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微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
34/57

到着

午後7時36分。

二人を乗せた新幹線は東京駅へと到着した。



昨夜…というか今朝、詩衣から思いがけず別れを切り出された後、30分くらい詩衣は泣き続けた。

泣き疲れたためか、詩衣は口数少なくそのまま眠りにつき、篤紀もまた詩衣が寝たのを確認した後、布団に潜った。

シーツはあまりに冷たかった。

考えてみれば、詩衣と一緒にいて、別々の布団で寝るのは今回が初めてだった。


窓から日差しが差し込み、朝を迎えると2人は何事もなかったかのように、朝食を取り、予定通りのコースである五稜郭タワーに登り、トラピスチヌ修道院を見学した後、帰路に着いた。


いや、本当は何回も華の離婚が決定したら二度と会うつもりなどないことを詩衣に伝えようとした。


しかし、言い出せずにいるうちにあっという間に東京駅に到着してしまった。


「…ここから一人で帰れるか?」

詩衣は黙って頷くだけだった。


「…もうこれで本当にお終いなんだよな?…俺…」

言いかけたところで、詩衣が遮った。


「篤紀、篤紀のせいじゃないの。私は…例え篤紀が華さんのこと好きだったとしても関係ない、私の側にいてくれるならそれで十分って思ってた…でも」


詩衣の声に力が入る、目尻には一滴の雫が光っている。

「でもね、本当は限界だった。辛かった。心の片隅で悲鳴あげてたのに、私気づかないふりしてたの。篤紀と一緒にいられる時間が余りにも幸せだったから…。だから、篤紀のせいじゃない。私が弱かったの…。恋愛って本当はもっと楽しいものだって思ったから…。」


「詩衣…」


詩衣に対して投げかける言葉が見つからない。こうしている間にも刻一刻と別れは近づいているのに…。



「あっ!でも…」


幾分か明るい口調で詩衣が言った。

しかしあくまでも、先程と比べて明るいだけで、普段の詩衣からしたら暗いのに違いはないのだけれど。



「別れても友達とか…そういうのは無理…かな。」


「…わかった。…それじゃあな。」

最後の別れは敢えて自分から切り出した。


これ以上、詩衣と一緒にいると名残惜しくなってしまいそうだったから…。

篤紀がこの一言を放った後の詩衣の表情は、今までみたどんな詩衣の表情よりも、篤紀のこころを鷲掴みにし締め付ける物だった。


「…ばいばい。」

人混みに掻き消されてしまいそうなくらい小さな声で詩衣は呟くと、前に向かって歩き始めた。



在来線の改札を抜けるまでの間、篤紀はその後ろ姿をずっと眺めてた。


胸にチクりと傷みが広がる。


━━━どうやら俺は、自分が思っていたよりもずっと、ずっとこの女性のことを好きだったみたいだ。



もし、華と再開していなければ何か違っただろうか?

もし、華より先に詩衣と出会っていたら何か違っただろうか?

もし、こうなる前に華と別れていたら何か違っただろうか?



結局、恋愛なんてタイミングが全てなんだ。



詩衣の姿が完全に見えなくなった時、篤紀の心の中には、虚無感や脱力感とも違う…何と表現していいのか分からない感情が溢れかえっていた。


その感情に蓋をするかのように、篤紀はポケットから携帯を取り出していた。



「…もしもし、華?」


数時間後、篤紀は何かを吹き消すかのように必死で華を抱いていた。





一応ここで一段落です。

次からは第2章という形にしようかと思っています(章設定できればですが…)

新キャラも出してより複雑な恋愛模様を書こうかと思ってます。

あ、全て予定です…(汗

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