Fallen Angel 2
天使の力を受け貰うと決断した光輝。そして、それを驚いた表情で見つめるルナ。数時間も一緒にいなかったはずなのに、二人の間には見えない絆があった。
「どうした? せっかく人がお前を助けてやろうとしてるんだぞ? お礼の一つでも言ったらどうだ?」
不安がないわけではなかった。日常を失うことが怖くないわけではなかった。それでも、何故かは自分にもわからないがこの少女を助けたいと思った。
「本当に……いいの?」
こちらに問いかけるルナに対して、光輝はただ一言、当たり前だ、と言った。
「それで、俺は何をしたらいいんだ?」
「まず私の翼を握って。そしたら私が魔法を唱えるからそれで完了」
光輝は言われた通りに翼を握り、ルナが人間の言葉ではない、天使の言葉で魔法を唱える様子をじっと見ていた。しばらくすると、魔法が終わったのか、ルナは魔法を唱えるのを終えた。しかし光輝はそれほど変わった様子はない。
「終わった……のか?」
頷くルナを見たと思うと、少し離れた位置であの堕天使、イリアが魔法を唱えるのが見えた。いや、見えた頃にはもう終わっていたのだが。ルナと光輝は言われずとも何が起きたのか分かった。イリアは雪に、自身の堕天使の力を渡したのだ。
「で、でも俺はちゃんと自分の意思で動いてるんだし、あっちの思い通りには動かないんじゃないのか?」
「それは、私もやろうと思えば光輝を思うように操作できるけど今はしてないだけ。だからあの人はもう自分の意思がなくなっちゃったの……」
雪は静かに、イリアの持っていた短剣を手に取り、躊躇うことなくこちらに攻撃してきた。光輝の目の前に雪の姿が見えたときには、『もう駄目だ』と、諦めてしまったが、何故か、避けることが出来た。これがルナから受け渡された天使の力だった。身体能力が今なら普通に叩けば鉄骨を曲げれそうな気がするし、陸上でギネスを狙えそうだ。その身体能力はさっきと同じように互角。しかし、光輝は雪を攻撃することが出来なかった。目の前にあるそれは、姿形は雪のままだったから。
「くそっ……! どうすればいいんだ……」
相手は武器もあり、躊躇せずにこちらを攻撃できる。光輝にとってそれは、恐ろしいハンデだった。しかし、実際には、向こうでただこちらを見つめているイリアを倒せばいいだけだった。しかし、雪を傷つけずにイリアを倒す方法が思い浮かばない。
一方でルナは、そんなイリアの背後に立っていた。
「あなたと私じゃ勝負にならないことぐらい、分かるでしょう?」
「確かに私じゃあなたに勝てないけど、光輝ならきっと、あなたを倒してくれる」
光輝は度々イリアに攻撃を仕掛けていた。しかし、雪が身代わりになった途端、手を止める。その繰り返しだった。一行に攻撃が決めれず、ただ時間が過ぎていくだけだった。
「ほら、あの人間だってまだ私に触れられもできないでしょ。つまらないねえ……じゃあもう飽きたし、お前を殺して終わりにしてやるわ!」
イリアがルナに短剣で刺そうとした、その瞬間、光輝が恐るべき速さでそれを止めた。雪は動いていない。
「な……人間! 何をしている! 早くこいつを止めなさい! 人間!!」
「お前、雪じゃなくて、俺を堕天使の力で操った方が良かったな。お前は知らないだろうけど、あいつは俺なんかよりずっと天才だ。美少女で、テストの点数はいいし、運動神経抜群。そんなやつの精神がそんな簡単に支配出来るわけないだろ」
雪は光輝の後ろに立っていた。堕天使の意思ではなく、自らの意思でそこに立っていた。
「お前、覚悟は出来てるんだろうな?」
「や、止め」
イリアが止める前に、光輝はイリアを殴り飛ばした。某アニメのように、どこかへ彼方へ飛んでいってしまった。
「ルナ……雪……」
戦いは、終わった。
その瞬間、後ろから衝撃を受け、光輝は倒れ、意識を失った。意識を失う前に、何人かの天使が視界に写った。しかし、それを確認する頃には、光輝の視界は真っ暗になっていた。