(閑話休題)篤紀と華…episode1
篤紀と華の昔ばなしです。
「あいつ浮気してるのかな?」
どう思う?と内容とは裏腹に至って冷静に、華が話しかけてきたのは、大学1年の夏休み。
夏休みといえども幾つか補講があり、週に二日くらいは結局大学に足を運ぶはめになっている俺は、この日も午後は学校にきて居た。
ミーンミーンなんて鳴いている蝉の声を風情があるなぁなんて思いながら聞いていると、華がそのように尋ねてきた。
その頃はまだ、「華」なんて親しげに呼び合う間柄じゃなくって。
まあ…健人の彼女、俺の中ではそれくらいの存在。
一際美しい容姿を持っているせいか、校内ではマドンナ的存在だが、俺の中ではそれ以上でもそれ以下でもない。
だからこそ、その質問には正直めんどくさいなとしか思わなかった。
「う~ん、ちょっとわかんないな。」
そうだよね。と言い去っていったその子の後ろ姿をみて、もう少し気の利いたこと言えばよかったかなと思った。
と言っても、高校まで野球一筋の恋愛経験なんてほぼ無いに等しい俺に、そんなことができるとも思えないが。
ていうかそもそも、健人のやつ絶対浮気してるだろ120パーセント。
そしてそれをわかった上であの子もおれに探りをいれてきてるんだから、女って恐いなほんと。
つーかそんなならさっさと別れりゃいいのに。
浮気してるってほぼ確信してるなら、もう付きあってても意味無くないか?
…そんな風に割り切って考えれてしまう俺は、やっぱ本当の恋ってやつをしたことがないからなのかな。
ま、いいけどね。
付きあって溺れて、でも結局は別れることになってズタボロに傷付くなんておれは御免だし。
あの子は辛くないのかな…彼氏が浮気してるの知ってて付き合うの。
それから数日たったある日、再び補講のため大学に出向くと、既に教室にはあの子がいた。
女子四人くらいのグループで楽しそうに何やら話している。
ていうか、男の話をしている。
声でか過ぎ、丸聞こえ。
これだから人文学科と合同でやるこの講義は嫌なんだよな。
暫くたって俺の存在に気付いたらしい、健人の彼女は、俺の元まで近寄ってきた。
その時の風に揺れたようにたなびく長い髪が、やけに美しかったのだけは今でも覚えている。
「ね…今日健人は?一緒じゃないの?」
「俺一人。」
一瞬、その子は寂しそうな表情を浮かべたような気もしたが、すぐさま元の表情にもどり続けざまに俺に話しかけてきた。
「…レポート映させて?」
「そういうのは自分でやらないと意味ないんじゃない?」
「そうだけど…。」
そう言って今度はちょっとムッとした表情で頬を膨らました。
「…じゃあ、この問題教えて。」
いいよ。と俺が言うと、前の席のイスに座り後ろを振り返る格好で俺の席に肘をついてきた。
お互いの顔の距離感がやけに近くって、俺は心臓が張り裂けるんじゃないかってくらいドキドキした。
この時、俺は始めて健人の彼女を女として意識した。
だからって好きになるわけでは当然なくって。
そもそも健人の彼女だしね。
「なるほど~、わかりやすかった!ありがとう篤紀くん。」
…何だ、俺の名前覚えてたんだ。
「…大丈夫なの?」
イキナリの質問に、何が?と言いたげなその子を無視して俺は続けた。
「健人のこと。…気づいてんだろ?」
余計なこと言ったかなと思ったその時、その子の瞳から溢れんばかりの涙がこぼれ落ちた。
つーか、これ俺が泣かせたみたいじゃん…。
「大丈夫!では…ないかな。」
「なら別れりゃいいじゃん。」
「篤紀くん、ひとを本気で好きになったことないでしょ?」
カチンときた。
確かに俺は本気で好きになったことなんてねーよ。
それがそんなに悪いのかよ。
その二日後、大学近くの駅で楽しそうに笑顔を浮かべながら手を繋いで歩いている健人とその子を見かけた。
二日前の泣き顔とは一変、その子は幸せそうな顔をしていて。
その表情はきっと健人の前でしか出せない表情何だろうなと感じたと同時に、少し分かった気がした。
もしかしたら俺は…、ズタボロに傷付くこともない代わりに、あれだけ幸せそうな瞬間を手にすることもないのかもね。
そう考えると、悪くないかもしれない。
…本気の恋愛ってやつも。




