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微笑みの詩  作者: ここたそ
第二章
39/57

(閑話休題)12月23日

篤紀と詩衣が別れる前日の、ちょっとしたエピソードです。

本編32話の前日の話になります。


12月23日午後8時50分。


最後の客が帰り、店を閉めようとしている時だった。


「詩衣、今日この後時間ある…?」


千里が足早に詩衣の元に近寄り尋ねてきた。


詩衣は少々悩んだ。

今日はこれから特に予定は無い物の、明日から篤紀との北海道旅行だ。

朝の7時と、早い時間に待ち合わせしているため、今日あまり遅くなるのは避けたかった。


ハッキリとした答えを出せずにいる詩衣に、

千里がそっと耳打ちしてきた。

「実はね…、星野さんいるじゃん?なんか昨日、彼氏と別れちゃったらしいんだよ。それでね、励ます会をやろうってことになって人数集めてるの。勿論、本人にはただの飲み会って名目なんだけどね…。」


━成る程、今日一日、星野さんが元気ないのはそういう訳だったのか。


星野さんは5年目の先輩で、可愛らしい笑顔とミディアムロングのパーマが特徴の先輩だ。

面倒見が非常によい先輩で、千里も詩衣もよくお世話になっている。



「あまり遅くまではいられないけど、大丈夫だよ。」

あまり親しくない人だったら断っただろうが、他ではない星野さんだったため詩衣は千里にこう告げた。




その30分後に、店から徒歩5分くらいのところにある西新宿のチェーン店の居酒屋で『星野さんを励ます会』が始まった。


もつ鍋が美味しいことで有名なその店は、会社帰りのサラリーマンで賑わっていた。


結局、参加者が6名程だったその会は、お酒が進むうちに恋愛トークへと発展していった。


「彼氏がさ…、他に気になる子が出来たんだって…。最初はさ…それでもいいかと思ったんだけど…ひっく…辛くなってきてね…うぅ…別れることにしたんだ…えぇぇん…。」


星野さんが、別れた原因を自ら語りだした。やや絡み酒のせいか、あまり感情移入し難かったが、話の内容自体は今の詩衣の心を突き刺すものがあった。


「でも…それでもいいから、相手の心の中に別の誰かがいてもいいから、繋ぎとめたいとは思いませんか…?」

詩衣は星野さんに尋ねた。


「最初はね。」

星野さんはビールをぐびっと口へ運び、続けて話し始めた。


「でも、今は違うかな。」


━違う?…どうして?


詩衣は胸に抱いた疑問を解消したく、星野さんに話すことにした。


「今の私の状況…、星野さんに似てるかもしれません。」


篤紀のこと、華のこと、詩衣は一通り星野さんに説明した。

その隣では、千里が心配そうな面持ちで詩衣を見つめていた。


「成る程…、詩衣やるわね…。」


そう言うと、星野さんは店員を呼びビールを追加した。

店員が「かぁしこまりましたぁあ!」とやたら元気な挨拶で注文を取り終えると、星野さんは視線を再び詩衣に戻した。


「けどさ、それで本当に幸せ?」


胸の奥がチクリと痛んだ。


「百歩譲って、詩衣がそれで満足だとしても相手は本当に幸せなのかな…?私はね、相手の幸せを一番に考えてあげたいと思ったんだ。例え行き着く先が私ではなかったとしても。そして願わくは、私の幸せを一番に考えてくれる人と人生を共に歩みたいんだ…うぇぇ…。」


星野さんは、吐き戻しそうになったのか口元を手で抑えだした。

すかさず、千里が背中を摩り、ビニール袋を差し出した。


「うぅっ…千里、ありがとう。」


星野さんは、全部吐き出しスッキリしたのか顔色が良くなった。

心なしか、瞳も先程までと違い、どこか輝きを帯びているように詩衣には見えた。


「なんてね…。本当はもう後悔してたりもする。別れなきゃよかったかもって…。だって想像以上に寂しいもん!」


そう言い残し、星野さんはトイレへ駆け出した。



翌朝、詩衣はまだ酒が残っているせいか、重い身体にムチを打ち、篤紀との待ち合わせ場所である東京駅へと向かった。



篤紀と一緒にいるだけで幸せだと思った。

他には何もいらないと思った。

篤紀との時間が私の全てだった。


━━━でも


でも篤紀は、今本当に幸せなのだろうか?



待ち合わせ場所である改札口に近づくと、遠くに最愛の人の姿を見つけた。



詩衣は、心にそっと鍵をかけ、篤紀の元へと駆け出した。






星野さん…グッジョブです!

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