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微笑みの詩  作者: ここたそ
第二章
51/57

幸福

「華さんが…傑くんのお兄さんのお嫁さんってどういうこと?」


「どういうことってこっちが聞きたいよ…。なんかいけないもの見ちゃった気分だ。」




詩衣の質問に答えた傑は、前屈みになり項垂れている。ほぼ100パーセント華であることを確信したためか、力が抜けてしまったようだった。


「華は…さっき腕くんで歩いていた男の人とどういう関係なの?あの様子じゃ親しいお友達ってわけでもない…んだよね?」




詩衣は何と答えたらよいのか困った。





華と篤紀の関係、その事実を傑に言ってよいものなのかわからなかった。




本当のことを言ったら篤紀は…どうなってしまうんだろうか。





いい加減、篤紀が誠実な男でもなんでもないことをわかってきている自分もいる。






それでも…それでも華さんと一緒にいることが篤紀にとっての幸せなら、自分が口を出すようなことではないのかもしれない。




篤紀の幸せを願いたかった。





例えそれが、他の人の不幸に繋がるとしても。




重苦しい沈黙が数秒続いた後、従業員控え室のドアがガチャリと音を立て開かれた。



姿を現したのは、健人だった。


健人は詩衣が横たわっているソファの横にいくとしゃがみ込み、視線を詩衣の高さに合わせた。




大丈夫?と一言だけ声をかけられたが、詩衣は健人の顔が近かったためか、つい先ほどのキスのことを思い出してしまった。





気まずさを感じたため、軽く頷いたあと視線をそらした。




健人は一瞬苦笑いしたものの、直ぐさまいつも通りの営業スマイルを顔に浮かべて話し始めた。




しかし、それは詩衣に言っているわけではなかった。




正確には、詩衣も含め今この場にいる全員に言ったものだった。



「ここの扉は結構薄くって。立ち聞きするつもりはなかったんだけど。」



そう前置きすると、健人は真っ直ぐ傑を見つめた。



「圭先輩の弟だったんだな。」




傑は一瞬驚いた表情を浮かべたが、健人の言葉に対してゆっくりと首を縦に振ると、今度は傑が質問を投げかけた。




「兄ちゃんの知り合いですか?」




「大学の時、圭先輩と同じサークルだった。んで、華の友達でもある。…ついでに言うと、その華と腕組んで歩いてた奴とも友達。」




相変わらず笑顔を崩さない健人とは裏腹に、傑の表情は一気に険しくなった。





健人は両手を伸ばし、まぁまぁと傑を軽く制すと続けて話し始めた。




「まぁ確かにその男がやっていることはいい事ではないけれど…、でも離婚するんだろ?華と圭先輩?」



「…は?」




傑の表情は鳩が豆鉄砲を喰らったと表現する以外にはいい表せないような、心底驚いた表情だった。





言葉にはしなかったものの、詩衣も驚いていた。



篤紀と付き合っている間、華とのことは一切篤紀に詮索しなかった。

そのため、華と子供に暴力をふるっている事を考慮したとしても、篤紀と華の関係はただの不倫関係だと思っていた。




華が離婚することは、健人の言葉で今始めて知った。



離婚してしまえば…篤紀と華の関係も決してやましいものにはならないのかな。

そんなことをぼんやりと考えていた。



「離婚…するんだよな?」


傑の表情に、何やら腑に落ちないものを感じ取った健人は、再度傑に問いかけた。



傑はゆっくりと首を横に振った。


「離婚なんてするわけないじゃん。…昨日だってチビと華と三人で出掛けたって兄ちゃんから電話で聞いたんだよ?」









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