第十七劇『火者』
ヨキ「か、勘違いすんなよ!今日はだからなっ!」
ヒナ「ふふ…。」
クロノ「分かったよ。」
ヒナ「あ、ヨキくん…足…。」
ヨキ「え?ああ、帰って来る時にちょっとな!大丈夫だって、ただのかすり傷だし!」
ヒナ「…クロノ様もお手に…。」
クロノ「ボクも大丈夫だよ。」
ヒナ「でも…ヒナのせいで…。せめて、ヒナにお怪我を治させて下さい。」
ヨキ「で、でもよぅ…。」
クロノ「『力』を使って、また発作が出たら大変だよ。ボクもヨキも、ヒナが元気に笑っていてくれることが、一番望んでいることなんだから。」
ヒナ「だったら尚更です。」
クロノ「え?」
ヒナ「治させて下さい。それがヒナの一番望んでいることです。お二人が元気に笑っていて下さることが、ヒナの一番の笑顔の源なんです。」
クロノの心「……この程度の傷なら、大丈夫か…。」
ヨキ「う〜ん…。」
クロノ「分かったよ。じゃあ、頼んでもいいかな?」
ヒナ「はい!」
ヨキ「だけどよぉ…。」
ヒナ「お願いヨキくん…。」
ヨキの心「う…可愛いなぁもう…。」
ヒナ「駄目?」
ヨキ「わ、分かったよ分かった!」
ヒナ「ありがとう!」
ミラァ「ヨキは尻に敷かれるタイプだね。」
剣斗「ふ〜ん、何か男としてどーよそれ、アハハ!」
ミラァ「剣斗と一緒。」
剣斗「っておいっ!」
ヒナ「それでは…。」
琴花「ヒナちゃんの体が光ってる!」
ヒナ「……ラ〜〜ラララ〜〜ララ〜ララララ〜〜。」
琴花「キレイな歌声…。」
ミラァ「ホントだね…。聞いてると落ち着くっていうか、癒される〜!」
剣斗「ん?ああ!クロノの手の傷が治っていくぞ!」
琴花「ホントだ!」
ミラァ「もしかして…さっきの治すって…。」
トト「ですの!ヒナの『力』ですの!」
ミラァ「やっぱし!」
トト「ヒナの『歌』には、『治癒能力』がありますですの!」
ネム「ですが、『力』を使う度にヒナの体に、無理がかかってしまうのですわ。それにヒナは生まれつき体が弱く、病気がちなので、あまり『力』を使い過ぎると、命に関わるのですわ。」
剣斗「そうか…。」
ヒナ「……ふぅ…。」
クロノ「ありがとうヒナ。」
ヨキ「サンキュ…。」
ヒナ「あは…。」
琴花「でも、凄いなぁ。」
剣斗「そうだよなぁ…まるで霊神みてえだもんな。」
ネム「霊神…間違った言い方ではないですわよ。」
琴花「え?」
ネム「ワタクシ達は、元々は人形でしたけど、『霊神の力』を注ぎ込まれた、いわば新しい霊神なのですわ。」
剣斗「でもさ、トトは自分達のことを霊神じゃないって言ってたぜ。」
ネム「まあ、ワタクシ達『時人形』は、霊神であって霊神ではないですので。」
トト「ボク達の体の中には、『フォンス』が埋め込まれていますですの。」
ミラァ「それって確か…。」
クロノ「そう、『エリア』を使うためのモノです。」
剣斗「じゃあさ、『フォンス』を埋め込んだら、何でも『霊神の力』を扱えるようになるのか?」
クロノ「いいえ、『時人形』、特にこの子達は特別なんです。」
琴花「特別?」
クロノ「はい。この子達は、アリス様がお作りになられた人形達なんです。」
剣斗「あのキレイな人が?」
クロノ「アリス様がお作りになる人形には、必ず生命が宿るんです。」
琴花「す、凄いけど、何で?」
クロノ「アリス様は『心』の『エリア』をお持ちになられる方なんです。」
ミラァ「アタシも会ったけど、その『力』で、他人の『心』を読むんだよね!」
クロノ「そのとおりです。そして、アリス様の『レベル2』は『心宿』と呼ばれ、その『力』で人形達に命を吹き込むんです。」
剣斗「れべるつ〜?何それ?」
クロノ「ああ、そうでした!まだ『エリア』の修行してなかったんでしたね!」
