第一話
2028年-7月14日-PM1:00
「時間です、始めましょう。」インカムに話しかけた。
バラクラバ越しに砂が顔にあたる感触がある。
男はとある市街地のビルの屋上に居た。
市街地と言ってもその場所にはもう誰も住んでいないゴーストタウンだった。
ガラスを引っかくようなノイズ音の後に耳につけているインカムが吠えた。
「2時方向!来たぞ!」
男は構えていた愛用のバレットM82A1対物ライフルを迫ってくる車両に向けてインカムに静かに問いかけた。
「’目標’は乗ってるんですか?」
「あぁ、4台目の後部座席だ。やれるか?」
男は愛銃の新しく取り替えたグリップを強く握り締めて自信に満ちた声で言った
「やってやりますよ。」
その数秒後’目標’が車両ごと吹き飛んだ。
男の名は Mike"FAG"Thompson。愛称はファッグだ。先ほどインカムに吠えていた男の名はSam"Mantis"Smith。彼の愛称はマンティス。カマキリという意味だ。彼はいつも農作業ばかりしていることからその愛称がついたらしい。ファッグの階級は軍曹。マンティスは1つ上の一等軍曹である。
’目標’を消し、マンティスとの合流地点であるポイント『チャーリー』に向かうためにマンティスをインカムで連絡を取っていた時だった、聞き覚えのない声が会話に入ってきた。その知らない男はこう言ってきた。
「今度は私の番だ。」
その言葉を聞き取った瞬間、ファッグは自分の身に危険が迫っていることを本能的に感じた。
だが、遅かった。
凄まじい轟音と衝撃の後、建物はドミノのように倒れた。ファッグはそのビルから飛び降りようと思ったが崩れていく衝撃と振動で上手く動けなかった。
「終わりか・・・」
そう思ったときだった。頭上から風が叩きつけられてきた。ファッグが上を見上げるとそこには友軍のブラックホークがあった。
「速く乗れ!落ちるぞ!」
ヘリが低空飛行状態で目の前に現れ、少し動揺を隠せなかったがファッグはヘリへと急いで飛び乗った。その直後、ビルはまた凄まじい轟音を立てて崩れ、そこに残ったのはビルではなく、少ない骨組みの鉄骨とそれについたコンクリートだけだった。
ほっとした瞬間、鼓膜を破かんばかりの叫び声がインカムから流れた。
「おい!大丈夫だったのかファッグ!」
ファッグはむしろビルの崩落よりもその声の方に驚いた。
「えぇ、なんとか。というか貴方の声のほうに驚きましたよ」そう笑うとマンティスもすまんと笑っていた。
ブラックホークで『チャーリー』につき、マンティスもコブラに乗ったとき、マンティスが言い訳をするかのように喋りだした。
「そういえばさっきインカムに入り込んできたヤツは誰だったんだ?」
ファッグは’アイツ’だろうと思っていた、いや、「だろう」ではない「だ」と思っていたのだ絶対に間違えるはずのないあの声は’アイツ’しかありえないのだ。
私はインカムに向かって少しずつ、話し始めた。
忘れもしない5年前...
2023年 ニューヨーク
「おい!しっかりしろ!立てるか!?」
「あぁ・・・」
私を起こしてくれた彼はJohn"Striker"Brown。愛称ストライカーだ。彼はいつもはどこか抜けてるような奴だが仲間が倒れると普段では考えられない速さできて手当てをしてくれる。誰もが彼を信用していた。私も含めて。
だが運命とは皮肉なものだ、いい奴ほど速く死ぬ。彼は本当にそれだった。
彼は私を起こしてくれた後に他の倒れた仲間のもとへ走った。私はそれを援護していた。だが私は彼を守ることができなかった。
彼が向かった先に居た仲間は既に人質になっていて体中にC4爆弾を巻きつけられ、それはドアを開いた瞬間に爆破する仕掛けになっていた。人質は彼に「来るな」と何度も言ったが彼は聞かずに飛び込んだ。
人質は自分が死ぬのが怖かったからではない。彼を生かしたかったのだ。だが、両者の願いがかなうことはなかった。彼は戦死した。英雄の死に方だった。私は爆風で壁に叩きつけられ、先ほど処置してもらった傷がまた開いていた。視界がぼやけ、手に力が入らなかった。そんな私の目の前に’アイツ’が現れた。’アイツ’は彼の死体を見つめ、その後その死体を蹴った。そして鼻で笑い、こう言った「クソが。手こずらせやがって、部屋まで爆破することになるとは、まぁゴミが増えたが面倒なものはなくなったな。おい、死体を片付けておけ。」
私はその時、初めて本能だけで体が動いた。左のわき腹につけたホルスターに入っていたM9を取り出し、立ち上がった。だがその時、自分で立ち上がろうと決めて立ち上がったわけではない。体が動いたのだ。そしてナイフを取り出し。’アイツ’の足に投げた。深くしっかりと刺さったのを確認し、M9に入った7発の銃弾を全て体に撃ち込んだ。それまでに10秒とかからなかった。マガジンを捨て、変える。そして今度は足と腕に7発全て撃ち込んだ。
’アイツ’の持っていたAK47を戸惑い、銃を撃つことさえ忘れていた死体処理の新兵にフルバーストした。ぶすぶすと体に風穴があきその場に居た二人の新兵はその場に倒れた。
だがこの殺戮に満足がいくまでまだ足りなかった。できることならヤツの欠片もこの世には残したくなかった。
運がいいことに私は手榴弾を持っていた。
「殺してやる・・・絶対に・・・殺してやる・・・」
そんなことを口走っていた。グレネードのピンを抜き、ヤツに投げようとしたその時、私は倒れてしまった。傷口が開き、もう血が足りていなかったようだ。「殺す・・・消してやる・・・跡形も残らず・・・!」そう最後に言ったが視界がしぼるように暗くなり、やがて何も見えなくなった。深い闇に・・・落ちていった
第1話-終-