奇跡
季節はすっかり移り変わって、朝起きた時の寒さが一層厳しさを増してきた。
青森ではこの季節、当たり前のように雪かきをしている人々が目に付くが、東京ではその様な光景を見ることはあまりない。
代わりに目に入るのは、街にこれでもかと言わんばかりに飾り付けられたクリスマスの装飾だろうか。
詩衣とはほぼ毎週の様に会っている。詩衣と会うと嫌なこと全てを忘れられる気がした。
靴したに穴が開いたという小さなことから、過去の辛い失恋まで全てのことを…だ。
それが何故なのか、篤紀なりに考えてみた。
おそらくきっと、篤紀といるときの詩衣が余りにも幸せそうな顔をするからだ。
自分がこんなにも幸せそうな顔をさせてあげてるのだ、と悦に浸れる。
そんな感情にどっぷり漬かるのは、それほど悪い気もしない。
12月25日。
今日も篤紀は詩衣と時を過ごしていた。外苑の銀杏並木も今日はすっかり純白が似合うイ
ルミネーションと化していた。
「地元だとさ、クリスマスに雪が降るなんて当たり前。むしろ大雪で外に出ようなんて思わない…それがこっちだとこんなに人がごった返してるんだもんな。不思議だな」
その言葉を聞いて、詩衣は微笑んだ。手にはこんな日によく似合う真っ赤な手袋がはめられている。
「ほんと、カップルばかりだね」
言い終えた後、詩衣は少しだけ羨ましそうな眼差しを篤紀に向けた。
篤紀はその視線にドキっとした。これがクリスマスの魔法だろうか。
詩衣を喜ばせたい。そうすればきっと、自分も幸せになれるんだ。
そう思い篤紀は自分の想いを言葉にのせた。
「はたからみれば俺だだってそう見えるだろ…何なら本当にそうなる?」
早く詩衣の反応が知りたい。先走る気持ちを抑えようとそっと息を吐く。濁りもなく真っ白だ。
次の瞬間、詩衣の瞳に溢れそうなほど涙が浮かびあがった。それは詩衣の白い肌をより一層引き立たせた。
篤紀は詩衣の柔らかく細い肩を後ろから抱きしめる。
「泣くな!」
少しはにかみながらそう言い放った時、掌に水滴が滴った。詩衣の涙だろうか、それとも二人を祝福するかのようにタイミングよく粉雪が落ちてきたのだろうか…。
12月25日。
東京でも珍しくホワイトクリスマスとなった。
その日は詩衣の24回目の誕生日だった。