第十二劇『定理』
アイズ「何故にゅうの『レストピア』と同じ『力』を感じるんだ?」
ジウ「理由は簡単だ。」
サリーオ「……。」
ジウ「これを作った奴が、そこのチビコロと同じ『妖精』だからだ。」
にゅう「にゅっ!にゅうはチビコロじゃないにゅ〜!『ポンコロ』にゅ〜!」
シャウト「だが、これはユエが作ったのではないのか?」
ジウ「まあ、そのへんはオレより、もっと詳しい奴がいるぜ。なあ、サリーオ?」
サリーオ「…。」
ゼロ「…ふむ。」
天満「サリーオさん?」
サリーオ「天満…。」
天満「ジウさん、どうしてサリーオさんが詳しいんですか?」
ジウ「この『オルテナの箱庭』を作ったのがサリーオだからだ。」
皆「!」
ゼロ「なるほど…。」
天満「サリーオさんが『妖精ポンコロ』!」
真雪「にゅうと同じ…。」
ジウ「『月』の抵抗力が高くないのに、石化を免れた理由は『レストピア』で、『錬』を変化させたからだ。」
天満「ほ…本当なんですか?」
サリーオ「……ああ、そうだよ。」
アイズ「しかし、サリーオはどうみてもエルフだろ?にゅうとは、全然違うぞ。」
サリーオ「アタシは…。」
ゼロ「…もしかして…『フュージョン』……つまり『融合』…ですか?」
アイズ「『融合』!そうか、ユエの!」
天満「サリーオさん…。」
サリーオ「…ああ、ゼロの言う通りだ。アタシは…『ポンコロ』とエルフの『融合体』さ。」
ゼロ「やはり…。」
ジウ「この『オルテナ』には様々な種類の生物がいる。『エルフ』、『人間』、『霊神』、『妖精』など、他にも『希種』と呼ばれる種もいる。その中でも『妖精』ってやつは、種類も豊富で、『ポンコロ』はその一つだ。」
天満「へぇ〜。」
サイガ「さすがは年の功やな…。」
アイズ「この際だ、ジウに色々聞いたらどうだ、天満?」
天満「うん、そうだね。ジウさん、それで、『ポンコロ』について知ってることを教えてくれますか?」
ジウ「…面倒だが、まあいいか…よく聞けよ。『妖精』の中でも、数が少なく、『幻の生物』と呼ばれているのが『ポンコロ』だ。『妖精』っつうのは、『力』は弱いが、それに変わって『特別な能力』が備わっている。」
天満「そうか、『レストピア』だね!」
ジウ「『レストピア』はな、別名『聖錬金』と呼ばれているもので、古代に失われた技術の一つなんだ。」
真雪「何か凄いんだね…。」
にゅう「にゅ〜!」
ジウ「『レストピア』は、大まかに分けて、二つの性能を持っている。一つは体内で『錬』を変化させて、物質を作り出すこと。つまり『具現化能力』だ。」
シャウト「にゅうが、針を作ったり、サリーオがこの建物を作った能力だな。」
ジウ「もう一つは、『錬』を様々な属性に変化させることだ。」
真雪「どういうことですか?」
ジウ「属性ってのは、個人それぞれが持つ『潜在特性』みたいなものだ。」
天満「『潜在特性』…。」
ジウ「たとえば、オレの『星』の属性、天満の『月』といった具合に、『錬』ってのは、そいつに合った属性が必ずある。」
ゼロ「『フォンス』で覚醒されるのが、その『潜在特性』ですね。」
アイズ「なるほどな…にゅうが石化を免れたのも、『レストピア』で『錬』を『月』の属性にして、抵抗力を高めたからなのか…。」
ジウ「普通は、持って生まれた資質だから、変えるなんて出来やしないが、『ポンコロ』にはそれができるんだ。」
ゼロ「やはり、そうだったんですね。」
天満「じゃあサリーオさんも、『錬』を『月』の属性に?」
サリーオ「そのとおりだよ。」
真雪「にゅうも凄いよね…。」
にゅう「にゅ〜!にゅうは凄いにゅ〜!」
天満「もしかしてサリーオさん…サリーオさんがユエから離れた理由はそれなんですか?」
