焦燥
その声を聞いて、私はやっと気がついた。
男のわりには2音だけ高くしたような、いや…金属音のような声だった。
「…西浦?」
私の反応がなかったので不安になったのだろう。今度は先程よりも少しだけ小さな声で篤紀は詩衣に呼びかけた。
「…久しぶりだね!」
あまりにも急で現実を受け止めるのに必死だった詩衣にとっては、その台詞を絞り出すの
が精一杯だった。
それでも詩衣は、心の片隅にずっと前からおき忘れていた感情が身体のなかから沸々と湧
き出てくるのを感じずにはいられなかった。
ー後藤篤紀は、西浦詩衣にとって初恋の相手だったー
いや、訂正しよう。10年前…当時は自分が篤紀に恋をしているとはあまりにも幼く自分自身気づいてなどいなかった。
つまり、今にして思えば詩衣が恋を意識し始めたのは篤紀が最初の相手だった。
「元気にしてたか?小学校以来だな!」
こっちの気持ちがまだついていかないのを他所に、篤紀は右手で髪をかきあげながら話しはじめた。
やっとのことで詩衣も少し落ち着き、それから二人はお互いの近況を報告しあった。
その間中、詩衣は懐かしさと…ときめきを感じずにはいられなかった。