正直
「え?カラオケ…?どうして」
詩衣は至極当然のことを二人に尋ねた。その返答は実にあっさりとしたものだった。
「本当はさ、遊園地とかいってパーっとって方が気分晴れるしいいかなと思ったんだけど…今日元旦だよ?大抵のアミューズメントパークは休日だよね。ここら辺でやってる店なんてスーパーくらいだ。ならいっそのこと、年中無休のカラオケのお世話になろうかと思ってさ。」
そう話す健人の隣で、美奈子が相槌をうっている。
健人は内面こそ問題があるものの、外見はなかなかの美男子だ。
美奈子と健人が並んでたつと、目を引くものがある。
詩衣ですらそう思うのだから、第三者から見たら芸能人カップルの様にでも見えるだろう。
一方詩衣は、不細工ではないものの美人でもない。よくいえば…雰囲気美人という言葉がお似合いだろうか。
詩衣は少しだけ自分が情けなくなった。
店内を見渡すと、皆考えることは一緒なのだ
ろう。
何組か既に待っている客が伺える。
足早に健人が受付を済ませ、戻ってくると同時に「20分待ち」と、詩衣と美奈子に告げた。
入り口のロビーは、待合室も兼ねていて、簡素な円卓と椅子が置かれていた。
3人は、一番入り口に近い円卓に陣をとり腰を下ろした。
すると健人は息を吐く暇もなく、直ぐ様喫煙所へと向かった。
残された二人は、何となく手持ち無沙汰になり雑談をし始めた。
「そういえば…美奈子ちゃんって今どこに住んでるの?高校卒業後は仙台の大学に行ったって聞いてるけど…。」
詩衣の質問に、美奈子は答えた。その口調は
何となく歯切れの悪いものだった。
「あ~っと…実は私も東京に住んでるんだよね…。本当はそのまま仙台に就職しようかと思ってたんだけど、内定でなくてね。…唯一内定が出た東京の会社に就職したよ。」
「…もしかして美奈子ちゃんさ…」
「うん?」
美奈子はニッコリ微笑み、詩衣の瞳を真っ直ぐ凝視した。
「今日、篤紀に頼まれて私の所に来た?」
一瞬、呆気にとられた表情を浮かべたものの、いつもの美奈子に戻るのに対して時間はかからなかった。
「…気づいてた?」
言い終えると、ペロッと舌を出した。
「…今気づいた。」
お返しに、詩衣も舌を出した。
「美奈子ちゃんも東京に住んでるんだったら、健人さんと篤紀と会ってたとしてもおかしくないかなぁって…。」
「相変わらず感がいいのね、詩衣は。」
少々呆れ気味の表情で言った後、美奈子は続けた。
「東京に就職してから、殆ど知り合いもいないし…。割と健人のバーに入り浸ってた時期があったんだよね。そこで篤紀くんとも小学校以来の再会を果たしたんだけど。だから、詩衣のことも聞いてたんだよね。あ、二人が別れたのは本当に昨日の健人からの電話で知ったんだけど…。だから、正確には詩衣の様子見に行くように頼まれたのは健人なんだけどね、流石に一人じゃ行きづらかったみたいで私のこと誘ってきたって訳。」
「やっぱりね…。変だとおもったんだよ、幾ら元カノとはいえ、いきなり『詩衣って知ってる?』なんて電話しないって。」
詩衣は淡々と、思ったことを口にした。
「それにしても篤紀…、美奈子ちゃんが東京にいるの知ってたなら私に教えてくれてもいいのに。」
「まあ、これからはこうしてたまには遊ぼうよ!ねっ」
少々怒り気味の詩衣をなだめるように、美奈子は言った。
でも本当は、詩衣の心情は別のことでいっぱいいっぱいだった。
篤紀のその優しさが、今の詩衣には辛かった。
無論、それを口に出したりはしないのだけれど…。
そうしているうちに、何時の間にやらカラオケ部屋があき、詩衣たち3人は204号室へと向かった。