第十劇『記憶』
天満「父さんに頼まれたって…。」
ジウ「お前は先の戦いで、自分の生い立ちを理解したんだろ?」
天満「あ、はい…。俺がディークの後継者だとか、ジアスのこととか…。」
ジウ「そうか……やはりまだ肝心な部分は教えて貰ってないようだな。」
天満「え?肝心な部分?」
ジウ「…もう受けとめる器はしっかり出来てるだろうからな。そろそろ教えておこうか。」
天満「…。」
ジウ「ついて来い。」
天満「あの…どこに?」
ジウ「いいからついて来い。お前に渡すモノがある。」
天満「…はい。」
(家の裏口から出て、ある洞窟に到着)
天満「ここは…?」
ジウ「『黄泉玉』が安置されているところだ。」
天満「『黄泉玉』?それって…。」
ジウ「行きゃ分かる。行って来い。」
天満「え?行って来いって…。」
ジウ「中でお前を待っている奴がいる。」
天満「俺を?」
ジウ「いいか?中に入ったら、『黄泉玉』がある。それに触れるんだ。」
天満「あ…。」
ジウ「さっさと行って来い。時間が無いんだろ?」
天満「……分かりました。」
(天満は洞窟に入る)
ジウ「…オレにこんな面倒な事させやがって……お前は死んでも迷惑かけやがる。だが最後のわがまま…だったな。……これでいいな……『ダイン』…。」
(天満は)
天満「暗い……だけど何だろう…初めて来たはずなのに………何だか懐かしい感じがする…。………ん?行き止まりじゃないか!………どうすれば……。」
(その時、足下が崩れる)
天満「な!うわぁぁぁーーーっ!…………いてて……どこだよここ?………あれは……『玉』?…もしかして、これが『黄泉玉』かな?………さ…触ればいいんだよな………よしっ!」
(『玉』から光が放たれる)
天満「うわっ!ぐっ……頭に……何かが!」
(天満の頭に過去の記憶が流し込まれる)
?「オレは君と離れたくない!たとえハンターに狙われたとしても!」
?「『ダイン』さん…。」
ダイン「オレは君と……そして……『ディーノ』と暮らしたい!このオレには、責が重いのは十分理解している!だけど、この子を……二人で育てていきたいんだ!」
?「……なら…私を拐ってくれますか?この偽りの王国から。」
ダイン「一緒に暮らそう、『マーティア』…。」
マーティア「ダインさん!」
(天満は)
天満「ぐっ……今…のは…父さんと……母…さん……これ…は……ぐぅっ!」
(再び天満の頭に過去の記憶が流し込まれる)
ダイン「もう少しだ!もう少しでディーク達が、アオスを倒してくれるはずだ!だから最後まで諦めるな!決して邪霊を人間界には入れるな!行くぞ、『八闘士』達!」
八闘士「おう!」
(天満は)
天満「今の…は……ぐぅっ!」
(再び過去の記憶)
ダイン「頼む、オレが死んだら、あの子に……オレの息子に渡して欲しいんだ。『黄泉玉』に遺した…このオレの全てを…。」
ジウ「ふざけるな!まだ戦うつもりか!そうやって、傷付けて傷付けられて、テメエはいつまで、そんなくだらない事を続けるつもりだ!」
ダイン「オレは…勝つ為に戦ってるわけじゃない…。大切な人を守るために……負けない為に戦うんだ!」
ジウ「…話にならんな。もういい、お前のような馬鹿は、もうオレの息子でも何でもねえ。勝手にしやがれ!」
ダイン「……悪い。………オレの最後のわがまま…お願いします。……それじゃ……お元気で…。」
ジウ「……大馬鹿が…。」
(天満は)
天満「そ…そうか……これ…は……父さん…の……記憶か……ぐぅっ!」
(再び過去の記憶)
ダイン「はあはあはあ……どうやら…ディークの奴…やったみたいだな…。」
?「ダイン…。」
ダイン「ん?『ディーク』?お前、何故ここに?」
ディーク「すまない…。今は時間が無い…詳しい話はシャウトに聞いてくれ。」
