Meet Angel
もしも空から人が降ってきたら。
そんなことはこの超能力も、魔法もない普通の世界で実際あるわけないのだが、宮夜光輝はそれを実際に体験した。
「なんかこう空が晴れてると気分もいいな」
今日は今月最高の晴天。雲一つない晴れた空を見上げ、光輝は一人呟いていた。そんなところに、ドサッという何かが、誰かが落ちてきたような音が十数メートル離れた場所から聞こえてきた。当然、光輝はその音に反応してそちらを振り向いた。
振り向いた先には一人の少女。腰の辺りまで伸びた艶やかな金髪と、背中から生えた大きく、真っ白な羽根が目を引いた。そんな少女が頭から血を流して倒れていた。
「なんだこれ?! 見て見ぬふりも出来ないしな……」
仕方なく光輝はその少女を家に連れ帰り、この正体不明の少女を病院に搬送でもしようかと思った、その時。
「ぅ、あ……ここ、は?」
少女が口を開いた。可愛らしい声だった。まさか口を開くとは思わなかったが、よく思い出してみれば、恐らくこの少女は上空遥か高くから落ちてきた。それで頭から少し血を流しただけ、というのは普通の人間では普通有り得ない。もしかしたらこの少女は光輝が出逢った人生初、『人間』ではない『何か』なのかもしれない。
「えっと、君、大丈夫? 頭から血が出てるからあまり動かない方がいいと思うんだが?」
「……血? そんなもの、出てないよ」
光輝はこの時初めて気づいた。この少女の頭から出ていたと思った血は、実はその少女の物ではなく、ただ単に付着していただけということを。それではこの少女は上空から落ちて、傷ひとつなかったことになる。
「……君、人間?」
「人間……ううん、違う、天使。名前はルィナ・スフィンエス。ルナっていうのが愛称なんだけど」
天使。予め言っておくが光輝は天使などという羽根が生えていて、光の輪がついているような存在を信じたことが生涯一回もない。
「あのさ、それって冗談だよね……って念のためだけど立ったら駄目だよ!」
「心配ないよ。このぐらいならどうってことないから。それより、ここはどの辺なのかを教えてほしいんだけど、いい?」
「ここ? ここは……って、仮に言っても天使に人間の街のことなんて分かるのか?」
「人間? ええ?! あなた天使じゃない?!」
どうやらルナは今の今まで、光輝を天使だと思っていたらしい。いきなりのことに光輝は少し飛び退いてしまった。
「正真正銘、ただの高校一年生、宮夜光輝だけど?」
「あなたは私が見えるのよね? それであなたは天使じゃないと」
「うん。もしかしてあれ? 私は幽霊が見えるのですー、的な普通の人には君みたいな、天使は見えないっていうこと?」
先に言っておくが光輝は霊能力者じゃないので、霊感なんてものは持っていない。そもそも、そんな霊なんていう存在も信じたことはないのだが。
「あ、うん。それとはちょっと違うんだけどね……まあ見える人は少ないと思うよ。少なくとも私がそういう人に会ったのは君で五人目。しかもその内三人はうっすら見えるだけとか、凄くぼやけてたりいてたらしいの。それより、驚かせてゴメンね。私は用事があるから、さようなら」
光輝は未だ状況が掴めずポカーンとしているが、ルナはその大きな羽根を広げて飛びたった!……と思ったが、ルナの体は羽根が大きく広がっただけで、ピクリとも動かず、表情も段々曇ってきた。
「どうしよ」と呟き、その場に力なく座り込んだルナ。
「飛べなくなっちゃった……」
その言葉に、「へ?」と間の抜けた声で光輝は反応した。今にも泣き出しそうな困っている表情で座り込んでいるルナの下へ、光輝は急いで駆け寄った。ルナは相変わらず、困っている表情で座ったままだ。
「おい、どうしたんだ? なんでそんな困ってるような表情で座り込んでんだ? なんか、すごくショックを受けるような厄介なことでも起きたのか?」
「お願い! 泊まらせて!」
「…………はあ?!」