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微笑みの詩  作者: ここたそ
第二章
36/57

傷心

詩衣、健人、美奈子を載せた車内で、健人はステレオから流れる洋楽に合わせ口笛を吹き、美奈子は手鏡を見ながら妖艶な黒髪を整えていた。



このままではいつまでたっても自分の疑問が解消されることはないと悟った詩衣は、率直に2人に疑問をぶつけてみることにした。


「ねぇ、どうして2人が一緒にいるの?…知り合い?」


「あら…詩衣忘れちゃった?私達、高校の頃付き合ってたじゃない?」


美奈子が髪を整える手を止め、詩衣に答えた。


「付き合ってたじゃない?ってそんなことサラッと言われても………あっ…」


「ふふ、思い出したみたいね。」



━━━完璧に思い出した…。


あれは、今から8年前の詩衣が高校3年の夏休みの出来事だった。

夏休みとはいえ、進学を希望する生徒は登校し補修を受けるという、悲しいがな高3の使命を果たしていた。


詩衣達の高校だった、城西高校は夏期講習の間、普段のクラスとは関係なく、センター試験で各々がとる科目に合わせた特別クラスを編成していた。

詩衣と美奈子は、その特別編成クラスが一緒だった。

臨時のクラスとはいえ、小学校の時以来同じクラスとなった2人は、休み時間中おじゃべりに花を咲かせた。


その際に、美奈子の恋愛話を聞いたのだがその内容が健人のことだった。

何でも…

「春にね、駅前でナンパされて付き合ったんだけど、そいつが浮気してて3ヶ月足らずで終わっちゃったわ。いい?詩衣、北高のササケンには気をつけてね!あたし知らなかったけど、あいつ女癖悪いってこの辺りじゃ評判だったんだね。一夏の恋ならぬ、一春の恋だったわ。全く!」


と言う様な内容だった。



最も、似たような話(…というより愚痴?)を他にも数人から聞いたことがあるため、すっかり詩衣の脳内からは忘れ去られていたのだが…。


やっと2人の関係に合点がいった詩衣を確認し、美奈子はまた話始めた。


「まあ、二股かけられてるって知った時はムカついたけどさ…、もう今となってはどうでもよくなって今でもたまに健人とは連絡取り合ってたんだよねー。」


「お前、そんなのもう時効だ!時効!」


ずっと黙っていた健人が、居心地が悪くなったためか、苦し紛れな言い訳をした。


そんな健人のことは無視し、詩衣はもう一つの疑問をぶつけた。

「2人の関係は分かったけど…、いったい今日はどうしたの?何か私に用事あった?」



この質問には、健人が答えた。

先ほどの戯けた様子とは打って変わり、こんどはやや神妙な面持ちを見せている。



「昨日さ、北高の同窓会が会って…その、篤紀に会ったんだけど…、そこで2人が別れたこと聞いてさ…」


チクリと詩衣の胸が痛んだ。


「あ…篤紀も…帰省…してたんだね…。」


それだけ言うのが今の詩衣の精一杯だった。


そんな詩衣を見て、不安そうな面持ちを浮かべながら健人は頷いた。


「うたちゃん大丈夫か、俺心配になってさ…」

「私に夜中だって言うのに電話してきたのよ。」

重い空気を断ち切るかのように、美奈子が話に割って入ってきた。


「いきなり、城西高のうたえって子知ってるか?連絡先教えろって言い出して…、今度は私の友達に手を出すつもりかと思って全部問いただしたのよ。」


ふーっと美奈子が息を吐く。全て吐き出すとまた話を続けた。

「そういうことなら、心配だし直接詩衣の家を訪ねてみようって私が提案したのよ。…しかし、あの真面目な篤紀くんが…ね」


美奈子は詩衣と小学校の時同じクラスだった。

つまり、篤紀とも同じクラスだったわけで、篤紀が二股まがいのことをしたのが信じられない様子だった。


きっと別れた原因を、篤紀が全て自分のせいにし健人に話したのが、美奈子に伝わったのだろうと思い、詩衣は慌てて口を挟んだ。


「美奈子ちゃん!違うの!篤紀は悪くないの…その、私、全部納得してたし…。第一、別れようって言ったのも私で…。」


詩衣の瞳からは自然と涙が零れていた。

━心の傷はいつ癒えるのだろうか…。失恋にも時効があればいいのに。



「詩衣…」

「うたちゃん…」


そんな詩衣を心配し、2人が声をかけたのはほぼ同時だった。


「詩衣、恋の傷を癒すのは新しい恋よ!次は篤紀くんやこのバカみたいな奴とは正反対の素敵な人を見つけるのよ!」


「お前…、本人を前にしてバカとか言うなよ!」


夫婦漫才みたいな2人のやりとりに、詩衣の心は少しだけ軽くなった。


「そっか…、美奈子ちゃんも健人さんも私のこと心配して来てくれたんだね…。ありがとう。」


「そんなこと気にしないで!あっ着いたみたい!」


美奈子のその一声により、詩衣が場所を確認すると、そこは郊外にあるカラオケ店だった。














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