困惑
1月も、もう半分が過ぎ去り、いくら東京といえどもより一層寒さが厳しくなってきてその日、篤紀は渋谷にあるとあるファッションビルにいた。
その篤紀の隣で、腕を組み身体を針の隙間もないくらいに密着させ寄り添っている女性は華だった。
二人は会うのが久々だった。
あの日───篤紀が詩衣と別れた後、強引に華を抱いた日以来だった。
あの日以来、篤紀は詩衣に対しても、また華に対しても罪悪感を感じ、華と連絡をとるのを避けていた。
華からも特に連絡がくることはなかった。
その為、詩衣とは別れたものの特に華と会うこともないまま毎日を過ごしていた。
勿論、正月休みの間篤紀は青森に帰省していたため、二人の間に物理的な距離もあったのだが。
そんな中、先に連絡をしたのは篤紀ではなく華の方からだった。
昨夜、仕事を終え、いつもの様にビールを飲んでいると、いつの間にやら肌身離さず側におくことが習慣となってしまった携帯が久々に点滅しているのに気がついた。
買い物に付き合ってほしいという連絡を受けたとき、篤紀は悩んだ。
あれだけ詩衣を傷つけておいて、自分だけ華と楽しい一時を過ごすことは許されるのか…と。
まあ結局は、華に会いたい気持ちの方が優ったのだが。
本当は、心の何処かで結果的に詩衣と別れることになりホッとしているのかもしれない。
華と会う時に、前みたいに詩衣のことを気にしなくてすむのだから…。
けれども、物凄く勝手なのだが、まだ詩衣に自分のことを思っててほしい気持ちもあった。
詩衣が他の誰かのものになるのがたまらなく嫌な自分がいた。
篤紀がそんなことを頭のなかでボンヤリ考えていると、華が少々怒った口調で話しかけてきた。
どうやら、篤紀がうわの空だったのが気に入らなかったらしい。
「ねえってば!こっちの服とこっち…どっちが似合うかな?」
華がそう言い両手に抱えているのは、シルク素材の膝丈ワンピースだった。
一方は薄いピンク色でフリルが施されているもの、もう一方は藍色で胸元の切り替えが特徴的なものだった。
色白で細身の華にはどちらもよく似合いそうだった。
「華なら…どっちでも似合うよ。」
思ったことを素直に答えた篤紀だが、華にとってはイマイチ腑に落ちない回答だったらしく、不貞腐れた様子で再び綺麗に陳列された服を選びはじめた。
服のことよりも篤紀としては気になって仕方のないことがあった。
最後に華を抱いた日、華はもう旦那とは会っていないと篤紀に話した。
その時左手の薬指にしていた指輪は確かに外されていた。
しかし今日、再び指輪が華の手に光っている。
「お前、旦那とはさ…」
篤紀が真相を確かめようとした時に、華が藍色の方のワンピースを自分の身体にあてがった。
「やっぱりこれにしよ!」
そう一言だけ言うと、お会計へと向かってしまった。
結局、篤紀は華に何も聞くことができなかった。