進展
池袋西口をパルコ方面へと向かう途中にその喫茶店はあった。
雑居ビルの3階にある「砂時計」という名の喫茶店は、マスターがいれてくれるキリマンジャロが売りだ。
篤紀は窓際のソファー席に腰を下ろしていた。
少し冷めた珈琲をすすりながら、窓から見える横断歩道を眺めていた。
土曜日だからだろうか、窓からは子供連れで歩く人が目立った。
「もう一度、今度はお茶でもどうかな?」
西浦詩衣から誘われたのは、新宿のスーツ店で再会したあの日から一週間後のことだった。
仕事を終え、家に着くとまずシャワーを浴びる。その後キンキンに冷えたビールをこれでもかというくらいに一気に飲み干す。
お決まりの儀式を堪能している時にその電話はかかってきた。
正直、意外だった。
あの日連絡先を交換したけれどもまさか本当に電話がかかってくるとは思ってもいなかった。
というのも、篤紀の記憶だと詩衣はどちらかといえば受け身なタイプの女の子だったからだ。
綺麗に雑草が抜かれた小学校の校庭で、6年1組の生徒はよくドッジボールで遊んだ。
いつも自分から友達を誘い一番に校庭に向うタイプの篤紀に比べ、詩衣は誘われるのを待っているような子だった。
だからだろうか…今、詩衣の方から誘われてここに座って彼女を待っているのに少し違和感を感じた。
そんなことを考えながら、珈琲をもう一杯おかわりしようとマスターの方を向いた時に、ウッド調の扉にかけられたベルが鳴った。