サリーオ「いいや…。『ポンコロ』との『融合』はアタシが望んだことだよ。……アタシはね…元はただのエルフだったんだよ。あの日…ユエと出会ったあの日に全てが変わった…。」
(サリーオの過去)
サリーオ「………。」
?「…絶望。」
サリーオ「え…?」
?「君の目には絶望しか写っていないな。」
サリーオ「…今のアタシは機嫌が悪いんだ。ケガしたくなきゃ、とっとと去りな!」
?「私なら、君の絶望を取り除く機会を与えることが出来る。」
サリーオ「何を言ってる!アンタにアタシの何を救えるってんだ!」
?「君は自分の無力さに絶望している。」
サリーオ「う…。」
?「だが私なら、君に『力』を与えてあげることが出来る。」
サリーオ「『力』を…。」
?「今の自分を捨てる覚悟があればな。」
サリーオ「…何だってするさ……『あの子』を救えるなら、何にだってなってやる!」
?「では来るといい。君が必要としている『力』を与えてあげよう。」
サリーオ「……でも、何でアタシに?」
?「…運命を変えたいからさ。」
サリーオ「運命?」
?「定められた運命に抗ってみたいんだ。」
サリーオ「…アタシも……『あの子』を救いたい。『あの子』が死ぬ運命を変えたい!」
?「では行こうか。」
サリーオ「ああ…。……アンタは一体…。」
?「私は『ユエ』……運命を知る者さ。」
(ユエの研究所)
サリーオ「なあ、ユエって言ったな、アンタはアタシに『力』をくれると言った。本当にそんなことが出来るのか?」
ユエ「いきなりは無理だな。しばらくはココでゆっくりしていてくれ。」
サリーオ「何だって!馬鹿言うんじゃないよ!アタシにはのんびりしている暇なんか無いんだよ!」
ユエ「焦っても仕方ない。それより、今自分に出来ることをしたらどうだ?」
サリーオ「く……ユエ…アンタ…運命を知ってるって言ったな…。」
ユエ「ああ。」
サリーオ「アンタが知ってる運命では…『あの子』は……『キィル』は死ぬのかい?」
ユエ「……ああ。」
サリーオ「く…くそっ!」
ユエ「だがその運命を変える為に、ここへ来たのだろう?」
サリーオ「本当に…本当に変えることが出来るのか?」
ユエ「分からない…。だが、運命は人の手で変えられるモノであると、私は信じている。」
サリーオ「……分かった。アタシも信じる!『キィル』は死なない!必ずアタシより長生きしてもらうんだ!」
ユエ「よし、決まりだな。」
サリーオ「ところで『力』って…。」
サリーオの語り「半信半疑だったが、何故かこの男なら、アタシの弟を……不治の病に伏せてる弟を救ってくれるんじゃないかと……ふとそんな感じがした。数週間後、アタシはユエとともに、アタシの弟『キィル』の病を治すために、『キィル』のもとに急いだ。」
サリーオ「…ル……ィル……『キィル』!」
キィル「…あ……お姉…ちゃん…。」
サリーオ「キィル!」
キィル「お姉ちゃん!」
サリーオ「良かった……本当に…。助かったんだよ!キィル…本当に良かった!」
キィル「僕…。」
サリーオ「ユエ、アンタのお陰だ!本当にありがとう!」
ユエ「私は何もしていないよ。その子を救ったのはサリーオ、君だ。」
サリーオ「ユエ…ありがとう。」
サリーオの語り「キィルは助かった。アタシが手に入れた『力』で、キィルの体内の『錬属性』に合わせて、アタシの『錬属性』を変化させて、キィルの体内に送り込み、抵抗力を高め病を治すことが出来た。それがアタシが手に入れた『力』…『レストピア』と呼ばれる、『ポンコロ』だけの、失われた技術だった……そう……『力』だ…。」
サリーオ「『融合』…だと…馬鹿な!出来る訳がない!」
ユエ「…。」
サリーオ「その理論はアタシも考えたことがある…。だが、拒絶反応が必ず出る!」
ユエ「それを防ぐ方法があるとすれば?」
サリーオ「何だって!本当にそんなことが出来るのか?」