ダイン「…ディーク……この感じ……お前まさか!」
ディーク「すまない…。」
ダイン「ディーク…。」
ディーク「だからこそ、お前に…希望を託したいんだ。」
ダイン「希望?」
ディーク「これを…。」
ダイン「…これは?」
ディーク「私の『力』の源…『翡翠魂』だ。これをお前に託したい。」
ダイン「お前っ!」
ディーク「希望を…育ててくれ。ダインなら、安心して私の『力』を託せる。」
ダイン「これは……だがこのままでは…。」
ディーク「ああ…そのままでは、ただの『力の塊』だ。だからお前の『星の力』を使って、新たな命として………た……のむ……本当…に……す…まな…い…。」
ダイン「ディーク!」
ディーク「希望…を…。」
ダイン「…希望…。」
(天満は)
天満「も…もしかして……あ…あれが……ぐぅっ!」
(再び過去の記憶)
ダイン「…ディーク……希望……オレ達の希望…オレが…オレ達が育ててみせるぜ!」
マーティア「ダインさん…。」
ダイン「この子は…強く育ってくれるだろうか?」
マーティア「当たり前ですよ。私達の子供なのですから。」
ダイン「そうだな…。」
マーティア「そういえば、この子の名前は決めているのですか?」
ダイン「ああ…。」
マーティア「教えてくれますか?」
ダイン「『ディーノ』だ…。」
マーティア「『ディーノ』ですか…。」
ダイン「『天を満たす者』…それがこの子の名前。」
マーティア「素晴らしい名前ですね。」
ダイン「この子の中には、『月』の意思、『星』の意思、そして……この子自身の意思が脈打ってる。夜空に見える数多くの星々……空一杯に満たす、あの輝く世界のように、でかく育って欲しい。」
マーティア「そうですね…。」
ダイン「近いうち、この子は自分の運命を知ることになる。そして、戦う時も来るはずだ。だがそんな時が来ようと、この子には…『ディーノ』には、大切な人を守る為に戦う意思を、貫いてもらいたい。」
マーティア「でも本当は…普通の子供のように、普通の人生を歩んでもらいたいのですね?」
ダイン「もちろんだ。だが運命の螺旋は、否応無く、この子を巻き込み、苦しめるだろうな。」
マーティア「…。」
ダイン「だがこの子なら、真っ直ぐに、強く育ってくれるはずだ。オレはそう信じてる。」
マーティア「私達も一緒ですからね。」
ダイン「……ああ…そうだな…。」
(天満は)
天満「父…さん……母…さ…ん………俺は…ぐぅっ!」
(再び過去の記憶)
ダイン「くそっ!」
マーティア「ダインさん!」
ダイン「このままでは……くそっ!ハンターどもが!」
マーティア「やはりこの『レアブレード』を盗んだことが原因でしょうか?」
ダイン「それもあるが、狙いは…『ディーノ』だろうな。」
マーティア「え?」
ダイン「この子は希望だ!それを気に入らないヤツがいる…いや、存在しては邪魔だと思うヤツがいるんだ。」
マーティア「お父様…ですか?」
ダイン「…それは…。」
マーティア「いいんです。私にも、もう全て分かっています。あの人にとって…子供…いえ、自分以外の者はただの操り人形です。それにあの人は私の名前をろくに呼んでくれたことなんてありませんし…。自分の子供を作っては、何人も人体実験に使用している人です……『ディーノ』も捕まれば、散々実験されたあげく、必ず殺されます。」
ダイン「…君の母親も…そうだったな…。」
マーティア「はい…あの人に殺されました。あんなことは王の……いえ、人がすることでは無いです!王というシステムを利用した悪魔です!この王国は、偽りの王国です!」
ダイン「必ず守るぞ!オレ達の子供を!行くぞ!」
マーティア「はい!行きましょ、『ディーノ』!」
ディーノ「うん…。」