琴花「何か事情があったんじゃないの?明日っしょ?修行は…。」
クロノ「はい、実は今日はミラァに『フォンス』を装備してもらったんです。ですから、今日一日休息を取ってもらう必要がありましたから、修行は明日にしたんです。どうせなら、三人一緒にした方がいいと思いましたんで。」
剣斗「そっか…まあ、その方がいいよな。」
ネム「ところでクロノ様?」
クロノ「何だい?」
ネム「どうして、あのような勝負をなさったのですか?今はこのように、丸く収まっていますが、一歩間違えば、どちらかが死んでいたかもしれないんですわよ?」
クロノ「え〜と…。」
ヨキ「ま、オイラが勝ってたけどな!」
ネム「お黙りなさいヨキ!」
ヨキ「う…。」
ネム「クロノ様!」
クロノ「……死なないんだ。」
ネム「へ?あの…今何て…。」
クロノ「いや…だから死なないんだよ。あの勝負に勝っても負けても、何も起こらない、ただのレースなんだよ。」
ネム「何ですのそれっ!」
クロノ「アハハ!」
ネム「わ、笑ってる場合じゃないですわよ!え?でも噂では!」
クロノ「噂では、でしょ?」
ネム「あ…。」
クロノ「ボクが何で、あんな勝負をしたのか…。それは…確かめたかったんだ。」
剣斗「何をだ?」
クロノ「ヨキの…ヒナに対する想いが、どんなものかをです。」
ヨキ「は?」
クロノ「ヒナのための想いが、正しく真っ直ぐかをね。」
ヨキ「何だそれ?」
クロノ「あの勝負の決まりは何だった?」
ネム「負けたら死んでしまうことですわ。」
クロノ「そう…そして、ボクはわざと負けるつもりだった。」
ヨキ「はあ?おい、どういうことだよ!」
クロノ「ヨキ、君には二つの選択肢があったはずだ。ボクを負かして命を奪う選択、そして奪わない選択。」
ヨキ「あ…。」
クロノ「君が迷わず『羅針盤』に触り、ボクを殺そうとしたなら仕方ない、その時は、本当に君を、ただの人形に戻すつもりだった。」
ヨキ「…。」
ヒナ「クロノ様…。」
クロノ「だが君は、それを選ばなかった。何故かな?」
ヨキ「そ、それは…。」
琴花「ヒナちゃんのためだろ?」
ヨキ「えっ!」
ヒナ「ヨキくん…。」
ヨキ「いや…それは…。」
琴花「クロノが死ねば、ヒナちゃんが悲しむ。いくら自分にとって邪魔なクロノでも、ヒナちゃんのことを考えると、とてもそんなことは出来なかった。違う?」
ヨキ「う…。」
クロノ「極限に迫られた選択で、それでもなお、大切な者のために考え、行動出来る。それを確かめるためには、あの勝負がもってこいだったんだよ。そして見事、正しい答えを選んだ。安心したよ!」
ヨキ「…オイラはまんまと乗せられたってわけかよ…。」
ヒナ「ふふ、でもありがとうヨキくん。」
ヨキ「え?いやぁ〜アイツはさ、こんなくだらねえ勝負しなくても、オイラなら勝てるからさ、今日は勝ちを譲ってやったんだよ!アハハ!」
ヒナ「ふふ。」
琴花「ところでクロノ?」
クロノ「何です?」
琴花「もう一つ、確かめたかったことあるでしょ?」
クロノ「さすがは琴花、気付いてましたか?」
琴花「もちろんだよ!あの子の、ヒナちゃんの気持ちも確かめたかったんでしょ?」
クロノ「ふ…。」
琴花「自分では気付いてないみたいだけど、ヒナちゃんはヨキのことを…。」
剣斗「なあ、ところでさ、これからどうすんだ?」
クロノ「え?あ…そうですね…修行は明日からですし、今日はゆっくりしてて下さい。トト、後は頼むね?」
トト「任されたですの!」
クロノ「じゃあ、ヒナ、ネム、ヨキ、また今度ね。」
ネム「はい、お待ち申し上げておりますわ。」
ヒナ「ヒナも…早く体を治しますね。」
クロノ「うん、無理はしないようにね。」
