第二劇『領域』
天満「僕の…ってゼロ使えるのか!」
ゼロ「そうでなければ、お見せするなんて言いませんよ。」
シャウト「…何故だ?」
ゼロ「は?」
シャウト「何故お前が使うことができるんだ?『エリア』は『ユエ』が編み出した技術のはずだ。」
ゼロ「そうですよ。」
シャウト「だったら何故だ?」
ゼロ「簡単ですよ。僕も組織にいたからですよ。」
天満「いた?」
シャウト「過去形ということは、お前はもう抜けたということか?」
ゼロ「ネオス様に出会う前でしたかね…。僕がレイダーと初めて『オルテナ』に来た時、『ユエ』さんに会ったのですよ。そこで誘われちゃったんですねぇ。まあ、『オルテナ』のことや、エルフのこと、様々な情報収集のために、『叢雲』に入ったのですよ。そこで初めて『エリア』と呼ばれる『力』を知りました。『錬術』とは違った『力』…実に興味深かったですよ。」
シャウト「『ユエ』が『オルテナ』に来たということは、アレも完成させたのか……『銀河の架け橋』を!」
ゼロ「ええ。」
真雪「『コズミックブリッジ』って何ですか?」
ゼロ「『橋』ですよ。『地球』と『月』を繋ぐ唯一のね。」
天満「じゃあ『ユエ』はその『橋』を使って、『地球』にやってきて、ネオスの封印を解いたのか…。」
シャウト「お前は何故組織を抜けたんだ?」
ゼロ「彼らがネオス様を利用していることに気づいたからです。いや…彼らは誰もかれも利用することしか考えていない。僕も……あなた方のこともです。ただ自分達の望みのために、他人を利用することしかしない。そう理解した時…僕は組織を抜けて…ネオス様についた。まあ、ネオス様は僕のことを、あまり信じてはいなかったようですがね。ですが、僕がネオス様の側にいて牽制していなければ、『叢雲』の方達に、もっと好き勝手されていました。ですから僕は、あなた方にネオス様のことを任せたんです。それがネオス様にとっても、一番いいと思いましたからね。『叢雲』に好き勝手されるよりはね…。」
天満「ということは…お前は俺達を利用したということか?」
ゼロ「そう…ですね……すみません。」
シャウト「お前の言葉を全部信じることはできないが、今はお前の情報が必要だ。『エリア』についてもな。」
ゼロ「大丈夫ですよ。今回ばかりは味方ですよ。レイダーを助けるために、『叢雲』を倒すしかないんですから。」
天満「そういやレイダーがいないよな……どうしてだ?」
ゼロ「石になっちゃいましたよ…。全く…僕らは完全に利用されただけだと、心から思いましたよ。レイダーも『エリア』を完成させるために、手を貸していたというのに…。」
天満「そうか…。」
ゼロ「ですから、組織を討つために、あなた方に僕と同じレベルまで上がって来てもらいたいんです。僕一人では、ちょっと厳しい方達なんでね。」
天満「本当に抜け目の無い奴だな…。まあいいや、俺達だって助けなきゃならない人達がいるんだ!教えてくれゼロ!」
ゼロ「そちらは?」
シャウト「…頼む。」
真雪「お願いします!」
にゅう「にゅうもいいにゅ〜!」
ゼロ「分かりました。では…。」
シャウト「この感じ……ユズキと戦っていた時感じた、『錬』ではない…いや、『錬』を超えた『力』!」
ゼロ「…『レベル1』……『氷』!」
天満「霊神もいないのに属性能力がっ!」
シャウト「霊神の力を借りての属性能力が『錬術』。そして、自分の力で『錬術』を使い、属性能力を生み出すのが『エリア』。『ユエ』は、その『エリア』をずっと研究していたんだ。つまりは…エルフや人間が…『霊神化』する『変化術』みたいなものだとディークは言っていた。」
ゼロ「そのとおりです。今世界から『錬術』が消えつつあります。あの『天球』に『錬』を吸いとられていますからね。『ユエ』さんは『力』を求めていました……ディークと違って自分には『力』が無い…。だから『月』を守るために『力』が…『錬術』とは違う、新たな『領域』……それが『エリア』と呼ばれる『力』として完成された。」
天満「ちょっと待ってくれよ!『ユエ』はディークの分身なんだろ?だったら強いんじゃないのか?」
