上弦
カチッカチッカチッ…、
なかなかライターが点火しないようで、それでも諦め切れないのか先程から健人は仕切りにその動作を繰り返している。
「…あー、だめだ、ははっ。」
舌を出し、戯けて笑った健人。
微妙に触れ合っている肩が妙に気恥ずかしい。
「で、好きなんだけど、うたちゃんのことが。」
余りに脈絡もなく、唐突に爆弾発言をぶち込むので、詩衣は肩がガクッとさがり、腰を抜かしそうになった。
そんな詩衣の間抜けなポーズを見て、健人はケラケラと腹を抱えて笑っている。
「………、」
詩衣が無言で軽く睨みつけても、健人は尚も笑いが止まらない様子。
「…もー、…」
ついに詩衣も怒るのが馬鹿らしくなり、何となく溜息を吐いた。
「怒った?」
「…怒ってないです。…本当はちょっと怒ってます。」
だよね、と健人は呟き、口角を緩める。
と、先程までとは異なり、急に真剣な面持ちを浮かべた。
向けられた眼差しは力強く、ドキリ、吸い込まれた。
「…だってさー、」
何を言いたいのかよく分からず、首を傾げると見せた表情は苦笑い。
ころころと変わる豊かな表情も、健人の魅力なのだろう…たぶん。
んー、と呟きながら両手を組み伸びをする健人。
手をダランと下げると同時に、解き放たれた白い息が妙にリアルだ。
「どうせフられるんだろうから、最後にちょっと意地悪したくなった。」
「………つっ、」
「そんなあからさまに困った顔しないでよ。」
ごめんなさい、と聞こえないくらい小さな声で呟けば、
「わかってたから。」
と、優しく包み込むような健人の声が耳に届いた。
「…あの、」
「なに?」
数秒の間を置いて、詩衣は健人に話しかけた。
真冬の寒さを通り越した風は、もうだいぶ穏やかで、ほんの少しだけ春の到来を予感させた。
「…一人のひとと、ちゃんと付き合ってみたらどうですか?美奈子ちゃんも…たぶん華さんも、きっとちゃんと健人さんのこと…好きだったんじゃないかと思います。」
一瞬、ほんの一瞬、呆気にとられた健人だったが、
「ハハ、違いないね。」
と舌をペロッと出し、笑った。
「ねぇ、それやっぱ今開けて。」
健人が言ったその言葉の意味がわからず、首を傾げると、
「そーれ。」
視線の先には、先程健人から貰ったホワイトデーのプレゼント。
はい、と呟き、ピンクの不織布に取り付けられたリボンをハラリと解き放つ。
「それね、本当は俺からじゃないの、」