(閑話休題)ある日の二人
ちょっとした小話です。
詩衣と篤紀のちょっとしたエピソードを書いてみました。
読まなくても特に本編に差し支えはありませんが、上手くいっていた時の二人の関係がわかるかと思います。
「はい!篤紀!バレンタイン」
ピンクの包装紙に綺麗に包まれた、手のひらくらいの小箱を差し出した。
「うた、ありがとう!」
ニカっと笑い、篤紀はその箱を眺める。
眺め終わると篤紀は、その包装紙を丁寧に剥ぎ取り、箱を開いた。
中の規則正しく整列しているトリュフを確認すると、今度は少し照れたように笑った。
「美味しそう!…なぁ、うたが食べさせて?」
グイッと詩衣の顔を覗き込んできた篤紀に、思わず詩衣は赤面してしまう。
旗からみたら二人とも茹でダコみたいで、少し滑稽だ。
昨夜仕事終わりに眠い目を擦りながら作った。
料理はどちらかといえば得意な方であるが、手作りチョコを作るのは初めてなので、正直味にはあまり自信がなかった。
実は見た目がイマイチ気に入らず一度作り直している。
詩衣が帰った後にでも、一人で食べて欲しいと思ったのだが…、どうまこの状況はそれを許してくれそうにない。
そんな詩衣の姿にしびれを切らした篤紀は、詩衣の目をじっと見つめ、口を開いた。
「うた、あーん。」
何とも可愛らしい篤紀の姿に詩衣は負けた。
トリュフを一つ手でつまみ、篤紀の口の中へと運んだ。
篤紀はモグモグと口を動かす。トリュフを口内の熱でゆっくりと丁寧にとかしている…そんな感じだ。
暫くしてその動きが止まったと思ったら、篤紀が両手で詩衣のこめかみをぐいっと挟み込みように包んだ。
そしてそのままキスをした。
ほんのり苦くて…だけど優しく甘いキスだった。
「…凄く美味しかった。」
そう一言詩衣に告げるともう一度篤紀は、詩衣の口を塞いだ。
苦いけど甘い…チョコレートって恋に似てる、そんなことを詩衣は考えた。
それはきっと、篤紀も。
その後二人はトリュフを食べたり、キスしたりを繰り返した。
幸せな時間が二人の間に流れていた。