シャウト「『力』は渡せなかったんだ。渡してしまっては、自分の『力』も半減してしまう。アオスの脅威があるのに、自らの『力』を減少させるような行為は出来なかったんだ。…そのかわり、『知性』のほとんどを『ユエ』に与えたんだ。」
ゼロ「彼は信じられないくらい頭がいいんですよ。それこそ…彼がその気になれば操れない者がいないというくらいにね。その頭脳で人の心を読み、そして操る。それに普通の人が百年かかる課題を、彼なら一日も経たずに解くでしょうね。」
天満「その頭脳で『エリア』を編み出したのか…。」
真雪「凄いですね…。」
にゅう「賢いにゅ〜!羨ましいにゅ〜!」
天満「だからディークは『力を統べる者』で、『ユエ』は『知を統べる者』か…。」
シャウト「…ゼロ。」
ゼロ「あ、はい、そうですね。ではこれを…。」
天満「…これは?」
ゼロ「『フォンス』と呼ばれるモノです。いわゆる『資格者』の印みたいなモノですよ。」
天満「このビー玉みたいなモノが?」
ゼロ「僕も付けてますよ。」
天満「あ、それって…一番最初に会った時に身に付けてた…。」
ゼロ「よく覚えてましたねぇ。そうです、以前見せた『タリスマン』…『フォンス』が埋め込まれているんです。」
天満「確かあの時は、これが『力』を増幅させるって言ってたような…。」
ゼロ「ええ、装備の仕方が間違ってますから、少しだけ『力』を増幅してくれるだけですけどね。」
天満「じゃあ、正しい装備って?」
ゼロ「ふふ…皆さん、手の甲を向けて下さい。」
天満「え?……ああ。」
シャウト「…分かった。」
真雪「はい…。」
ゼロ「それでは…。」
天満「うわっ!手にめり込んだぞっ!」
シャウト「!」
真雪「い…痛くは無い…けど…これ大丈夫なんですか?」
天満「こ、これが正しい装備…なのか?」
ゼロ「やはりあなた方は『資格者』だったようですね。」
天満「え?」
ゼロ「本来、この『フォンス』は『資格者』でない者、つまり認められない者に触れると、粉々になるんです。」
シャウト「その『資格者』はどうやって決められたんだ?」
ゼロ「今石化している方達は、『月』の光に対して抵抗力が弱い方達なんです。」
天満「え?それならシンセーテン達なら大丈夫なんじゃ!だってディークに創られたんだろ?」
ゼロ「『錬』で構成されているモノは、『月』に『錬』を吸収されているものですから駄目なんです。ですから霊神は全滅です。もちろん邪霊もね。」
真雪「でしたら、シャウトさんは…?」
天満「そうだ!シャウトは霊神だぞ!何でシャウトは無事なんだ?」
ゼロ「それは…。」
シャウト「『ディークの羽』…だな?」
ゼロ「おや?さすがですねぇ。」
天満「どういうことだ?」
シャウト「私は『ディークの羽』をずっと持っていた。ジアスを天満に移した時からな。一年前に、天満達を人間界に送った時に灰になったが、ずっと持っていたお陰で、私は『月』に対する抵抗力が極めて高かったのだろうな。ディークは『月』の属性だからな。もしかしたら私の体にはまだ灰が残っているのかもしれないな…。」
天満「そうか…ディークに守られていたんだな。」
ゼロ「まあ、それしか考えられないでしょうね。それに天満くんはディークの後継者、そして真雪さんは『光の民』の後継者、ですからお二人とも『月』には高い抵抗力を持っていたんですね。」
真雪「そうでしたか…。」
にゅう「にゅうも無事にゅ〜!」
天満「そ、そういや、何でにゅうは無事なんだ?」
ゼロ「詳しくは分からないですが、おそらくは『聖錬金』ではないかと…。」
シャウト「ふむ…もしかしたら、『ポンコロ』は『レストピア』で無意識に防御壁を作っているのかもしれないな。あるいは『レストピア』は創り出す能力だ。とっさに『錬』を『錬』ではない『何か』に新しく創り直したのかもしれないな。そうすれば吸収から回避出来る。」
真雪「にゅうってば凄いね!」
にゅう「エッヘンにゅ〜!」
ゼロ「まだまだ謎が多い生物ですからね、『ポンコロ』は。」
天満「あ、そうだ!ところで…『エリア』はどうしたら使えるのかな?」
