6/57
動悸
「すごい!そんな偶然なかなかないよ!」
休憩所に興奮気味な知里の声が響く。
「…そうかな?」
ややおっとりとした口調で、そしてちょっとはにかんだような表情を浮かべながら詩衣は返事をした。
「絶対そう!運命だよ運命…早く次合う約束とりつけなよ、鉄は熱いうちに打てって言うじゃん」
せっかちな知里がそのように促がしたことで、詩衣の篤紀に対する気持ちはどんどん膨れ
上がった。
運命だなんて信じていないけれど、詩衣にとって知里のその言葉は満更でもなかった。
小学校の頃から何も変わっていない優しい笑顔だった。
見た目は幾分か大人っぽくなり、男らしさが増したせいか見慣れないものがあったが、あ
の笑顔だけは詩衣が好きだったころのままだった。
ー知里の積極的な性格のおかげで今日会える約束ができたのだから、今度パスタでも奢らなきゃなー
そんなことを考えながら詩衣は喫茶店までの道のりを足早に歩いていった。
シフォン素材の白いスカートがふわりと揺れた。