畦道
なんだか面倒なことになったな…と正直内心では思っていた。
篤紀と腕を組んで帰る帰り道。
外は風が冷たく、身体は凍てつきそうに震えるけれども、こうしてお互い熱を寄せ合えば少しだけ心も温まる。
華にとってはそれだけでよかった。
毎日の子供の世話だけでも大変だというのに、それに拍車を掛けるように旦那の会社が倒産し、豹変してしまった旦那。
少しだけ、癒しがほしかった。
誰かに話しを聞いてほしかった。
それが気心しれている篤紀なら尚よかった。
本当は…
本当はもしかしたら、旦那に復讐したい気持ちもあったのかもしれない。
ふと華は数ヶ月前の出来事を脳内で回想した。
会社が倒産してから、毎日の様に飲み歩くようになった圭。
ある日、帰ってくるなり玄関に倒れこんだ。
慌ててかけより介抱しようとすると、
「邪魔だ。」
そう冷たく言い放ち、そこら辺にある家具などを蹴飛ばしながらヨタヨタと寝室に向かった。
あまりの豹変にただただ、唖然とするしかなかった。
眠りについたはずの子供が恐怖のためか声をあげて泣き喚いた。
…それだけならまだ許せた。
だけど、
圭が玄関に放り投げたジャケットを拾いあげると一枚の名刺がハラリと舞い落ちた。
それは明らかにキャバクラで貰ったと思われるものだった。
息を飲んだのは、その名刺の裏面を見た時。
『こないだのエッチ気持ちよかった。アヤ』
怒りすら湧いてこなかった。
途端に全てが馬鹿らしく思えた。
そっちがその気ならこっちだって…、心の何処かに自暴自棄とも言える様なそんな考えがあったのかもしれない。
けれど…
「………な!華!」
ふと我にかえると、隣にはいつもの笑顔。
「どうした?…具合でも悪い?」
首を横に降ると、篤紀は心底安心した表情をみせ、胸を撫で下ろした。
離婚しよう、そう思い全ての手筈を整えてきた。
けれども何のイタズラか…。
一週間ほど前、圭が実家を訪ねてきた。
身なりはきちんと整えられ、初めて私がプレゼントしたジャケットを着用していた。
圭は私と私の母親に対して、深々と頭を下げて謝罪した。
「本当に…すまなかった。もう一度だけ…俺を信じてくれないか?」
ひどく不安定な私の心は結局圭に揺らいだ。
隣で優しく私の頭を撫でる篤紀が、これほどまでに私を想ってくれているとは正直おもってもいなかった。
篤紀に…別れの言葉を告げるのは、せめてこの凍てつく季節が通り過ぎてからにしよう。