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予感
後藤篤紀は、飯田橋にある医療器機メーカーに勤めていた。
社員は約300名ほど。その中でも営業を担当している篤紀は、日々都内の医療機関に自社商品の売り込みに通っていた。
その日は9月も下旬だというのに、やけに蒸し暑い日だった。
−のびてきた髪の毛のせいだろうか、地元の青森じゃ考えられない暑さだな−
そんなことを考えながら、篤紀は新宿にある小さな個人病院へと向かっていた。
新しく開発された心電図の導入をあっさりと断られてしまい、踏んだり蹴ったりだなと思いながら病院を後にした時、ふと自分の革靴がだいぶ磨り減っていることに気づいた。
どこかで靴を新調し、今日はそのまま帰宅しようと思った。
…ふと篤紀はあることを思い出した。
昨日の同僚の話で、新宿にある若者向けのスーツ店に行ったがなかなか雰囲気がよく価格もお手頃でラッキーだったと喋っていたことだ。
すぐさま篤紀はその同僚に電話をし、そのスーツ店の場所を事細かに聞くと、少しだけ駆け足でその店を目指した。