トト!」
トト「ですの!」
(『時人』全てが集まる)
ユインシス「では頼んだよ、ラビ。」
ラビ「はい!はあぁぁぁ………。」
アリス「お兄様、アレを!」
ユインシス「ん?何っ!『結界』を突き破って『黒の波紋』が!」
クロノ「ラビ…。」
ラビ「我が『力』よ、悪しきものを滅する、大いなる護りになれっ!はあっ!」
ユインシス「駄目だ!護りが薄い!『黒の波紋』の侵入を防げていない!」
ラビ「皆さん、僕に『力』を!ありったけの『力』を僕に注いで下さい!」
ユインシス「皆、全てをラビにっ!」
時人達「おう!」
ラビ「ぐっ…か…体が…っ!」
クロノ「頑張ろう、ラビ!」
トト「ですの!」
ラビ「クロノ!トト!」
クロノ「皆がついてる!」
トト「ついてますですの!」
ラビ「う…うん……はあぁぁぁーーーーーっ!閉じろぉぉぉぉーーーーっ!」
ユインシス「や、やった…か…。」
アリス「そのよう…ですわ。」
クロノ「ふぅ…やったね、ラビ。」
トト「お疲れ様ですの!」
ラビ「はあはあはあ……皆のお陰だよ。」
時人「『黒の波紋』が変だぞ!」
クロノ「え?」
トト「切り離した『時計塔』の方に向かって行きますですの!」
ユインシス「…どういうことだ?『黒の波紋』が『時計塔』を包んでいく…。」
クロノ「まさか!ユインシス様!」
ユインシス「そんなはずはない!『アレ』を『黒の波紋』が認識出来るはずが!」
アリス「『黒の波紋』が全て、『時計塔』の中に!」
ユインシス「本当に生きているというのか……まさか!『黒の波紋』は最初から『アレ』を狙って!」
クロノ「マズイです!ユインシス様!」
ユインシス「『時の核心』を取り込むつもりか!」
アリス「『時』を自在に動かすことの出来る『時の核心』…。何故『黒の波紋』が?」
ユインシス「嫌な予感がする!皆を避難させてくれ、クロノ!」
クロノ「わ、分かりました!さあ、ラビ!」
ラビ「う、うん。」
(その時、一筋の黒い線が走った)
ユインシス「何だ今のは!『結界』を破って…!」
クロノ「ラビィッ!」
ラビ「う…く…。」
ユインシス「ラビ!どうした!」
クロノ「黒い線がラビを貫いて…。」
ユインシス「何だって!」
?「フフ…当たったのは誰だ?」
ユインシス「な、誰…だ?」
?「答えよ。当たったのは誰だ?」
クロノ「貴様ぁっ!」
?「余は答えよと言った!」
ユインシス「近付くな、クロノ!」
クロノ「え?ぐはぁっ!」
?「フフ…。」
クロノ「く…くそ…。」
?「余と戯れたいのか?それもよかろう…。」
クロノ「よ、よくもラビを!」
?「ラビ?そうか、当たったのはラビという者か。」
クロノ「てやぁぁぁっ!な、何っ!」
?「どうした?もう終わりか?」
クロノ「こ、これは『黒の波紋』!自由に操れるのか!コイツ!」
?「コイツ?口の聞き方には注意せよ。」
クロノ「黙れ!クソ野郎!」
?「……消えるがよい。」
クロノ「ぐはぁっ!ば…かな…。」
トト「ご主人様!」
?「ハハ、何という脆い生物か。」
ユインシス「クロノ!アリス、クロノを!」
アリス「はい!」
ユインシス「一体何者だ!」
?「理解に欠けた生物だな。まだ理解できぬか?」
ユインシス「ま、まさか!」
?「そう、余は主らが言う『黒の波紋』なり。」
ユインシス「そ、そうか…『時の核心』を取り込んで、姿を得たのか!」
?「分かっておるではないか。だが、『時の核心』とやらは面白い『力』を持っておるのう。取り込んで正解というところか。」
ユインシス「くっ!」
?「余は今気分がよい。この姿、そしてこの『力』。」
ユインシス「キサマの目的は何だ!」
?「奪うことだ。」
ユインシス「奪う?何をだ!」
?「『光』をだ。先ずは手始めに『銀河の光』を奪う。」
ユインシス「何だって!」
?「余が存在する空間に忌々しい『光』など不必要。美しいもの、輝きあるもの、全てが煩わしい。余が全てを『無』のままに…消しさるのだ。」
ユインシス「そんなことをさせるか!」
?「しかし、ここは居心地が悪いな。弱々しいが、『光』に満ちておる。」
ユインシスの心「ちょっと待てよ……『地球』は『黒の波紋』の『源』に消滅させられた…。しかも、その存在をユエは感知することが出来なかった。……じ、じゃあまさかコイツ!」
?「ん?余の顔がそんなに珍しいか?」
ユインシス「キサマが『地球』を!」
?「何を言っておる?『地球』?」
ユインシス「キサマはここで始末する!」
?「言葉に気を付けよ。でなければ…。」
ユインシス「過去になど行かせるか!」
?「過去?何を訳の分からぬことを。しかし…フフ。」
ユインシス「何がおかしい!」
?「余にとって過去も未来もないわ。」
ユインシス「何っ!」
?「白は黒に、『光』は『闇』に、全ての明るさは暗さに包まれ…最後には『無』が全てを支配する。」
ユインシス「…。」
?「か弱き愚者どもよ、聞くがよい。余こそは、『虚無の根源』にして、『暗黒の時』を支配する者、余は『アイオーン』なり!」
ユインシス「アイオーン…。」
アイオーン「もう思い残すものは無いであろう。余の名を耳に入れることが出来たのだからな。」
ユインシス「ふざけるなっ!」
アイオーン「余の手にかかることを、幸福とせよ。」
ユインシス「『地球』は…『地球』はやらせない!たとえ未来を変えることになろうと、キサマはここで俺が始末する!」
アイオーン「ふむ…先程から言う『地球』……それに未来を変える?………気が変わった。」
ユインシス「何?」
アイオーン「主の頭の中を覗かせよ。我が『破片』よ…。」
ユインシス「な、何っ!ぐわぁぁぁっ!」
アリス「お兄様っ!」
ユインシス「ぐわぁぁぁっ………うう…く…。」
アイオーン「ふむ……成程…『地球』か……実に不愉快な星だ。」
ユインシス「く…くそ…。」
アイオーン「ここが先程の『地球』とやらの一部か。通りで不愉快な『光』を放つわけだ。それにしても……ククク。」
アリス「大丈夫ですか、お兄様!」
ユインシス「くそ…。」
アイオーン「滅ぼしてやるわ。」
ユインシス「何っ!」
アイオーン「この『時の力』を使い、過去に行き、忌々しい『地球』とやらを滅ぼしてやると言ったのだ。主の頭の中にある、過去を再現してやるわ。」
ユインシス「そんなことをさせるか!」
アイオーン「安心せよ。もちろん、最初の獲物は…ここだ。」
次回に続く