婚約破棄された令嬢は記者会見を開く
穏やかな学校の中庭、青年と少女が向き合う。
「コナコッド嬢。ここにおいて、私ロバート・ジオ・ルンベルグは、貴様、ルイーゼ・アルフ・コナコッドとの婚約はき…」
「お待ちください。あなたは私との婚約破棄をなさるつもりですね。」
「あ、あぁ。」
「それならば、夜、王宮の広間で大々的におっしゃってください。そちらの方がこのような場所よりも相応しいですわ。」
「なに?貴様、俺に指図する気か!?ここでは不都合なことでもあるのか。
そんなこと今更だろう。俺の大事なミリアを散々虐めたくせに。可哀想に。ミリアはお前からの嫌がらせに今まで必死に耐えてきたんだ。今日、俺にそのことをようやく打ち明けてくれ…」
「こんな学校の中庭よりも王宮のほうが観衆も多くて正式に婚約破棄できると思います。それにあなたが本気だということもご両親にお示しできるのでは?
長話もなんですわ。それでは今夜6時にそちらの王宮に向かいましょう。」
「ああ、貴様とはきっちり婚約破棄してやる。そして俺の愛するミリアを正式な婚約者として発表す…」
「はいはい。詳しいことは後ほど。それではごめんあそばせ。」
「くっ。なぜいつも俺のセリフを最後まで聞いてくれないんだ!」
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今日の昼、学校の中庭で婚約者から婚約破棄の意向を知ったルイーゼはいつもより早く帰宅した。
彼女にはこれからすべき事がたくさんあるのだ。
今夜、王宮で開く記者会見のために国中の記者に連絡をとるのだ。
『よし、こうなれば早速準備よ。』
そう思うや否や急いで外へ出かける支度をして彼女は玄関に待機させておいた馬車に飛び乗った。
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時刻は只今18:00。ここは王宮の広間である。
「では王子、どうぞ。」
「あ、ああ。私、ロバート・ジオ・ルンベルグは今ここにおいてルイーゼ・アルフ・コナコッドとの婚約を破棄し、ミリア・ルーテルを未来の妃として私の正式な婚約者として迎えることをここに宣言する!!」
「王子!」
「なんだ!?」
「そのまま、お顔を左に向けてキメ顔をしてください!」
「は?」
「いいから、早く!」
「あ、ああ。こうか?」
パシャ。パシャパシャパシャパシャッ☆
突然大量のフラッシュがロバートに降りかかる。
彼は突然襲いかかる眩しさに思わず目をつぶった。
しかし、いつまでもカメラがシャッターを切る音は鳴り止まない。
ロバートが驚いて目を開けると、
そこには何百人者カメラを持った報道人がわんさかいた。カメラに視線を向け女性アナウンサーがリポートをしながら中継しているところもある。
『な、なんなんだ…これはいったい?』
ロバートはこの奇妙な展開に戸惑った。慌ててルイーゼに説明を求めようとする。が、しかし…
「お、おいこれはどういうことか説明しろ。ってあれ!?いない…」
気付いたらいつの間にかルイーゼは彼の前から姿を消していた。
ルイーゼは彼がカメラのフラッシュによって動けなくなっていたうちにさっさと手際よく、自身の婚約破棄の記者会見を開く準備をしていた。
そして全ての準備が整った。
「皆さん。本日は私、ルイーゼ・アルフ・コナコッドと第一王子であるロバート・ジオ・ルンベルグ様の婚約破棄発表の記者会見に起こしくださり、誠にありがとうございます。また、このような場を設けて下さった王様、王妃様にも厚く感謝申しあげます。」
ルイーゼはとびきりの笑顔をカメラに向ける。
ロバートは非常に困惑していた。また、彼の腕に縋っている、ミリアも心配した面持ちでその場を見ていた。
彼らにはこのような状況を全く飲み込めなかった。