ゼロ「では『エリア』を詳しく説明しますね。先程も言いましたが、『ユエ』さんは、『錬術』ではない新たな『領域』を生み出しました。これは先程皆さんに与えた『フォンス』から出る、『想いの力』なんです。」
天満「『想いの力』?」
ゼロ「はい。この『フォンス』は、持ち主の『想いの力』を増幅させ、形を成してくれるモノなんです。『錬術』は使い手の『錬』を用いますが、『エリア』は『錬』と『想いの力』両方が合わさった『力』なんですよ。」
シャウト「成程な…『錬』でない『錬』を超えた『力』か。」
真雪「こんなに小さいのに、凄いんですね。」
ゼロ「例えば僕の場合………ほら、『氷』という文字が現れます。」
天満「本当だ!」
ゼロ「この『フォンス』は、その持ち主の資質にあった『力』として、形を成してくれるんです。」
シャウト「成程な…。」
ゼロ「そして『フォンス』には『領域レベル』というモノがあります。」
天満「『エリアレベル』?」
真雪「確かさっきは、『レベル1』とか言ってましたよね?」
ゼロ「よく覚えてましたね。そのとおりです。『レベル』は全部で三つあるとされています。」
シャウト「『レベル』が上がると、どうなるんだ?」
ゼロ「通常の属性能力に付加能力が現れます。」
天満「特別な何かが、元の能力にプラスされるってことかい?」
ゼロ「はい。シャウトさんには、もうお見せしたと思いますよ。」
シャウト「え?…………『氷紋』か!」
天満「何だいそれ?」
シャウト「確か『氷』で印をつけた所に、瞬間移動出来るという能力だ。そうか…『瞬間移動能力』が、お前の付加能力なんだな?」
ゼロ「さすがはシャウトさん!そのとおりです!」
天満「なるほどな。付加能力ってそういうモノなんだ…。」
ゼロ「『レベル』が上がると、『フォンス』に記される文字が増えていくんですよ。形も変えてね。『氷』から『氷紋』といった具合にね。」
真雪「それが『エリア』なんですね…。でもどうやったら使えるようになるんですか?」
天満「確かに、『想い』とか言われても、正直よく分からないもんな…。」
ゼロ「必要な時がくれば『フォンス』が導いてくれますよ。その人にあった『力』としてね。」
シャウト「だが、さすがは『ユエ』だな。明らかに『錬術』よりも『強い力』である『エリア』を編み出したなんてな。唯一無二の頭脳を持つ研究者の『ユエ』だからこそ出来たんだろうがな。」
ゼロ「彼の頭脳には際限がありませんからね。その頭脳で導き出された答えには、驚異的な『力』があります。このまま放っておけば、必ず『地球』は滅びます。」
天満「そんなこと、絶対にさせるもんか!」
真雪「私達の『地球』は私達が守るわ!」
シャウト「そうだ!『ユエ』……組織『叢雲』を必ず止めなければならない!」
ゼロ「石化された方々を元に戻すためにもね。」
天満「よしっ!『月』に行こう!」
ゼロ「待って下さい!」
天満「どうしたんだい?」
ゼロ「すみません。ですが、少し調べなければいけないんです。」
天満「何をだい?」
ゼロ「『月』への道『コズミックブリッジ』のことです。」
天満「ええ!ゼロが知ってるんじゃないのか!」
ゼロ「すみません。全く知らないんですよ。」
天満「そんなぁ…時間が無いのに…。」
ゼロ「大丈夫です。何の手がかりも無いわけじゃありません。」
天満「本当か!」
ゼロ「ええ、実は…僕は『月』には行ったことが無いのですが、組織の者が口を滑らせたことがあるんです。」
真雪「何をですか?」
ゼロ「ある場所に、『コズミックブリッジ』に関するデータを残してきたと…まあ、口を滑らせたというか、盗み聞きしたんですけどね。」
シャウト「ある場所とは?」
ゼロ「『ハクウェル研究所』です。」
シャウト「あの忌まわしい、因縁の場所にか…。」
天満「アーミアが実験を受けていた所…。」
真雪「………。」
にゅう「真雪……大丈夫にゅ?」
真雪「うん、大丈夫よ。ありがとう、にゅう。」
ゼロ「今はもう使われていませんが、様々な資料が残ってあるはずです。」
シャウト「行ってみよう。」
天満「真雪…。」
真雪「行こう、天くん!」
天満「真雪……ああ!」
ゼロ「では参りましょうか!『ハクウェル研究所』に!」
次回に続く