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どうしてこうなった?

作者: ココ岡山

『総合企画部 部長補佐 清水玲奈(しみずれいな) 殿

 1月1日をもってヴェンダーム帝国 将軍補佐を命ず』

手にした辞令を3回読み直し胡乱な眼差しを向けた私に、わが社のCEOはにこやかに告げた。

「ちょっと異世界に行ってきてくれないかな?」

「…はぁ?」


四半期決算に向けて連日怒涛の業務をこなし、どうにか見通しが見えてきた年末の昼下がり。

内々に辞令発令があるからと呼び出された会議室には、『迅速な業務遂行能力と卓越したコミュニケーション術』で社内外に信望者の多い現在直属の上司である榊部長。…だけでなく、何故か『どのような状況下においても冷静沈着で負け戦を知らない切れ者』と名高い現業務担当役員の桐生常務、これまた私の一昨年までの上司だ、ついでに『的確な先見の明を持つ経営手腕と他を圧倒するカリスマ性を併せ持つMrパーフェクト』こと人外の才能とついでに美貌を誇るエドアルドCEO。

正直何事かとドン引きしながら賜った辞令が

『ヴェンダーム帝国 将軍補佐を命ず』

しかもわが社の明日を担うであろうこの三名、あろうことか全員真顔である。

ヴェンダーム帝国って…どこやねんっ!? …って『異世界』か。さっきCEOがにこやかに説明してたしね。んじゃ、将軍補佐って何すんねんっ!?

大声で、しかも何故か関西弁で、ツッコミたいのは山々だが、一応社会人歴十数年の私。もう一度、もう4回目だけど、念のため辞令書を確認。

うん、やっぱり書いてあるねっ、『ヴェンダーム帝国 将軍補佐』

一言一句確認して顔をあげるが、一応尊敬する上司と元上司はクドイようだが真顔のままである。

面倒な役員会や関係部署との業務会議の時ですらあまりお見かけしないほどの真顔。

うーん、突っ込む隙もないしこの際一万歩お譲りして『残念』ながら正真正銘本気(マジ)な辞令だとしても、だ。

ここに至ったのはやっぱりあれか?忙しかったからかっ!?過労死寸前で三名そろって『痛い人』になっちゃったからなのかっ!!

確かに女の私ですら先週は1日しか帰宅できないほどの業務量、ホント最後はナチュラルハイになったがゆえに乗り切れたと言っても過言ではない日々。たかが部長補佐にすぎない私がG1レース中にサラブレッドの目を抜いてくるほうがマシと宣言したような状況だったことを考えれば、その間のこのご三名様の忙しさはは推して知るべし。そりゃちょっと現実逃避したくなりますよね。壊れたくもなりますよねっ。あはは。

とは言え、こう、なんて言えばいいのか、その『壊れてしまった』のもアレだけど、その壊れ方はもうドン引き超えてマジ引き、なんだかいろいろと痛いと言うかヤバいと言うか…、いや、もうホントいろいろ『残念』だわ。


「…思ったことを何でも顔に出すなと教えただろう?」

ため息をついて『痛い人を見るような眼差しをやめろ』と桐生常務が口をひらいた。いつもクールなポーカーフェイスが不本意そうに僅かに顰められる。

直属の部下だった2年間、耳がタコ壷になるほどほぼ毎日言われましたなぁ。徹底的にしごかれたおかげで今は鉄壁のポーカーフェイスですよ。いやホント、こんな『痛い』辞令の話じゃなかったら普通にできましたよ。うんうん。しかしよかった。痛いこと言ってる自覚はあるんですね。

「どこが『鉄壁』だ。考えていることがダダ漏れだろう」

「普段なら清水のポーカーフェイスも常務と張りますよ。まぁ今回は急な辞令でしたし内容が内容ですしね。」

眉間の皺を深くした桐生常務と業務中は完全装備しているポーカーフェイスを纏えぬほど胡乱な表情になっている、であろう、私に榊部長がやんわりと軌道修正を促す。

そうそう、今の問題は私のポーカーフェイスではない。この『残念』な辞令だ。

「では、辞令の詳細について説明をしようか」

面白そうにやり取りを眺めていたCEOが私に微笑んだ。


その『人外の美貌』と称される人の微笑は天使のようで、一瞬見惚れたのだけれど。

いや、確かに天使みたいだったのだけど、天使だったはずなんだけど…。

説明を聞いているうちに、あれ?なんだか寒気が…。


結果。

いろいろ丸めこまれ反論の甲斐なく怒涛の引き継ぎおよび事前研修を受け、一週間後の1月1日に無事着任。

えぇ、しましたとも。ヴェンダーム帝国 将軍補佐にねっ!


赴任先がマジで異世界だったこと。

赴任先での業務内容及び成果目標が帝位の万全な譲位及び近隣諸国との円滑な外交ととんでもなく時間と労力がかかるものであったこと。

あの場にいた上司二人が異世界赴任経験者でありそれぞれ『氷の宰相』『漆黒の闇将軍』と半端ない二つ名をもっていたこと。CEOに至ってはヴェンダーム帝国出身の魔導師、しかも現皇帝の弟だったこと。

『漆黒の闇将軍』の愛弟子である王弟殿下、現ヴェンダーム帝国将軍に紆余曲折の挙句、妃として迎えられることなどこの時の私は知るべくもなかった。


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