(天満は)
天満「俺が……王に……何のため…に……ぐぅっ!」
(再び過去の記憶)
?「終わりだなっ!全ての元凶である、『星』のダイン、キサマを殺すっ!いや、キサマも希望も殺せば、全てが終わる!」
ダイン「くっ、『ハンター』か!」
マーティア「ダインさん!」
ディーノ「お父さん…。」
ダイン「ディーノ………ふふ…そうだな…。」
マーティア「ダインさん?」
ダイン「マーティア………ディーノを頼む!」
マーティア「え?どういう…まさか!」
ダインの心「オレの『力』は全てディーノに渡した…。今のオレに出来る事があるとしたら……そうだな…。」
ハンター「さあ、覚悟してもらうぜ!王に逆らう愚者どもが!」
ダイン「ディーノ!」
ディーノ「え?何…?」
ダイン「悪いな……お前を育ててやることが出来なかった…。」
マーティア「ダインさん!」
ダイン「マーティア……オレはお前達を守る!人間界への扉を開き、お前達を送る!……安心しろ!オレの心はいつもお前達の側にある!」
マーティア「そんなっ!」
ディーノ「だ…駄目だよぉ!」
ダイン「ディーノ……男ならでかくなれ!大切な人を守る意思を強く育てろ!そして………母さんを…守ってくれ…。」
ディーノ「お父さんっ!」
マーティア「嫌っ!ダインさん!」
ダイン「忘れるなよ!オレの背中を越えろっ!空を……お前の『力』で天を満たしてやれっ!」
ハンター「コイツ、まさかっ!自爆する気か!」
ダインの心「マーティア……ディーノ……また会えたらいいな…。」
マーティア「ダインさぁぁぁーーーーーーんっっっ!」
ディーノ「お父さぁぁぁーーーーーーんっっっ!」
(天満は)
天満「はあはあはあ………と…父さん…。な…何でだよ…何で今更こんなもんを…。」
?「お前は全てを理解しなければならないからだ。」
天満「誰?」
?「私は『黄泉玉の使者』。触れた者に、在りし日の記憶を読ませし者。」
天満「『使者』?」
使者「この『黄泉玉』は、全ての歴史を綴る暦。そして、お前に見せたのは、試練とも言える過去。思い出したくない過去。知り得たくない過去。また、知らなければならない過去。」
天満「な、何で父さんの記憶を見せたんだ!」
使者「言ったはずだ。お前は全てを知らなければならないと。」
天満「何で…。」
使者「お前の生まれた意味。託された希望……それを教えて貰いたいと、『ある者』に頼まれたからだ。」
天満「だ、誰に?」
使者「『星の者』にだ。」
天満「父さんに!そうか…ジウさんが言ってた、渡したいモノって記憶なのか!」
使者「『星の者』が遺したメッセージがある。伝えるぞ?」
天満「父さんの………頼む!」
使者「承知した。では再び『黄泉玉』に触れるがいい。」
天満「ああ…。」
(頭に直接言葉が流れてくる)
ダイン「ディーノ……久しぶりだな…。」
天満「父さん…。」
ダイン「お前がこのメッセージを聞いてるってことは……オレはもうお前の側に居ないってことだな…。本当にすまないな、お前をオレの手で育ててやることが出来なかった。」
天満「…。」
ダイン「これからお前に話すことがある。だが聞くか聞かないかは、お前の自由だ。嫌ならこのまま『黄泉玉』から手を放し、洞窟から出て行けばいい。少し待ってやる…決めな。オレは…絶対に聞けとは言わない……これから話すことは、お前にとっての真実であり、最も辛い真実だろう。お前の真実は……お前を裏切るかもしれない。それでも、聞く覚悟があるなら、再び触れ。」
天満「……俺の真実……。」
使者「お前の望む通りにすればいい。私はただそれを見守るだけだ。運命を受け入れるか、背を向けるか…。決めるのはお前だ…天満とやら…。」
天満「…俺は………俺は…。」
次回に続く