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微笑みの詩  作者: ここたそ
第二章
46/57

交差

その日は朝から何かついていなかった。


例えば、いつも8時45分にセットしている目覚まし時計が電池切れのため鳴らず、危うくいつもの電車に乗り損ねそうになった。

ついていないな…と思ったのは序の口で、仕事でもいつもはしないような些細なミスを連発した。


仕事後、滅多に怒らない店長に叱責され、今すぐ泣き出したいような気分のまま、詩衣は健人の店であるバーラウンジを目指した。

時たま隣にいる千里が励ましてくれたものの、なかなか気分は晴れなかった。



目的地に到着すると、二人は相変わらず無機質なコンクリート造りの階段を下って行った。


入り口のドアは中々の重厚感で雰囲気がある造りのため、初めてこの場所に来た千里は思わず「へ~お洒落」と声を漏らした。




店内に入ると、既に美奈子は到着していてカウンター席に座り健人と会話をしていた。


二人は詩衣達に気づくと、小さく手をふった。

詩衣は早速二人の方に近づくと、千里を紹介した。



「いつもうたちゃんから、話し聞いてるよ。うたちゃんの同期なんだよね?あと二人来るってきいてたけど…あとからかな?」


健人が爽やかな笑顔で千里に話しかけた。

千里はもともと人見知りをするような性格ではないため、その問いに積極的に答えた。


「あ、私もいつも詩衣から二人の話しは聞いてます。後の二人は30分くらい遅れるかもってメールがさっききて…」



そこまで言うと、千里は美奈子の方を見て話しを続けた。


「…美奈子ちゃんって本当に可愛いですね!お人形みたい!う~ん健人さんと並んでると美男美女だなぁ…。」


千里のその発言が余りに的を得ていたため、可笑しくなり思わず詩衣は声を出して笑ってしまった。


一方、美奈子は千里の発言に満更でもないような妖艶な笑みを浮かべ、健人はポーカーフェースを作ろうとしているものの少々困った表情になっていた。



話題を変えたかったのか、誤魔化すかのように健人は入り口からは一番遠い場所にある革張りのソファーを指差した。


ソファーは二人掛けの大きさのものが二つ、向かい合わせのかたちでおいてあり、その間にはこれまたセンスがいいアンティーク調のローテーブルが置いてある。


「うたちゃん達4人にはあそこの席を用意しておいたから。」


健人のその言葉に詩衣が頷くと、美奈子が自分が座っているカウンター席の隣のイスをひき、ポンポンと軽くたたいた。


「ね!後の二人が来るまで、詩衣と千里もここで話してようよ。」


二人は快諾し、美奈子、詩衣、千里の順番で腰掛けた。


そんな三人の目の前には、せっせとカクテルを作る健人の姿がある。

三人の美女(?)に見つめられている格好になっている健人はやはりいささか気まずそうだ。



「そうだ、健人さん。表の看板に書かれている『espoir』ってこの店の名前だよね。どういう意味?」


千里が投げかけたその質問は、実は詩衣も前々から気になっていたものだった。


「あぁ、あれは『エスポワール』って読むんだけど、フランス語で『希望』って意味。」


そう答えると、健人は詩衣と千里にカクテルを差し出した。

グラスの中には小さくカットされたオレンジが浮かんでいて、見た目も非常に鮮やかだ。

二人はそれを受け取り口にした。


「希望かあ…。私にも希望はあるのかな。どうしよう詩衣、緊張してきた。」


千里の台詞が気になったらしく、美奈子が率直に千里に尋ねた。


「え?なになに?千里、何に緊張してるの?」


「今日のバレンタインイベントだよー。実は私、過去にもその人にチョコあげて…失敗してて。だから今回こそはちゃんと想いを伝えるんだ。」


美奈子は合点行った様子で頷いた。


「へー、この後来る二人のうちの一人?」


今度は、千里に変わって詩衣が答えた。


「うん。千里の大学の時のバイト仲間なんだって。」


再び美奈子が頷くと、今度は詩衣に問いかけた。


「そういえば詩衣は誰にあげる事にしたの?その千里の元バイト仲間のもう一人の方?」


「うん。…浩介さんって言うんだけど…。」



そう、詩衣は悩んだものの結局チョコは浩介に渡すことにした。

理由は結構簡単で…、傑には千里があげるし、健人はどうせその他の客から沢山貰うだろうし、ましてや詩衣には初対面の人にいくら義理といえどもチョコをあげる勇気などない。

と、いう消去法で浩介にチョコを渡すことにした。



「…美奈子ちゃんは健人さんに?」


「他に知ってる人いないしね。」


言い終えると美奈子はイタズラっぽく笑い続けた。


「でも一人で飲みに来てる人多いしなー。イケメンいたら健人なんかじゃなくてそっちにあげよっかなー。」



詩衣と千里がクスクスっと笑ったその時、入り口のベルが鳴り重厚感のあるその扉はゆっくりと開かれた。


傑と浩介かな?と思い、扉の方に顔を向けた詩衣の目に飛び込んできたのは意外な人物だった。




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