Meet Angel 2
「……結局泊めることになったな」
話を聞く限り、どうやらルナは原因は分からないが空を飛べなくなってしまったらしい。そうなると自分の用事も済ますことができないし、その天使のお仲間の所へ帰ることも出来ない。そういうことで、とりあえず泊まらせてほしかったらしい。
「へえ、なんだか殺風景な部屋だね。でもその割に意外とセンスのいい家具も置いてある。あっ、これは限定販売の……」
「頼むから静かにしてくれ……」
ルナが泊まるのは俺の部屋。他の人に見えないということが良かった。そのおかげで家族にも見えないし、多分外出しても気づかれないだろう。
「それで、さっきから用事、用事って言ってるけど、なんなんだ? 残念ながら俺には天使の用事なんて分からないぞ。俺に出来ることなら手伝ってやってもいいけど」
「えっとね、悪魔狩りをするの。悪魔狩りとは、悪魔を退治することだよ。今回の相手は堕天使。まあ堕天使なんて私には敵いっこないから、増援が来るまでの時間稼ぎだろうけど。玉砕しないように頑張ってみるけどね。死ぬのは嫌だけど上には逆らえないから、仕方がないんだけどね」
「ちょっと待ってくれ! なんかものすごーくヤバイ話だったんだけど?!」
ルナは慌てている光輝を見て不思議そうな表情を浮かべている。ルナは死ぬことが怖くないのだろうか。そして、その上の奴等は死ぬと分かっててルナを出したというのか。
「っざけんなよ……お前死ぬのは怖くねえのかよ……」
「死ぬのは嫌だけど、別に怖いと思ったことはないよ。だって、天使は元々悪魔を狩るためだけに、神に作られたものだから。逆に私達にとっては死ぬのが怖い方がどうかしてる。消えてなくなるだけだし。死体も残さないから」
光輝には、分からなかった。天使というものが何なのか、そこまでしなければいけない理由も。しかし、光輝は確かに、この少女を守ってあげたいと思った。
「じゃあ、ずっとこの家にいれば? ここなら、安全じゃないのか?」
「それは無理だよ」と、静かに微笑み、「だってこの家は壊したくないしね。君も家を壊したくないでしょ? さっきのことだけど、別に泊めなくていいよ。今からこの家出るし」
「あ、おい!」
咄嗟に呼び止めるが、こっちを振り向きもせず、ただ静かに、扉を開け出ていった。
そして数秒後、静かになった部屋に携帯電話の着心音が鳴り響いた。
「もしもし」と言いかけた瞬間、『おっそい!』と怒鳴り声が聞こえた。
電話の相手は小萌雪。一応幼馴染みなんだが、顔は美形、テストの点も凄く良く、運動も将来のオリンピック選手と呼ばれる程うまい、幼馴染みでもこれだけ違う、超万能エリートだ。
「あー、あれか。皆で勉強会だったな。そういや俺も参加してたっけ。つーかお前別に勉強なんかしなくたって良い点数じゃねえか。お前参加する意味あったのか?」
『うるさい! 大体あんたが遅いからわざわざ電話かけてるんでしょうが! そこのところ分かってるんでしょうね!』
「あんたってな、一応俺にも宮夜光輝っていう、れっきとした名前があるんだぞ……って切れたか。しゃーない、今から行くか」
雪の家は自分の家の直ぐ近く。光輝が家を出た頃には、もうルナの姿は無かった。
「あいつ、どこで何をしようとしてるのかな……」
雪の家が目の前になったとき、家の二階から大きな声が聞こえた。
「遅い! 一体何してたのよ!」
窓から顔を出したのは雪。黒髪のポニーテールをして先程言った通りかなりの美形、そんな顔を怒りの表情にして叫んでいた。
「お前みたいに足早くないから仕方ないだろ! 大体数分もかかってねえ! これのどこが遅いんだ?!」
「うるさいわね! 大体あんたは……あ、そうだ。さっきこの窓から外見てたらあんたの家から変なコスプレした美少女が出てきたんだけど、心当りある?」
「ああ、あいつか。あいつなら……?!」
(待てよ……)
光輝はしばらくしてようやく気づいた。
『それとはちょっと違うんだけどね……まあ見える人は少ないと思うよ』
どうして、雪はルナ(てんし)のことが見えたんだ?
「俺と同じ……? いや、今はそれより……」
「何ボケーッとしせるのよ! さっさとこっちに来て!」
「おい、そいつどこ向かった?!」
「どこって……そのままこの通りを真っ直ぐ……」
「ありがとよ! 荷物は預かっといてくれ!」
「ち、ちょっと待ってよ!」
光輝は荷物を放り投げ、言われた通りに走った。ただ一人のあの天使を救いたくて、助けたくて。雪が叫んでるのも無視して、ただひたすら、走った。そして雪も、光輝を追って、自慢の速さで走った。
「くそ……死ぬんじゃねえぞ、馬鹿天使!」