ロバートはミリアの手を握り返し、ことの成り行きを見守るしかなかった。あまりにも異常すぎる事態に成績優秀な彼でも頭が正常に働かないのであった。
そんな中記者会見はどんどん進んでいく。
ルイーゼが婚約破棄までの成り行きを簡潔に説明していく。
「…こういう次第で今回の婚約破棄に至りました。それでは、何か質問のある方は手をお挙げください。この記者会見は陛下の許可を得ておりますので、答えられる限りの質問には応えますわ。」
ルイーゼが問いかけると多くの記者が一斉に手を挙げた。
「はい、そこのあなた、どうぞ。」
「○△新聞社のアルバートというものです。えーっと、ルイーゼ様は婚約者である王子を愛していましたか?」
「率直に申し上げて、そのような感情を彼に持ったことはありません。」
ロバートは瞠目した。そこまでバッサリ言われるとは思いもしていなかった。
「一度もですか?」
「えぇ、一度も。では次の質問参りましょう。どうぞ。」
「〇〇新聞社のアニーというものです。ルイーゼ様は今回の婚約破棄についてどのように思いなさりますか?」
「よかったと思っております。お互い好きでもなんでもなかったですし、私は王妃に向いてないと常々思っておりましたので。私には王妃として彼を支えていく自信もなかったですし。今回の事で、むしろホッとしています。
次の質問に参りましょう。はい、あなた。」
「□○新聞社のコリーというものです。これからどうなさるつもりですか?」
「王子から婚約破棄を言い渡されたのでこの国には居づらいですわね。しばらくしてから隣国へ留学に渡ろうと思います。もっと多くのことを広い視野で学びたいと思います。」
その後もたくさんの質問があげられたがそれに対するルイーゼの応えはロバートの心を打ち砕くものばかりであった。
元婚約者である彼女からあっさりした態度を取られるのは婚約破棄を言い渡したルバートからすれば願ったり叶ったりだが、あまりにも淡々としているので寂しくだんだん怒りが湧いてきた。
「では、このくらいにしておきましょう。今日の会見はこれで終わりとさせていただきます。」
「ちょっとまてーっ!!」
「なんですか、元婚約者様。」
「さ、最後にこの質問に応えろ。」
「はい、何でしょう。」
「どうしてこのような会見を開いたんだ?このようなことをして世間に知られて困るのはお前ではないのか?」
「あー、そのことですか。それはあなたとの婚約を正式に破棄させるためですわ。」
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ロバートが婚約破棄をルイーゼに言ったのは今回が初めてではなかった。
過去にも2度あり、その度にルイーゼはそれを承諾していたが一週間後にはロバートから婚約破棄を取り消して欲しいと言われ。それに応じた。1度目は王子のいっときの気の迷いかと彼女は思ったが、それが2回目になると飽き飽きしてきた。そのときも結局王子の謝罪を受け入れたのだが、次あったら絶対婚約破棄に持ち込もうと決心した。
こんな王子が夫では妻は絶対に苦労するに決まってる。また、王になっても民が苦労する。いっそ他国で暮らそうか。そんな思いもあり、留学を希望した。
毎回ロバートがうやむやにする婚約破棄では破棄にならないと思い、彼女は今回の記者会見を開いたのだ。
結果良好、彼女の目論見は見事成功したのであった。
END
《登場人物》
*ルイーゼ・アルフ・コナコッド
侯爵家の長女。幼い頃から王妃となるための英才教育を受けてきた。
婚約者のロバートに辟易している。
*ロバート・ジオ・ルンベルグ
ルイーゼのことは幼い頃から知っている。
今まで幾人かの女性に目移りしてきたが、その度にルイーゼの良さに気づき、婚約破棄を撤回してきた。優柔不断なダメダメ王子。
*ミリア・ルーテル
男爵家の長女。転入生であり転校早々ロバートに近づき、ルイーゼから婚約者の座を乗っとろうと考えてきた。