波乱
季節は移り変わり、日差しが頬を照りつける季節となっていた。
クールビズが推奨され、サラリーマンたちが上着を羽織る機会は、以前と比べ、愕然と少なくなった。
と、いう訳でスーツが売れない。
詩衣の店は閑散期をむかえていた。
「こうなってくると、新聞とりはじめたの有難いね。することないもん。」
最初は文句を言っていた千里も、流石に暇には勝てないのか、休憩室で新聞を読みふけっている。
その意見には、詩衣も同調した。
「本当暇だね。でも、新聞読むようになってから、結構客との会話に困らなくなったかも。接客トークだけじゃなくて、時事ネタも話せるって案外大切かも。」
千里は新聞の中から、今日の主なニュースを声に出して読みはじめた。
「どれどれ、今日は…おっ!コジロー昨日の試合で本塁打…あら!オリンカップル社が経営破綻…」
愉快に話す千里を見つめながら、詩衣は篤紀のことを考えていた。
一時期、「はな」という女性のことで、篤紀と気まずくなってしまったが、時間がたつにつれ、自然と元通りの関係に戻っていった。
やはり時間は偉大だ。
むしろ最近はお互い結婚を意識するようになり、将来のことを話したりもしている。
篤紀の未来予想図に、自分も加わっていることがたまらなく嬉しかった。
それもこれも、いつも詩衣の話を聞いてくれる千里のお陰だ。
そんなことを考えながら、何となく千里を見つめてた。
「ちょっと!聞いてるの!」
ぼんやりとしている詩衣に痺れをきらした千里が呆れたように言ってきた。
「ごめん。千里のお陰で篤紀とうまくいって、仕事にも集中できるし有難いなあって。」
突然の褒め言葉に、千里は頬を赤らめた。
「もぉ何言ってるの!そぉ仕事よ仕事!」
二人は休憩を切り上げ、仕事へと戻っていった。
何もかも上手くいっていた。
この数時間後、篤紀の携帯に一本の電話がかかってきた。