表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
微笑みの詩  作者: ここたそ
第一章
24/57

道程

「倒産…?」

華が言ったその単語を篤紀は鸚鵡返しした。ただし語尾は上がり調子だ。

よく耳にする単語ではあるが、今ひとつ実感がわかない。

それを元カノが口にしているのだから、殊更だ。


「オリンカップル社って聞いたことない?数日前からニュース番組で度々報道されてる…。」

「あぁ、知っている。…もしかして、お前の旦那が経営している会社が、その?」

「…うん。」

華の声は相変わらず、活気のないものだった。





華の旦那である、圭と篤紀は面識がある。と

は言え、頻繁に顔を合わせていた訳ではない。

大学1年の時、華と健人が所属していたサー

クルに篤紀が数回、二人に付き合わされ、連れていかれたことがある。

名ばかりのスノーボードサークルで、それでも冬の間は、長野の雪山に行ったりもするが、夏の活動がない期間はほぼ毎週飲み会をし、馬鹿騒ぎするだけのサークルだ。

圭は、3人より2学年上のそのサークルの部長だった。

こういう経緯で、篤紀は圭と挨拶を交わすくらいの関係ではあったものの、華や健人に比べると特に親しくはなかった。


だからこそ、華と圭が浮気していると知った時には、ぶつけようのない悔しさがあった。



その圭の会社が、経営破綻したときき、篤紀は内心では「ざまあみろ」と思った。

勿論、あくまで内心でだが。



「それで、圭が…、人が変わったみたいにお酒ばっかり飲んでて…。暴れてて、手が付けられない…。」


これ以上関わってはいけない気がした。

篤紀の本能がそう警鐘を鳴らしている。

しかし、篤紀はこんな状態の華を放っておけるほど、無情ではなかった。


良くも悪くも、それが篤紀だ。


「…お前、今どこにいるの?お前の旦那が、子供にまで暴力ふるったら危険だから早く避難しろ。」

篤紀は、最もなことを華に告げた。


「昨日…、何回か殴られて…、今日の朝私の実家に子供と2人で来たの…。今は母が子供見ててくれて、私は斜め向かいの公園…。」

いつもは、ハキハキと喋る華からは想像もできないほどの、静かな口調だった。


旦那の側に、二人がいないことがわかり、篤紀は幾分かホッとした。


「…篤紀…」

「どうした?」

華が自分の名前を呼んでくれるのは、久しぶりにだった。

こんな時なのに、そんなことに嬉しさを感じずにはいられなかった。


「…助けて。」


この一言で、篤紀の頭の片隅にあった詩衣のことは完全に吹き飛んでしまった。


「今すぐ行く。…華、そこで待ってろ」

篤紀が華の名を口にするのも随分と久しぶりにだった。

昔は毎日のように口にしていたそのフレーズを、呼ぶことがなくなってから、しばらくは寂しさを紛らわすので必死だった。

今、再びそのフレーズを口に出したことに、篤紀は確かに喜びを感じていた。


華の実家は東京の郊外にある。

付き合っていた頃、華を家まで送るとき、よくその公園で二人は話をした。

何回も口づけを交わした。


その場所へと、篤紀は急いだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