ユエ「ああ…そのためにはサリーオ、君が開発した理論…『クローン理論』が必要なんだ。」
サリーオ「…。」
ユエ「どうだ?『融合』するか?弟を救うために、今の自分を捨てる覚悟があるか?」
サリーオ「今更何言ってんだい!願ってもないことだよ!たとえそれが…自然を裏切る『禁忌』だとしても!」
ユエ「…分かった。」
サリーオ「でも一体何と『融合』するんだい?で…できればブサイクな奴とは止めてほしいんだが…。」
ユエ「アハハ、大丈夫だ。『融合』といっても、違う意識同士で行うわけじゃない。」
サリーオ「あ、そうか…普通なら二つの意識がぶつかり合って、精神崩壊を起こしてしまうよな…。だったら何と…。」
ユエ「まず『クローン』を作る、その過程で意識を殺し、ただの『力』を持つ存在を作る。」
サリーオ「はは…まさに『禁忌』だな…。」
ユエ「だったら止めるか?」
サリーオ「言っただろ?たとえそれが『禁忌』でも、それしかないなら血を吐いてでも、実行してやるさ!」
ユエ「覚悟は…あるみたいだな…よし!」
サリーオの語り「そうやって、アタシは『ポンコロ』の『クローン』を作りだした。まだ完全な『クローン』は作れなかったが、『力』だけを持つ物体としてなら、何とか作ることが出来た。そして、アタシはユエの『力』で、『ポンコロ』の『特性』と『力』を持つ物体と『融合』した。不思議な感覚だった…。確かに自分なんだが、自分ではないような…まるで今、誕生したという感じだった。そして、アタシは新たに得た『ポンコロ』の『レストピア』でキィルの病を治すことが出来た。」
サリーオ「本当に感謝してるよユエ。何か…アタシに出来ることがあったら言ってくれ。」
ユエ「そうか…なら私の研究を手伝ってくれないか?」
サリーオ「研究?」
ユエ「ああ…運命を変える研究さ…。」
サリーオ「アンタには大きな借りがある。アタシで良かったら『力』になるよ。」
ユエ「ありがとう。」
サリーオ「ところでさ…。」
ユエ「何だ?」
サリーオ「アンタの…その…『黙示録』だっけ……未来が分かるって凄いよな…。」
ユエ「分かっても変えることが出来ないのなら、意味の無いモノだ…。」
サリーオ「……でもさ、それって本当はユインシスの『力』なんだろ?」
ユエ「ああ…ユインシスが感じ、ユナイマが興し、私が刻む。それが『黙示録』だからな。」
サリーオ「何か面倒な能力だな。」
ユエ「そう…だな…。」
サリーオの語り「それからアタシはユエと、その仲間とともに研究に没頭した。」
ユエ「サリーオ…。」
?「言わなくていいのか?」
ユエ「『ユインシス』…。」
ユインシス「で、どうするんだ?サリーオに真実を話さないのか?」
ユエ「…運命は……変えられないのか?」
ユインシス「ユエ…。」
ユエ「残酷な道をようやく避けられたと思ったら、また別の残酷な道が現れる。」
ユインシス「…俺達『時人』はお前に創られた。俺はその理由がやっと分かったよ。」
ユエ「ユインシス…。」
ユインシス「それは…新しい未来を……正しい未来を守るために、お前は俺達を創った。俺は…そう思う。運命は決まってないさ……必ず変えることが出来る。」
ユエ「だが、サリーオの弟は…。」
ユインシス「…『黙示録』には、キィルの死が刻まれている。確かに一度は取り除けた…だが、また死が刻まれた…。」
ユエ「やはり運命は…。」
ユインシス「…くそ…どうにかならないのか…。」
サリーオの語り「『銀河の架け橋』が完成してすぐだった。キィルが…倒れた。」
サリーオ「な…何でまた病気が…。」
キィル「お姉…ちゃん…。」
サリーオ「どういうことだよ、ユエッ!」
ユエ「……キィルは……もう長くない…。」
サリーオ「う…そ…。」
次回に続く