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微笑みの詩  作者: ここたそ
第二章
35/57

出発

今の私は抜け殻だ。


あれから私は、ぼんやりととした思考で、暦ばかりを数えている。

篤紀と会えなくなってから、もう何日も経っているような気がしたが、何度数えてもまだ1週間しか経過していなかった。



1月1日。元旦。


日本中が街の至る所でお祝いムードを醸し出し、1年で最も活気が満ちているこの日、詩衣は青森の実家に帰省していた。



昨夜の夜遅くに、実家に到着した後すぐさま布団に潜った。


日付が変わり、昼過ぎになっても起きる気力など湧かず、詩衣はまるでアザラシかトドのようにずっとグダグダしていた。



年末年始の忙しい時期に、サービス業にはあ

るまじき5連休がとれたのには理由がある。



去年(…いや、今日は元旦だから正式には一昨年か)、篤紀と12月25日に付き合い始め、

それから一週間後の2人で初めて迎える正月は、当然だが詩衣は仕事だった。


篤紀だけ、青森に帰省したのだが、その際、来年は一緒に帰ろうと約束したのだ。



律儀な詩衣はそんな口約束を信じ、11月始め

のうちから休みを希望していた。

おかげで暫く休みがまったくない殺人的スケ

ジュールをこなす羽目になったのだが…。


結局、1週間前、篤紀と別れたことにより、この正月休みは全く意味のないものになってしまったわけだが。




一緒に帰りたかったな…。

詩衣は内心でそんな未練たらしいことを考えていた。


未練たらしくたって構わない、今はまだ篤紀

のことを忘れたくない…篤紀のことだけ考えていたい。

そんなセンチに詩衣が浸っていると、まるで現実に引き戻すかの様に「ピンポーン」と、

何とも間抜けなチャイムの音が聴こえた。



「…あらあら…まあまあ!」

下から母親の声が響いている。

どうせ、お母さんのお茶友達か何かだろうと思っていると、下から聴こえてくる声は突然

大きなものとなった。



「詩衣ーー!お客様よー!!」

自分への来客に驚きを隠せなかったものの、慌てて詩衣はクローゼットから服を引っ張り

出し、今身に纏っている部屋着を脱ぎ捨てた。





1階に降りると、そこには意外な人物が詩衣を待っていた。


「…?!健人さん!?」


意外感を露わにしている詩衣の耳に、健人の物とは思えない女性の声が飛び込んできた。


「久しぶりね、詩衣。」


「…美奈子ちゃん!」



健人の横には、健康的な小麦色の肌がよく似合うパッチリとした目が印象的な美少女が立っていた。






彼女━━━安原美奈子は、詩衣と小学校から高校まで同じという非常に関係が深い友人の一人だ。

とは言え、クラスまで一緒だった小学校の時はよく遊んだりしたものの、別のクラスとなった中学•高校は若干疎遠になっていた。


疎遠になったといっても、個人的に遊びに行くことがなくなっただけで、校内ではよく話したりする親しい友人であるのに変わりはないのだが…。



━━━しかし、


なぜ、健人さんと美奈子ちゃんがここに??

そもそも2人は知り合い??

て、いうか何のために来たの??



そんな様々な詩衣の疑問は完璧に無視するかの様に、健人が喋りだした。



「よし!じゃあー行こうか!」


はっ?行くってどこに?


「そうだね、ほらー詩衣も早く」


そう言うと、美奈子は詩衣の手をとり、外へと連れ出した。


外には車が一台停まっていた。

白のインテグラだった。健人の車らしい。


「ほらー乗って乗って!」

と言う健人に促され、詩衣はその車の後部座席に乗り込んだ。



そして、車は何処かに向かって走り出した。


「出発ー!!」

車内に健人の声が響き渡った。









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