ヒナ「はい。」
ヨキ「次はオイラが勝つからな!覚悟してろよ!」
クロノ「はは…肝に銘じておくよ。それじゃ…。」
剣斗「よっしゃ!トト、次はどこに連れて行ってくれんだ?」
トト「う〜ん……考えてなかったですの!」
剣斗「おいおい…。」
(その頃天満は)
天満「…。」
真雪「どうかした、天くん?」
天満「あ、いや…何でもないよ…。」
真雪「そう…何か元気ないみたいだけど。」
天満「大丈夫だって!ただちょっと『月』にビックリしてるだけだから!だって『月』だよ!アハハ!」
真雪「そう…。」
ジウの心「…小僧の奴…。」
にゅう「あ!あそこが出口にゅ?」
天満「……広いな。」
ジウ「さて…何が出てくるか……ん?」
?「『火の連弾』…。」
皆「!」
天満「危ないっ!……大丈夫か、真雪!」
真雪「うん、ありがとう。」
天満「誰だ!」
?「『戦闘錬値』…362…。」
天満「お前か!急に攻撃したのは!」
?「我は…『叢雲』が一人…『イオキス』…『火』を司る者だ…。」
天満「ユエの仲間か!」
ジウ「……ふむ。」
イオキス「お前達を…通すわけには…いかない…。」
天満「そうはいかない!絶対に通してもらう!」
イオキス「ならば…『力』で…押し通してみよ…。」
天満「ああ!」
イオキス「だが…その前に…。」
皆「!」
天満「何っ!」
真雪「天くん!」
にゅう「閉じ込められたにゅ〜!」
ジウ「これは…ただの檻じゃねえな。」
イオキス「その檻は…ユエさんが作った…『錬』を反射させる…檻だ…。むやみに…攻撃すれば…それが返ってくる…。」
天満「くっ!」
真雪「でも、どうして私達だけ…。」
ジウ「奴は天満と二人で戦いたいんだろう。」
真雪「そんなっ!」
天満「イオキス!」
イオキス「皆を…救いたくば…我と戦い…勝つことだ…。」
天満「望むところだ!」
ジウ「…小僧。」
天満「武器…何か無いか…。」
イオキス「行くぞ…『火の連弾』…。」
天満「うわっ!熱っ!」
イオキス「…『戦闘錬値』…362…変わらず…か…。」
天満「くそ…丸腰で戦える相手じゃないぞ…どうする…。」
イオキス「少し…強いの…行くぞ…。」
天満「え?」
イオキス「『火の大球』…。」
天満「な…!」
真雪「天くんっ!」
ジウ「大丈夫だ。辛うじて直撃は避けた。」
天満「くぅっ!」
イオキス「『戦闘錬値』…374…少し…上がったか…。」
天満「はあはあはあ…。」
真雪「良かった…。」
ジウ「だがこのままじゃ、勝ち目なんてないな。」
真雪「え?」
ジウ「イオキスはまだ実力の半分も出してない。奴は天満の『力』を観察してやがるんだ。」
真雪「どうしたらいいんですか?」
ジウ「まあ、小僧の成長に任せるしかないだろうな。今のままじゃ、確実に殺られるしかない。」
真雪「そんなっ!天くん…。」
イオキス「あの瞳…ユエさんに…似ている…。」
天満「くそ!何も出来ないのか!」
イオキス「試して…みるか…『レベル2』…『火泉』…。」
天満「何だ?」
イオキス「この泉は…我の源…。」
天満「『火の泉』?」
イオキス「来たれ…。」
天満「泉の中の『火』が、奴の体に纏わりついていく!」
イオキス「……。」
ジウ「あれは、このオレの『星の纏い』と同じようなもんだな。言ってみれば、『火の纏い』だな。アレで攻撃力と防御力をあげてやがる。」
天満「ジウさんと同じ!」
イオキス「この姿に…なると…手加減…出来ないぞ…。」
天満「くっ!」
イオキス「『火の連弾』…。」
天満「なっ!さっきと威力が全然っ!うわぁぁぁっ!」
イオキス「体力…残少…この程度か…。」
天満「はあはあはあ………くっ!うわぁぁぁぁっ!」
イオキス「ん?」
次回に続く